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窓野枠

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第28章 人格の統合

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 だから、彼は今田純子を助けるために、優秀な人材を純子の周囲に集める準備を始めた。そんな高橋の願望をいち早く察知したのが今田純子本人だ。彼女の心には自分の目標を成し遂げるために手段を選ばない冷酷な悪魔が存在した。夜の人格・今田潤子だ。昼間は、昼の人格・今田純子が聖人君子のごとく愛を振りまいた。一方、夜間は、夜の人格・今田潤子が裏で画策し人知れず静かにゆっくり慎重に動いた。悪魔のような行いは決して世間には察知できないしメディアで騒がれることもない。その点で言えば、夜の人格・潤子は昼の人格・純子をしのぐ能力を持っていた。その悪魔のような画策は、昼の人格・純子の敵対心をすっかり飲み込み従順になっていたと言えた。敵対することに恐怖を覚え従順になっていたことを昼の人格・純子は認めたくなかった。彼女のほうが優れていることを認めたくなかった。そんな夜の人格・潤子は高橋を授賞式で一目ぼれしてしまった。そのことに気がついた潤子は高橋をストーカーのごとく調べていた。高橋が純子を好きになってくれるよう中学生の頃から画策していた。恐ろしい女、まさに悪魔だ。
 夜の人格・今田潤子は京王大学での授業を終えた昼の人格・今田純子の後を引き継ぎ活動する。彼女の妖艶な力は暗くなった世界で輝きを増した。暗闇だから光る魅力に周囲は取り込まれていく。彼女はそういう状況を作る天才的な悪魔だった。
 彼女は甘いアメを周囲の人間に与える。そうやって取り込んできた。高橋源三郎も潤子にまんまと取り込まれていくことに気が付かない。
 潤子は高橋と向かい合う。
「さあ、食べてみて…… どう? 気に入った?」
 潤子はアメを相手の口にねじ入れ食べさせた後、必ず聞く問い掛けだ。
「ねえ? 気に入ってくれたの?」
 相手が3個めのアメを食べたくて口を開けたとき、潤子は容赦なくその口の中へ人差し指をねじ入れる。意外な行動に驚いた高橋が目を大きく開けて純子を凝視する。
「あなた、ただでまたアメをなめるつもりなの? だめよ、美味しさに見合うだけの奉仕をしなければ…… あげられないわ」
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