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第26章 慶子の上京

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 慶子の今まで温室で育ってきた脳内に、かつてないほど、眠っていた未知への探究心に火が付いた。今田純子という女性をものすごく知りたくなった。そう思うと胸がざわついて落ち着かなかった。

  *

 慶子は最終の授業が終わったら、サークル室へ向かって教室を飛び出した。順風満帆な慶子の運命が波乱万丈の人生に変わっていく第一歩だった。軽い気持ちで入って、辞めればいい、と言う慶子の思いは甘かったことを知らなかった。慶子の飛び込んだ今田純子の愛で満たされた世界は、慶子が生きてきた生活、人生などすべてと比べれば異次元の世界と言えた。純子の愛で満たされた領域に踏み入れた慶子は簡単に辞めることはできなくなっていくことを予想もしていなかった。
 サークル室は大学の敷地内に建つ。RC造3階建。間口5メートル、奥行き5メートルほどの建物である。玄関に入ると、1階は活動をPRするための展示室で、展示室を通って2階の事務室の階段を上がる。階段の前に看板があった。
「われわれは世界を愛で満たすための活動組織あり、それを誇りとする。その誇りは「k区すべて」の職員と住民と共有する幸福である。K区の愛はやがて世界へ愛を発信し、世界は愛で満たされるだろう」と記載されていた。
 次のパネルには「われわれの組織はボランティアの域を超え、広範囲に有償サービスを実践する。その有償サービスをしているのはわれわれの選りすぐりのボランティアの仲間である。その喜びはサービスの感謝である。しかし、感謝を強要してはならない。なぜなら、われわれは感謝されるために活動しているのではないからだ。活動することで、自らの心が豊かになることを自然に受け入れることだ。そのために行動に迷いがあってはならない。
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