灰色の月と赤い魔女 Re:crossWORLD

LA note (ら のおと)

文字の大きさ
1 / 15

1.プロローグ 2024年9月13日

しおりを挟む
プロローグ

 その日は、今日から3000と650日後にやって来た。
――――――――――――――――――――――
 確かに違和感はあった。

 知らないうちに割れているスマホの画面や、昨日よりも、少し大人びた親友の姿など、思い返せば、今朝いくつか感じたこの感覚は、間違ってはいなかった。
――――――――――――――――――――――
 2024年.9月13日 AM 7:10
―――――――――――――――――――――― 
 TVからニュースが流れて来る。

 ここ最近はこの話題ばかりだ。

 1か月前に国会議事堂が何者かに襲われ、政府の要人を人質とする立てこもり事件がおきた。

 テロ?エッ、ここって日本だよね?こんな事ってあるの?って学校でも話題になった。

 それに日本政府は自衛隊や機動隊を総動員し、早期解決を図るも相手はそれらを一蹴、未だに犯人グループは捕まっていない。

 SNSなんかでは、自衛隊の戦車が犯人グループに向かって発砲するが、逆に戦車が破壊されたなどと囁かれている。

 その時の動画では全貌は明らかにされていないが巨大な人影が戦車部隊を鎮圧する様子がアップされている。

 でもアップされればすぐに何かの圧力で削除されるんだよな。

 なんかここ最近世界が変だ。

 世界的パンデミック。

 多くの死者や経済に大打撃を与えたCO vid19の蔓延がようやく収束に向かっていった中、ここ日本でこんな事が起こるなんて…

 まぁ、俺には関係ないけど。

 と思いつつ日向ひゅうが 月斗げっとは洗面所で歯磨きを終えた。
 
 今日から2日間、京都の寺でハンドボール部の合宿が行われる。

 3年生が夏大会後に引退して、新体制になってから初の強化合宿だ。

 毎年恒例のこの合宿もここ2年はいわゆる自粛生活。

 2021年、ワクチンの普及によって日本国内でもCO vid19も収束に向かいつつあったが

 利権絡みの政府与党、民自党みんじとうは国民の反感を買いつつも選挙では変わらず議席を確保し、前任のお飾り総理が退いたあと総裁選が行われ新たに総理大臣になった。

 あんまり興味ないけど。

 京都までは、バス移動。

 集合時間が7時50分なので、7時半に家を出れば自転車で15分の距離の待ち合わせ場所までは充分だ。

 7時25分には、チームメイトの本庄ほんじょうりくが、インターホンを鳴らして迎えに来るはずだ。

…………がなかなか鳴らない。

 ピンポーン!

 やっとインターホンのチャイムが鳴ったのは7時35 分。

「オッス!月斗げっと」少し日焼けして、がっしりした体格の本庄ほんじょう りくが声を掛けてくる。

 金髪でトレードマークのリーゼント姿じゃない。

「陸が遅刻するなんて珍しいな!それにその髪!」

 そう言って陸と呼ばれる少年を見上げながら月斗がそう言うと

「寝坊してセットする暇が無かった!悪い!ギリギリかもな!」

 2人は月斗の家を慌てて飛び出ると止めてあった自転車に各々飛び乗った。

  2台の自転車がここ西宮北口の閑静な住宅街を抜けて、駅前の阪急電車の高架下を猛スピードで駆け抜けて行く。
 
 途中、2つほど、信号を無視して集合時間を少し過ぎた頃ようやく、2人は、駅前の駐輪場に自転車を止めて、急いで集合場所に向かった。

  時計を見るとAM7:56

 駅のロータリーを駆け抜け、駅から南の住宅展示場を右手に見ながら猛ダッシュでバスへ向かう。

 展示場の反対側の車線にバスは、いつでも出発出来る様に西向きに停車していてエンジンがかかっている。

 その観光バスの横にバス運転手らしい少し太った男と月斗たちハンドボール部顧問の堂島の姿があった。

 2人の姿を見つけた堂島が

「遅いぞー!月斗!陸!」
と声を上げた。

 信号は赤。

 東西にまっすぐ伸びた幹線道路の信号はなかなか長く2人はやきもきしながら信号が変わるのを待った。

 さすがに顧問の前で信号無視をするわけにはいかない。

 ようやく信号が変わり、反対側へ駆け足で渡る。

「すみません!」

 2人は、堂島に軽く会釈をし、バスに乗り込んだ。

 続いて堂島がバスに乗り込むと8:00の予定時刻より1分遅れで出発した。

 月斗は素早く、手荷物を棚に乗せて、運転席のすぐ後ろの席に腰掛けた。

 月斗の後ろに陸が座る。

 通路を挟んで月斗の隣にマネージャーのみなみ 千里ちさと天道てんどう 京華きょうかがいる。

 2人が息を切らせて乗り込んで来た月斗と陸に声をかける。

「おはよう御座います」

「おはよ!遅かったね2人とも!それに何その髪?」

 南 千里は陸と呼ばれたその少年の髪を指さした。

 ダッシュでさっきよりも余計に髪の毛が乱れている。

「ああ、急いでたから!」

 そう言って2人は、スポーツドリンクで喉を潤してようやく息を整えて落ち着いた。

 バスは5分ほど走行して、高速の乗り口に差し掛かかった。

「ちゃんと集合時間を守れよ!」

 走り出した車内で、堂島に注意された2人はバツが悪そうにお互いの顔を見合わせながらも、おもむろにカバンからスマホを取り出した。

 月斗は、ヘッドホンを用意して音楽を聞こうと画面を見ると右上の角が割れているのに気付く。

 割った覚えは無い。???

「月斗!スマホの充電器貸してくれん?」

 後ろの席から陸が声を掛けて来た。

「昨日スマホ、ヘッドホンしたまま寝たみたいで!」と言って真っ黒な画面を指指した。

 月斗がバッグからスマホの充電器を取り出して陸に手渡す。

「サンキュー!」といって陸は、座席の横にある電源に充電器を差し込むと座席を少し後ろに倒し目を閉じた。

 合宿先の京都の寺までは、1時間半はかかる。

 月斗も、音楽を聴きながら少し寝ようと座席を少しリクライニングさせた。

 バスは30分ほど、高速を走行すると、約半世紀前に万国博覧会が、開催された際に建てられた、太陽の塔の独特の姿が左手後方にみえる。

 吹田市のインターチェンジを越え、しばらくすると大阪府と京都府の境界にある、天王山トンネルに間も無く差し掛かかろうとしていた。

 トンネルの入り口は、渋滞緩和の為、右ルートと左ルートに分かれいて、先で合流する形になっている。

 バスは、高速道路の左車線を法定速度より少し早いスピードでトンネル内へ侵入した。

 月斗らを乗せたバスの一つ右側の追い越し車線前方に赤いクーペが先行している。

 お気に入りの曲を4回リピートしたところで、月斗のヘッドホン越しにピロン!と言う音がした。

 スマホの画面を見るとLINEの受信音だった。
 
 フォルダを見ると陸からだった。

――――――――――――――――――――――
 今どこだ?そこにいる、俺は俺じゃない!
――――――――――――――――――――――
 というメッセージが流れる。
???

-明らかに変な文章だ。

「陸!今LINEした?」

「ん?いや充電中!」と面倒くさそうに充電器に刺さったままのスマホを指指す。

 陸?

 後ろの席で寝ている、陸に確かめようとシートを倒すと同時に、急ブレーキがかかって、月斗はスマホを落としそうになるのをギリギリのところで耐えた。

 先行していた赤いクーペがバスの前に急ハンドルで、割り込んで来た為、ブレーキが踏まれたのだ。 
 
 約90キロで走行するバスと赤いクーペは、2分ほどでトンネルを抜けるはずだった……
……が、突然!車内が明るくなり、
「えっ!」
 
 窓の外を見た月斗も、思わず声をあげた。

「わぁー!」車内が騒然とする。

 ザザザザザザッーーーーーーーー。

  後輪がすべり、急ブレーキをかけた為、赤いクーペがバスの前で、3回転ほどスピンをする。
 
 辺りは砂埃で視界が悪くなるなか、冷静な操作でバスは、赤のクーペを避ける様に静かに止まった。

 すると窓の外の景色を見た生徒たちがざわつき出した。

「お前たちは、車内でじっとしてろ!」

 そう言って顧問の堂島は、バスの運転手とともに、車外の様子を見に行った。

「スマホ圏外だー、繋がらねー!」
「ここどこだ?」

 と言った声がバスの車内のあちらこちらで聞こえる。

 月斗も窓の外の様子をうかがった。
 
 辺り一面、乾いた土の大地が広がり、傾き始めた太陽がバスの影を長く照らしていた。

 バスの傍らに赤いクーペが止まっている。

 月斗の席から砂埃が舞う中、赤いクーペに向かっている堂島と、バスの運転手の姿が見えた。

 2人が、クーペの側まで近づくと運転席から人が降りて来た。女性だ。

 月斗は顔を、見ようと窓から身を乗り出すと、後ろの席から声がした。

「前回と少し違うなぁ!」そう言って本庄陸は、リクライニングさせた席を起こした。

  「陸?」この異様な光景を見ても薄らと笑っている様な親友の姿を見て月斗は違和感を感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...