灰色の月と赤い魔女 Re:crossWORLD

LA note (ら のおと)

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11.赤い魔女と魔法使い

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――――――――――――――――――――――――
スマホの時計はPM18:25を指していた。

 重たい空気の漂う中、バスの車内に残っていた生徒達を堂島が一箇所に集めた。
 遠くで運転手の三原が地面に嘔吐(おうと)しているのがわかる。

「全員いるか?」堂島は生徒たちに声をかけ人数を確認する。
 赤いクーペの元から戻った副顧問の女性とハンカチで口を押さえた三原が合流した。

 生徒11人と教師2人、それに運転手を合わせてここにいる人数は14人。

 1人足りない。

 橘 妃音の姿が見当たらなかった。

「やはり、アレは赤いクーペを運転していた女性だろう」
「橘 妃音?」

 陸が赤いクーペの女性の名前を呟く。

 バスの車内にいて、まだ状況がわかっていない生徒達に堂島が説明をする。

 数分前、南 千里と天道 京華の2人が堂島の使いで妃音に差し入れとして飲み物を届けに行った。

「キャーーーー!???アアアアーーー!!!!」

 2人の悲鳴を聴いた堂島がすぐに駆けつけ赤いクーペの中の様子を確認したという。

エンジンの掛かって無い赤いクーペ近づき中を覗き込む。
運転席のシートが倒れていてそこにを発見した。

 生徒たちは驚きのあまり響めきが起こる。第一発見者の天道 京華と南千里の2人はショックのあまりその場に座り込み肩を震わせ抱き合っていた。
 2人の顔は蒼白でブルブルと震えている。
 前の旅では若い頃、精肉屋でバイトしてたと言ってた運転手の三原さんが嘔吐してるくらいだ、中の状態はかなり酷いのだろうと陸は思った。

 意外なのは副顧問の先生….自己紹介で名前を聞きそびれたが25歳という若さの割に落ち着きはらっていて、現場検証の様な事もテキパキとこなしたいた。

 状況から考えて恐らくは橘妃音なのだろう。

 橘妃音……赤い魔女……オレたちをこの世界に引き込んだ張本人……。

 その彼女が何故?コレじゃあ元の世界に………

 言いようの無い焦りから陸の背中にじんわりと汗が流れる。

 堂島が「陸!お前はここに来るのは2回目って言ってたが前回もこんな事があったのか?」堂島の問いに間髪いれず陸が大きく首を振る。

 こんな事は……一切無かった。

「いえ…俺は…オレたちは…月斗以外全員……元の世界にもどって来れた…」
「…………」ミクニも黙ったまま首を横に振る。
 その小さな肩が震えていた。

 この後、橘妃音は月斗を助手席に乗せてせまり来る大型のトリに襲われていた幼稚園バスを魔法アニマを使って助けた。

 月斗の放った火球によって大型のトリは炎に焼かれて倒れ込み激しく燃えた。
 そしてになって倒れ込んだんだ……。

 結果…幼稚園バスのみんなを救い…ここにいる三国 心愛を救った。

 炎に焼かれ?……⁈⁈⁈………に………?

 陸の脳裏に一つの猜疑心がよぎる。

 「堂島先生…彼女は…になってたんですよね?」「ああ…倒れたシートに横たわり黒こげの状況だった。中からロックされていてガラス越しにしか確認出来てないが……おそらく人体発火の様な現象かも知れん…」

「先生!人体発火って?」

「ああ、世界でもいくつか症例がある。原因は諸説あって詳しくわかっていない……が……とにかく殺人では無い」

「…………先生、これが誰かの手によるものだったとしたら……。」陸の呟きにミクニが反応する。
「いいえ、違うわ…」陸の言葉を否定する。

「何か知ってるのか?」堂島が陸を問いただす。

「ええ……オレはこの中に彼女を殺した犯人がいるかも?……と考えてしまったんです…」

「何故?そう思った?」

「いえ……それは。」

「もしこの中に犯人がいるとすれば、お前じゃないのか?」月斗が突然会話に割って入り陸に対して思いもよらない言葉を言い放った。

「何を言うんだ?」

「お前は赤いクーペから降りた彼女を見て俺に「あの女には気を付けろ!」と言ってた。何か彼女に恨みがあったんじゃないのか?」
「恨み……?」
「ああ、それで彼女への恨みから行動を起こした。」
「違うわ…陸にい…先輩じゃない!」ミクニが陸の事をにいちゃんと呼びそうになったのを訂正する。

「ミクニ、お前も怪しいぞ!そう言えば昨夜、仮眠を取る前2人で仲良く外へ行ってたな!」

「その時に2人で何か細工をして彼女を殺したんじゃないのか?」

「なっ!……」

「よせ!仲間同士で余計な詮索はやめるんだ!とにかくこの状況での殺人などは考えられない。クーペのドアはロックされていたし炎で人を殺せる様なガソリンや薬剤が使用された形跡も無い!彼女の死因はおそらく人体発火によるものだ」そう言って堂島は2人を制した。
 

 沈黙の後、月斗や他の生徒たちは副顧問の先生と共にバスの車内に戻った。

 その場には堂島と陸、そしてミクニの3人が残った。

 月斗の思わぬ口撃に驚きを隠せない陸は  その場から動けずにいた。
 あんな風に人に対して悪意を向けてくる様な奴だったか?少なくともオレの知ってる。オレが助けたい月斗は絶対に人をあんな風に罵ったり蔑んだり、疑ったりはしない…。
 アイツは…こんな風には…。
 そういった感情が渦巻いて、またさっき抱いた疑念が陸の頭をよぎる……。
「陸…何か気になる事があるのか?」

「あの………」と言いかけた陸の言葉を遮るようにミクニが

「違うわ!容疑者として、まずあなたは月斗先輩を疑ってしまった!」
 ミクニの魔法アニマが発動し、陸の思考が読み取られた。
「何故ならこの中で炎を操れるのはたった1人だけだもの」
「炎を操れる?」事情を知らない堂島の問いに構わずミクニが続ける。
「でも 違うのよ。……ここにいる月斗先輩は魔法アニマの事を知らない」
「…………」
魔法アニマの発動条件はわかるわよね?………
そう! 魔法の存在を認識すること!」

「でもあの時、一度も…彼女ひめのも…私も…あなたも….魔法を使っていないの!だから前にこの世界を訪れた事のある者しか魔法アニマの存在を知らないし、使えない。」
「アニマ?」堂島の問いにミクニが
「エエ、この世界では…特にこの辺りでは誰もが魔法アニマと呼ばれる特殊能力を使えるんです!そして魔法アニマが使える者たちは魔法使アニメーターいと呼ばれてます。」
「!!憧れの職業だが労働条件の過酷そうな呼び名だな……だが誰もが使える特殊能力なら全員が魔法使アニメーターいなのでは?」堂島の問いにミクニが自身満々に答える。
「甘いわね!誰もが使える事と誰もが使事とは違うのよ!やりたい仕事とやれる仕事が違う様にね!誰もが使えて誰もが使いこなせる訳では無いのよ!」

コホン。

「エッと、つまり魔法アニマには発動条件があって…
①自身が魔法の存在を信じる事。
②自分以外の誰かから魔法のイメージを持たれる事。
③名前が能力の特性に作用する。
名は体を表すって言うでしょ!
①と②の条件を満たす事によってより強力な魔法が使えるの。つまり単独では魔法は発動しないし引きこもりのニートは例えこの世界に転生して来やがったとしても最強の魔法使アニメーターいにはなれないのよ!」

 興奮気味にミクニは語る。
 コホンと咳払いをし落ち着きを取り戻してから話を続けた。
「今ここにいる月斗先輩は全ての条件を満たしていない……つまり現時点で魔法使いでは無いの……よ。」

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