タタリ神。

Musk.

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タタリ神。

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【祟り神とは畏怖され忌避されるものであるが、手厚く祀りあげることで強力な守護神となる神々である。恩恵をうけるも災厄がふりかかるも信仰次第とされる。】


「……だってさ。」
「要するにあれだろ?よっちゃんみたいな者だろ?よっちゃんも褒めると何でもしてくれるけど、バカにすると本気で殴ってくるじゃんか。」
高校生にもなってそんな解釈で良いのか。俺は青ざめた顔で呟いた真を真顔で見つめた。

「……祟り神をよっちゃんに例えていいのかよく分からないけど。まぁ扱い注意という事は当たってるかな。」
聡はそう言って静かに辞書を閉じた。


「……で、どうするのさ。俺的には流石に神様の領域には手を出さない方がいいと思うけど。」
「俺も聡の意見に賛成だよ!よっちゃん怖えよ!」
よっちゃんの恐怖に縛られている真は無視して俺は聡と向かい合った。

「でもさ、もうこのぐらいしないとこの部活無くなっちゃうよ?新聞部だって取材来なくなっちゃったし。」
そう、俺達は今廃部の危機に直面している。

ホラー研究部。俺達3人しか部員がいない超マイナーな部だ。

「そうかな?もう少し皆が興味を持つ内容にすればいいと思うけど。」
「そう言って何ヶ月経つと思うんだよ!もう学校の七不思議も調べ終えたし…。」

うーん、と聡は考え込んだ。

「……扱い注意か。失礼の無いように取材をすれば大丈夫かな?」
「そうだよ!そんな怖がらなくたって大丈夫だって!」
「えっ!?聡!?」
真は青ざめた顔で聡の肩を掴んだ。

「何言ってるんだよ!神様だよ!?どう考えても危ないじゃないか!」
「でも陽太の言う通りそのぐらいしないとこの部活は……。」
「かもしれないけどさ……!」
「ああ、もう!本当に真はビビりだな!これ以上言うと明日からビビりって呼ぶぞ!」
不名誉なあだ名を付けられたくないのか真は不満そうな顔で黙った。

「でも祟り神って言ってもどこにするんだ?流石に平将門とかは俺も嫌だぞ。」
「流石の俺も日本三大怨霊には手を出さないよ…。俺の田舎にさ、祟り神が祀られているんだよね。」
「陽太の田舎に?」
「そう。蛇の祟り神みたいでさ。」
「蛇か…楽しそうだな。もうすぐ夏休みだし、遊びも兼ねて取材しに行くか!」
「よし!決定だな!」
俺は渋る真をよそに、部活スケジュールに予定を書き込んでいった。




「わぁ、ここが陽太の田舎か。…何も無いなぁ。」
「おい、真!馬鹿にするなよ。」
「確かに何も無いけど、空気が綺麗だしいい所じゃないか。オオクワガタとか居そうだし……。」
聡は目をキラキラさせながら辺りを見回した。

「とりあえずおばあちゃん家に行こう。散策はその後だ!」
俺達は荷物を持つと広がった一本道を歩き始めた。



俺は一件の古い家の前に立つとゆっくり戸を開けた。

「おばあちゃん!陽太だよ!」

その声を聞いて奥からゆっくりとおばあちゃんがやってきた。

「陽太、大きくなって。後ろの2人がお友達かい?」
「うん、こっちの眼鏡が聡で、こっちの痩せっぽちが真。」
「はじめまして、よろしくお願いします。」
「痩せっぽちって……。あっ、よろしくお願いします。」
「まぁまぁ、玄関で話すのも何だし。奥に入ってゆっくりしてね。」

俺達はおばあちゃんに言われるがまま奥へと入って行った。今回の旅行……もとい調査はおばあちゃん家に寝泊まりする事になっている。古いけど広々していてゆっくり休める家だ。


「お茶持ってくるからここで座って待っててね。」
俺達は居間に通された。背負っていた荷物を降ろすと各々座り込んだ。

「良かったらこれも食べて。」

おばあちゃんが麦茶と一緒にスイカも出してくれた。喉が乾いていた俺達はお礼を言うと勢いよく食べ始めた。

「そんなにがっついたらお腹壊すよ。…それにしても陽太久しぶりだねぇ。本当に大きくなって。」

おばあちゃんは優しい目で俺を見た。何だか恥ずかしくなった俺は咄嗟に話題を変えた。

「おばあちゃん、今日はね、ただ遊びにきた訳じゃないんだ。蛇神様の取材をしたくてね。」
俺が蛇神様と言った直後だった。おばあちゃんの顔から笑みが消え、強ばった顔で見つめてきた。

「なっ…何を言ってるんだ。蛇神様は祟り神様だ。むやみに近付いちゃいけねぇ。」
おばあちゃんの剣幕に黙々とスイカを食べていた2人も顔を上げた。


「分かってるよ祟り神様だって。だから失礼の無いようにお参りしながら取材しようと思う。地元の人もよくお参りに行くでしょ?そのぐらいいいじゃないか。」
「しかし………。」
「久しぶりに田舎に戻ってきて挨拶しない方が失礼なんじゃないの?」
俺の言葉におばあちゃんは黙ってしまった。

「………あの、」

その沈黙を破るように聡がおずおずとしながら声を上げた。

「あの、良かったらどうして蛇神様が祟り神様になったのか教えていただけませんか?」
確かに気になる、俺は頷くとおばあちゃんに催促した。


「…………蛇神様はね、元々は村の山に住み着いた大蛇だったんだ。」
「村の山って…蛇神様の祠があるあの山?」
「ああ、そうだ。」

おばあちゃんは静かに話し始めた。


「それはかなり昔……私が生まれる前の話だ。どこからか現れた大蛇が山に住み着いたんだ。初めは恐ろしい大蛇に村人達は恐れおののき退治しようなんて話も出た。しかしいざとなると皆臆病風が吹いてね。結局重い腰をあげるものは誰も居なかったんだ。」
「まぁ大蛇相手じゃ怖いよなぁ。」
「そうこうしてるうちに月日も経ち気付けば1年が経っていた。1年間蛇の恐怖に悩まされていた村人達だったが結局何も被害は無かったんだ。」
「何も?」
「ああ。むしろ蛇は狸などの畑を荒らすものを食べてくれたりしてね。畑被害を受けていた村人達は蛇に感謝をしだしたんだ。」
「じゃぁ退治しようって話も無くなったの?」
「ああ。蛇は山から降りては来ないから人間達が近づかなきゃいいだけの話。村人達は蛇の住む山に近付かないよう生活をしたんだ。そして平和に過ごし3年程経った頃、厄介な者が戻ってきたんだよ。」
「厄介な者?」
「ああ、当時の村長の一人息子だ。陽太によく話していたボンクラ息子の清太郎せいたろうだ。結婚に失敗して戻ってきたんだよ。」

勉強しないで怠けてたりすると、よく清太郎になっちまうよ、と言われてたけど…村長の息子だったんだ……。

「当時は離縁なんて大問題だったからねぇ。ましてや女性が戻ってくるならまだしも村長の一人息子が戻ってくるなんて。皆影で笑いものにしてたんだよ。あんなんだから戻されるんだってな。」
「……昔で離縁なんて…相当ダメな男だったんだなぁ。」
「村長の息子だからね、皆面としては言わないけどやっぱり馬鹿にしていてね。清太郎も気付いていたみたいだ。……で、そんな時に大蛇の話を聞いたんだよ。」
「大蛇が山に住んでるって話?」
「ああ、大蛇が山に居るなんて、俺が退治してやる!と一人張り切り始めてな。汚名返上を狙ったと思うんだが。」
「でも蛇を退治されたら村人は困るんじゃ……。」
「ああ、困る。だが村長家族から目をつけられる方が大問題だからな。……それに運良くすれば蛇さんが鼻つまみものの清太郎を食ってくれると思った村人も居たらしい。」

なるほど。村に戻ってきてデカい顔してる清太郎を蛇に退治して貰おうと思ったのか。

「昔も今も小さい村だからね、村人も村長家族以外はガリガリで蛇退治なんて出来そうな奴は1人もおらんかった。だから清太郎一人で退治するのかと思ってたんだよ。」
「ん?一人じゃなかったの?」
「やはり金はあるからね。地方の腕が立つ者を雇って大人数で蛇狩りを始めたんだ。」
「そんな……、じゃぁ蛇は…。」
「ああ、村人達の希望をよそに清太郎が意気揚々と大蛇の首を持って山から降りてきたんだよ。」
「清太郎がトドメをさしたの?」
「まさか。清太郎は木に隠れて安全な所に居たらしい。命を落としたものや四肢欠損した者も居るのに、あいつがしたのは首を持って降りただけだって怒ってたみたいだよ。」

……ああ、いるよな。いい所取りな奴。

「清太郎は蛇の首を見ながら酒を飲んだり、蛇の首を村人達に見せて自慢しながら村中を回ってたみたいだけど……思っていた以上に大きかったみたいでね。その首を見て村人達は神の使いではなかったんじゃないか、と祟を恐れ始めたんだよ。」
「……そんなにデカかったのか。」
「嫌な予感とは当たるものでね、清太郎と一緒に蛇狩りをした者が次々と倒れていったんだよ。お医者様は熱病と判断されたみたいだが今までピンピンしてたものが高熱にうなされながら次々死んでいくのを見て、皆祟りと大騒ぎだったらしい。」
「流行り病ではなくて?」
「一人だけ元気だった清太郎も流行り病だと言っていた。確かに元凶である清太郎が元気なんだから、流行り病だろうと村人達が納得し始めた時に……事件は起きたんだ。」
「事件……?」
「丑三つ時にね、村長の家から恐ろしい叫び声が聞こえてきたんだよ。村人が慌てて見に行くと、村長家族が惨たらしい姿で死んでいたんだ。」

ゴクリ。自分の唾を飲む音がやけに響いた。

「外部から物凄い強い力が加わったのか、内臓・脳みそ・眼球全て飛び出ていたらしい。骨も粉々に折れていて、あんなの人間では絶対に出来ないと騒ぎになったんだ。」
「それってつまり……。」
「ああ、蛇の祟りだよ。大蛇が巻きついて絞め殺さない限り、あんな死に方はしない。」
「ひぃぃ!」
真が情けない声をあげて後ずさりした。

「それから村人達は蛇さんを蛇神様として祀る事にしたらしい。なかなか蛇神様の怒りがおさまらず村人達の間でも熱病に侵されたり、不慮の事故で四肢欠損する者が続出したが、五年程経つと蛇神様は怒りをおさめられ平和になったらしい。」
「五年間も祟りに苦しんだのか……!」
「ああ、それほど蛇神様は村人達を恨んだんだろう。……今のが私が祖父から聞いた話だ。今の話を聞いてもまだ蛇神様を調べようとするか?」
「………………。」

俺達は黙ってしまった。思っていた以上に闇が深かったからだ。真は涙目で頭を振っていた。嫌だと言うことなんだろう。

「どうだろう。正直俺は今の話でますます興味が湧いてしまった。でもやっぱり祟りは怖いし、皆に合わせるよ。」

聡はそう言って俺達を見回した。

「俺は絶対嫌だよ!祟りなんて絶対嫌だ!」
真は涙目でそう訴えた。

どうしよう……確かに祟りは怖い。でもこんな怖い話、食いつかない方が勿体ないんじゃないか?

「……俺はやっぱり取材したい。」
俺がぽつりと言うと真は信じられないという目で見てきた。

「さっきも言ったけど、別に祠を荒らしに行くわけじゃないし。取材と言っても祠を見に行ってその様子を書くぐらいだ。おばあちゃんの今の話と祠の様子だけで充分だよ。」
おばあちゃんはため息をつき話し始めた。

「………陽太がそこまで言うなら。昔からこうと決めたら聞かない子だったからねぇ。だが3つ必ず約束を守ること。これは昔から祠にお参りに行く際に必ず守る掟だ。―――一つ、祠にかかっているしめ縄の中に入ってはいけない。二つ、祠を写真におさめてはいけない。三つ、帰り際決して振り返ってはいけない。」
「その三つが必ず守る掟?」
「ああ、絶対に破るなよ。」
わかった、と俺達はおばあちゃんと約束した。



「明日だな、祠に行くの。」

その夜、俺達は敷かれた布団の上に寝転びながら話していた。

「なぁ、本当に行くのか?祠に。」
「行くよ。真、怖いなら明日留守番してていいぞ。大丈夫、ビビりって呼ぶなんて冗談だから。」
「いや、大丈夫!皆が行くなら俺も行くから!」
「わかった。」

俺は小さいリュックにメモやペンを入れて明日の準備を始めたのだった。





「うわぁ…嫌な天気だな。」

次の日。どんよりとした雲に覆われた空を見た俺はため息をついた。
「日差しが強い方が嫌じゃないか?熱中症になっても嫌だし。」
確かに。俺は聡の意見に同意した。

「さて、行こうか。」
俺達はおばあちゃんに声をかけると祠へと向かった。



「……意外と大きい山だな。」
遠くから見た時はそんなに大きく感じなかったのに。近くで見ると結構大きい山だった。

「飲み物持ってきて良かったな。体調悪くなったら早く言うんだぞ。」
「ああ、聡もな。」
俺達は静かに山を登り始めた。



「………暑い。」
いくら曇とはいえ真夏だ。汗が次から次へと吹き出してくる。

「ジメッとして気持ち悪いなぁ。」
「少し休憩するか?」
「いや、まだ大丈夫。」
「それより陽太、本当にこの道で合ってるのか?」
「ああ、おばあちゃんが書いた地図によるとこの先に分かれ道があって、そこを左に進むともうすぐらしい。」
「あっ!あれか?分かれ道!」
「あった!よし、左に行くぞ。」
もうすぐだ!俺達は足を早めて歩き出した。



「あっ……あった………。」

生い茂った草をかき分けながら進むと、目の前に小さな祠が現れた。

「これが……蛇神様の祠?随分小さいなぁ。」
「花と水が置いてあるね。毎日村人さんがお参りしてるんだなぁ。」
「……てか寒くない?俺だけ?」
あんなに暑かったのに、と真は身震いをしていた。

「いや、実はさっきの分かれ道から寒気を感じてたんだ。ビビらせたらいけないと思って言わなかったけど。」
聡はそう言って腕をさすった。

「陽太は平気なのか?」
「ああ……てかそれよりさ………。」
「それより?なんだ?」
「………祠、小さすぎないか?」
おばあちゃんの話からもっと立派な祠だと思っていた。なんだこの祠は。
「まぁ確かに想像した物より遥かに小さいけど……。」

俺は祠に近付いてゆっくり見始めた。
きちんとお参りしてると言うからもっと綺麗だと思ったのに。祠はもちろんおばあちゃんが言っていたしめ縄までボロボロだった。

「こんな見窄らしい祠だなんて……。祟りだなんて嘘なんじゃないか?」
「おい、陽太、それは言い過ぎなんじゃ……。」
「いや、もしかしたら山で悪ふざけしないように昔の人が作った言い伝えかもしれないね。」
聡はそう言うとスマホを取り出し祠の写真を撮った。

「!? 聡、お前何やって!」
「大丈夫、スケッチをする間見るように撮っただけさ。流石にここでスケッチする気にはなれないからね。」
「陽太のおばあちゃんが写真を撮るなと言ってたじゃないか!」
「大丈夫だよ、スマホだし。直ぐに消しちゃうしさ。」
「そういう問題じゃないだろ!陽太も何か言って……陽太?」
「おい、今祠の中で何か動いた!」
「は?何言って……。」
「もしかしたら凄いのがいるのかも!」

見窄らしい祠では注目されないと思った俺はしめ縄を持ち上げると祠の中を覗き込んだ。

「馬鹿!陽太何やってんだよ!」
「陽太!流石にしめ縄の中はまずい!」
「大丈夫だよ。中には入ってない。……うーん、薄暗くて見えないな。」
「陽太!いい加減に!」
「もうちょい!もうちょいよく見たら………「「!?」」」

その時だった。祠の中からギョロりとこちらを睨む眼が現れたのだ。

「ひぃぃ!?」
俺は驚いて尻もちをついてしまった。

「今の……人の目?」
「うわぁぁぁ!!」

真はいきなり叫ぶと走り出した。

「あっ!真待て!」

聡が慌てて真の腕を掴んだが、真は振り返りながら腕を振りほどくと山を駆け降りていってしまった。

「遭難したらまずい!陽太!早く追うぞ!」
「あっ……ああ……!」
俺はガクガクする足をなんとか立たせると慌てて二人の後を追った。





「おばあちゃん!真戻ってきてないか!?」

玄関の扉を開けるやいなや俺はおばあちゃんに聞いた。

「いや、戻ってないが………陽太、何かあったのか?」

おばあちゃんの神妙な顔に俺はいや、ただ真が怖がって………。と言葉を濁した。

「とりあえず真を探しに山に戻るよ!」
「あっ、待て。遭難してたらまずい。今源さん呼んでくるからちょっと待ちな。」
「いや、そんな大事にしなくても……「何言ってるんだ!!」」
突然の怒鳴り声に驚いて振り向くと、怖い顔をしたおじさんが睨んでいた。

「源さん!?どうしたんだ。」
「真っちゅう奴はお前らの友達だろ!?あいつが全部話したぞ!お前らなんて事をしてくれたんだ!」
くそっ、真め喋りやがったか。俺は心の中で舌打ちをした。

「源さん?陽太……お前一体何を………。それに真くんは……。」
おばあちゃんが狼狽えながら聞くと源さんと呼ばれたおじさんが静かに答えた。

「……今村の病院にいる。山で血だらけで倒れていたのを見つけたんだ。」
「血だらけ!?一体何が……。」
「滑落したらしい。腕を深く切っていた。あれは筋をやられている……もう使い物にならんだろうな。」

滑落!?いくら大きい山と言ってもそんな大怪我するほど危険では………。

「四肢欠損……まさか………。」
「陽太!お前達何をしたんだ!こっちに来て全部話すんだ!」
俺達はおばあちゃんに連れられた居間で全部話した。





「このバカタレが!!」

俺と聡はおばあちゃんに殴られた。あんな細い腕からこんなに強い力が出るなんて。俺と聡の頬は腫れ上がった。

「一体どうしたらいいんだ………。」
「とりあえず、村長に連絡しよう。」
気付けば村人達が集まっていた。

「陽太、お母さん達にも連絡したからな。聡くんだっけか?ご両親に連絡入れなさい。」
「……聡?」
返事がない聡を見ると小刻みに震えていた。

「おい、聡……聡!?」
触ると凄い熱を出していた。恐怖で震えていたんじゃない。高熱に侵され痙攣を起こしてたんだ!

「おばあちゃん!聡が!」
「ひぃ!熱病だ!蛇神様の祟りだ!」
「早く病院に連れていくんだ!」
取り乱し始めた村人達を源さんが制した。

痙攣して白目を向きながら運ばれる聡を呆然と見つめているとおばあちゃんが目の前に座って話し始めた。

「陽太、他の二人と違いお前はかなり危険な状態だ。今からお前をお寺に連れて行く。そこのご住職にお祓いしていただくが……払いきれなかったらお前は……。」

おばあちゃんは突然涙を流した。

「おい、行くぞ。」
源さんはおばあちゃんの肩に優しく手を置くと、俺の腕を引いて車へと向かった。




「………これは…。」

俺の顔を見るなり住職は厳しい顔をした。

「一晩かけてお祓いをします。陽太くん、君も辛いと思うが耐えるんだ。……私も出来る限りの事はやってみますが相手は神様です。………覚悟はしておいて下さい。」

俺は住職と向かい合わせに座らせられると、俺と住職の二人以外は皆部屋から出された。

住職は一礼するとお経を唱え始めた。
「!!??」
突然身体が締め付けられるような痛みに俺は倒れ込んだ。痛い。涙が止まらない。

一晩中、俺が痛みにのたうち回る音が響き渡った。





「………くん、陽太くん。」

優しい声に目を開けると住職が俺の顔を覗き込んでいた。

「あれ?俺……あまりの痛さに気絶したのか。」
「よく耐えましたね、お祓いは終わりましたよ。」
住職はさぁ出ましょうと言って俺の手を引いた。

ゆっくりと部屋を出るとおばあちゃんや村人達に加えお母さん、お父さんも座っていた。

「お母さん、お父さん………。」
「陽太は……陽太は助かりましたか!?」
お母さん達が住職に詰め寄ると住職は静かに答えた。

「……お祓いは終わりました。陽太くんも疲れています。今日は陽太くんの好物を食べさせてあげてください。」
「ああ………!!」
お母さん達は安堵の涙を流した。

「ありがとうございました……!」
俺は涙を流しながら住職にお礼を言った。



帰り道。俺はお父さんの車で帰っていた。
「陽太、よく頑張ったな。……本当に。」
お父さんは震える声で言った。

「今日は陽太が好きな物食べましょうね。……陽太何がいい?」
「じゃぁ久しぶりにあの大好きなお店行きたいな!」
「わかった、あのお店ね。」
「お父さんもお母さんも泣き止んでよ……。おばあちゃんもずっと泣いてたし……。」
「そうね……。」

俺はあの後村人達やお父さん達に一生懸命謝った。もう二度とあんな馬鹿な事はしないと誓った。
聡もあれから熱が下がったが脳をやられてしまったらしく言語障害が残ると言われた。
真もやはり筋をやられていた為、右手が使えなくなってしまった。……俺の軽はずみな行動で二人の人生を狂わせてしまった。俺は一生、この重い十字架を背負って生きていくのだろう。

俺は車の窓から見える満月を眺めながら、涙を流した―――。






「……失礼致します。」
「ああ、お前も疲れただろう。今日は早めに休みなさい。」
「いえ、住職様に比べれば大したことではございません。……あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「なんだ。」
「私(わたくし)の修行不足なら申し訳ございません、あの少年にはまだ蛇神様がついておられるように見えましたが……私の見間違いでしょうか。」
「ああ……やはり神様には私の力は及ばなかった。お祓いは終わったが、払うことは出来なかった。」
「えっ!?しかしあの少年には―――!」
「絶望して死ぬには可哀想だ。せめてもの情けで最期に好物を出すよう伝えた。……家族も分かっておる。」
「そうか……。あの時の御家族の涙は安堵の涙ではなく別れを惜しむ涙だったのですね………。」
住職様は悲しい笑みを浮かべ静かに頷いた。


ああ……せめてあの少年が極楽浄土に行けますように。私は涙を流しながら襖から覗く満月に祈りを捧げたのだった―――。





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