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34 九竜 惺 覚醒する(1)
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1月に入ってから、俺は毎日のように前世と思われる夢を見るようになった。
初めて前世の夢を見たのは17歳の時だ。
同じ登場人物の夢を、忘れないくらいの間隔で見るのが不思議だった。主人公はある王子に仕えていて、はっきりしない軟弱な奴だと目覚めて思ったものだ。
それが3年前くらいになって、夢の中に出てくる主人公は、どうも自分の前世なのではないか……と疑問に思い始めた。
夢の中の男の名はソラタ。侯爵家の次男で、代々王族の側近として働く家系で育った。16歳の時、騎士学校に入校する。目的は第3王子に仕えるためだ。
第3王子の母親は側室で、我が一族出身の女性だった。その側室の女性は、王子が10歳の時に亡くなった。
ソラタが初めて王子に出会ったのは、母を亡くした王子を慰めるため、遊び相手として王宮に呼ばれた時だった。その後、学友として共に王宮教師から講義を受けたり、剣の練習をしたりした。
ソラタから見た王子は努力家で優しく、どちらかと言うと自分の感情を抑えていることが多かった。
王族らしく尊大な口をきくこともあるが、側室の子で第3王子という立場であることを意識し、決して兄たちより前に出ないようにしていたし、人や物にも執着するような欲を出したりしなかった。
そんな王子をソラタは尊敬し、心から守りたいと臣下として思っていた。
ところが、ソラタと王子が騎士学校の2年生になった時、王子は初めて人に対して執着した。
ソラタは戸惑ったが、王子の望みを叶えるために動くのが臣下の務めと思い、王子のお気に入りである学生を、王子の離宮に招待した。
そのお気に入りは、男のくせに華奢なうえ、顔も女のようだった。
入学早々、多くの男に目をつけられ迫られて困っていた様子に、王子は同情し自分のお気に入りであるという態度をとることで、その者を守ろうとされた。
しかし、王子とお気に入りが深い仲ではないと知られると、爵位にものを言わせて強引に迫る者が現れた。その時、お気に入りを守る男が登場し、剣の腕で捩じ伏せていった。
王子が、私の大事な王子が、その様子を見てから変わられてしまった。
生意気にも、そのお気に入りは王子の好意を断った。それでも王子はその男を欲し、心を痛め続けられた。
許せない。高貴な王子の寵愛を断るとは!・・・そう激怒する一方で、ソラタは己の感情の中に、決して抱いてはいけない感情が芽生えていたことに気付いた。
……王子が好きだ。誰にも渡したくない! あんな男より、私の方が王子に相応しい。私なら、どんな王子の要求も受け入れられる。王子の心を慰める栄誉は、自分に与えられたものだと。
だが、その思いは表に出すことはできない。
王子の目には、ソラタは従者としてしか映ってはいない。
欲っしても願っても、叶えられることのない欲望は、王子のお気に入りに対する怒りとして変換されていく。
全ての元凶は、あのお気に入りにあるのだとソラタは思い込み、それはそれは陰湿なことを繰り返していた。もちろん、王子には内緒で秘密裏に。
前世の夢を何度も見て、叶わぬ想いに涙しながら目覚め、いつの間にか大人になっていた。でも、王子の名前もお気に入りの名前も分からなかった。
ところが、ナロウズ音楽事務所の目玉として企画した、学生向けのコンテストの初日、ある学生のことが事務所で話題になった。話題の映像と出品者の名前を見た時、私は目眩を感じて椅子に座り込んだ。
ラルカンド・フォース。・・・その日本人とは思えないような名前を見た瞬間、私の頭の中に登場人物の名前が浮かび上がり、夢の、いや、前世の記憶が鮮やかに蘇った。覚醒したと言った方が正しいのかもしれない。
ソラタが愛していた王子の名前はガレイル。そして王子のお気に入りの名前はラルカンド。ラルカンドを守っていたのはエイブ。
覚醒した私は、これまで見ていなかった騎士学校卒業前のシーンを夢で見た。
自分勝手な思いで愛を歪めたソラタは、あらゆる手段を使ってラルカンドを王子に近付けないようにした。
ある時、自分が練った策によって、偶然にも思いを遂げるチャンスがやってきた。私はそのチャンスを逃すことなく、狂いそうになる王子に付け込んだ。
しかし、抱いても抱かれても、主であるガレイル王子の心は自分に向けられることはなかった。
いろいろと卑怯なことをしてまで欲した王子との関係は半年も続かず、以後、王子が亡くなるまで、従者以外の役割が与えられることはなかった。
王子が亡くなって後、ソラタは自分の行いを悔い、空虚な日々を過ごした。
ラルカンドという名の学生の【絡んだ糸】という曲の映像を見てから、前世の記憶はより鮮明になり、後悔の念に押し潰されそうになる。
王子は最後に「お前がラルカンドにした嫌がらせは知っていた。従者としての仕事なのだと思い、私はお前の行いを赦すことにした。だが……私は……ラルカンドを失った絶望から目を逸らすため、最愛の人を死に追いやる手助けをしたお前の手をとった……そんな己が一生許せなかった。もう一度、一度でもいいから……私はラルカンドに必要とされたい。今度はちゃんと……守り……たい」と仰られて目を閉じられた。
絶対に同じ過ちを犯してはならない。自分のせいで王子を不幸にしてしまった事実を、ご自分を許せないと後悔の人生を送らせた罪を、胸に刻まねばならない。
……ガレイル王子に会いたい! 今度こそ私は王子を守り、王子を幸せにする! 自分が・・・ではなくてもいい。王子が私の前で笑って生きてくだされば・・・私に罪の償いをさせてくださればそれでいい。
そうだ、私は自分の死に際に、もう一度やり直せるなら正しい判断力が欲しいと願った。同じ年齢ではなく、王子を守れる地位と包容力が欲しいと願った。
コンテスト出品者のラルカンドが、もしも自分と同じ前世の記憶を持つ者なら、ガレイル王子だって現世に存在しているかもしれない。
そう思って過ごしていると、ラルカンドと名乗る学生と本当に会う日がやってきた。
初めて会ったその少年は、前世と同じ髪の色と瞳の色をしていた。それも生まれつきではないと言う。不思議な……というよりも、これはもう運命なのではないかとさえ思えた。
前世と同じように華奢で、男に好かれる容姿をしていたのだ。
彼はまだ15歳だ。自分とは12歳も違うし、私から名前の由来や前世のことを訊ねる勇気はない。
じりじりとこみ上げる焦りと、ガレイル王子に会いたいと焦がれる気持ちで、胸が苦しくて堪らない。
そんな私の焦りなど知る由もないはずのラルカンド、いや四ノ宮春樹と、友人のバンドを見に行った時、彼は電車の中で「貴方は、ラルカンドのことが嫌いでしたよね……エイブのことも」と、エイブの名前まで出してきた。
私は咄嗟に反応できず、思わず「何故…」と呟いてしまった。自分らしくもなく完全に動揺した。
……間違いない! 四ノ宮春樹は、前世のラルカンドだ! そして、私が誰なのかを知っている。
前世のラルカンドは、弓の名手であり弓の製作者として優秀だった。現世の四ノ宮春樹には、作詞作曲の才能があった。
コンテスト作品もまあまあだったが、その後に作った作品は、正直驚くほどの才能を感じさせた。
先日送ってきた【恋の音を聴いた朝】は、高校生とはとても思えない作品で、期待以上の出来だった。
依頼者であり、ソーエイミュージックジャパンの社長である父に見せたところ、ミユウに提供することが決まった。
「ラルカンドくん、ミユウさんとスタジオで一緒に歌った感想は?」
「ミユウさんの前で歌った時は緊張しましたが、いい雰囲気を作ってもらったので、楽しかったですよ。流石女優さんですね。綺麗だったし……俺の曲が違う曲みたいでした」
ミユウとの食事会は中止になり、急遽スタジオでミユウとセッションしたので、気付けば午後4時を過ぎていた。先方の予定に合わせていると、こんなことは珍しくもない。
今日はそのまま自宅に直帰する予定だったので、ラルカンドくんを誘って早目の夕食にする。
私には、どうしても確認しなければならないことがある。
彼が本当に同じ前世の記憶を持つ者なのか、他にも、同じ前世の記憶を持つ者を知っているかどうかを、はっきりさせたい。
面倒だが事務所に一旦戻り、自分の車に乗り換えて自宅のあるマンションビルに向かった。同じビルの階下にあるカジュアルレストランで食事をする。
たわいもない話から始めて、次第に音楽業界の話になった。この流れから前世の話に移行するのは難しい……と思っていたら、ラルカンドくんの方から仕掛けてきた。
それは、私がハーフボトルのワインを飲み終えたタイミングだった。
「ソラタ先輩、リゼットルのメンバーの中に、エイブが居ますよ。ソラタ先輩は、前世の誰かに出会いましたか?」
「やはり君は、あのラルカンドなんだな?」
「あの……が、どのラルカンドなのか分かりませんが、同じ騎士学校に在学していたラルカンドだと思いますよソラタ先輩」
目の前でコーヒーを飲んでいる少年は、高校生とは思えない落ち着いた態度で、ほんのりと微笑みながら言った。
その顔が妙に色っぽい気がして、私は思わずドキリとする。
……フッ、らしくもない、このくらいのワインで酔ったのか?
「何故、どうして君は私がソラタだと分かったんだ?」
「初めて握手した時です。俺、同じ前世の記憶がある人に近付いたり触れると、前世の記憶が頭の中でスパークするんです。先輩は、そんな経験ありませんか?」
「はっ? 握手した時だと? では、エイブに会った時も直ぐに分かったのか? 他にも、前世の記憶を持つ者に出会ったのか?」
私は思わず体を前のめりにし、軽く睨むような感じでラルカンドくんに問い質す。
「エイブに初めて会った時、俺は何故だか突然涙が溢れてきて戸惑いました。まだ名前も知らない状態で、泣くつもりなどないのに勝手に涙が零れるんです。
2度目に会った時も3度目に会った時もです。ギターケースを持っているその男が、もう1度会いたいと願ったエイブだと知ったのは、半年くらい経った後でした。
エイブも、偶然俺の曲を聴いてから、前世の夢を見るようになったようで、ラルカンドに会いたいと、バンド仲間に言っていたそうです。
俺もエイブも、前世の夢を見て泣きながら目覚める。後悔し、やり直したいと願い、現世では同じ過ちを犯したくないと強く思うんです。
ソラタ先輩もそうでしょう? ガレイル王子を好きだった貴方も、何かを後悔し泣きながら目覚めるでしょう?」
ラルカンドくんは少し目を潤ませながら、逆に私に質問を返した。
彼は欲しい答えを半分くれたが、その話の内容に大きなショックを受けた。
まさか、彼もエイブも同じように前世に苦しみ、泣きながら目覚めていたなんて……そして、私のガレイル王子への気持ちに気付かれていたなんて・・・
「ああ、そうだな。私も泣きながら目覚める方が多い。そして同じ過ちを犯したくないと思っている。だが、本当に償いたい相手がいなければ償えない。君は……私を恨んでいないのか?」
「……う~ん、ソラタ先輩をですか? 恨んだりしてませんよ。俺が後悔していたのは、自分の曖昧な態度と、最後の思いを伝えられなかったことですから」
王子への想いを知っていたのなら、私が裏でいろいろやっていたことも知っているだろう。それでも恨んでいないと言うのだろうか……
ラルカンドを結果的に死に追いやった私とエイブを、本当に恨んでいないなんて信じられない。
「ソラタ先輩が、ラルカンドを狙っていたクズ野郎をけしかけて襲わせたり、ラルカンドを王子に近付かせるのは危険だと、エイブに暗示をかけたりしていたのは知っていましたよ。だけど俺は、俺を懸命に守ろうとしてくれるエイブが好きだったので、エイブの束縛も過剰な独占欲も、愛なのだと思って幸せだったんです」
まるで全てを悟っているかのようなラルカンドの言葉に、彼よりも大人であるはずの私は愕然とした。
「ソラタ先輩は、何を後悔しているんですか? 俺が死んで邪魔者が居なくなったのに、貴方は、いえ、ガレイル王子は幸せな人生を送れなかったのですか?」
「それを訊くということは、君はエイブから自分の死後のことを何も聞いてないのか? ガレイル王子のことも・・・ガレイル王子には出会っていないんだな?」
俺にとって重要なのは、ガレイル王子が現世に現れているのかどうかだ。王子のその後の情報を知らないのなら、きっと出会ってはいないはずだ。
俺はワインの追加を頼むかどうかを迷いながら腕を組んだ。まだ、大事な話を聞き出せていない。
「相変わらず先輩は、質問を質問で返し、まるで尋問するように話すんですね。今の問いには……まだ答えられません。エイブには、俺の記憶は16歳くらいまでしか覚醒していないと言ってありますから。・・・ソラタ先輩、いえ九竜副社長、俺のことはラルカンドではなく春樹と呼んでください。なんだか混乱するので」
春樹はまるで挑むような瞳で、ニヤリと意味あり気に微笑んだ。なんだこいつは……
私が、この九竜 惺が翻弄されている?そんなことは認められない。
初めて前世の夢を見たのは17歳の時だ。
同じ登場人物の夢を、忘れないくらいの間隔で見るのが不思議だった。主人公はある王子に仕えていて、はっきりしない軟弱な奴だと目覚めて思ったものだ。
それが3年前くらいになって、夢の中に出てくる主人公は、どうも自分の前世なのではないか……と疑問に思い始めた。
夢の中の男の名はソラタ。侯爵家の次男で、代々王族の側近として働く家系で育った。16歳の時、騎士学校に入校する。目的は第3王子に仕えるためだ。
第3王子の母親は側室で、我が一族出身の女性だった。その側室の女性は、王子が10歳の時に亡くなった。
ソラタが初めて王子に出会ったのは、母を亡くした王子を慰めるため、遊び相手として王宮に呼ばれた時だった。その後、学友として共に王宮教師から講義を受けたり、剣の練習をしたりした。
ソラタから見た王子は努力家で優しく、どちらかと言うと自分の感情を抑えていることが多かった。
王族らしく尊大な口をきくこともあるが、側室の子で第3王子という立場であることを意識し、決して兄たちより前に出ないようにしていたし、人や物にも執着するような欲を出したりしなかった。
そんな王子をソラタは尊敬し、心から守りたいと臣下として思っていた。
ところが、ソラタと王子が騎士学校の2年生になった時、王子は初めて人に対して執着した。
ソラタは戸惑ったが、王子の望みを叶えるために動くのが臣下の務めと思い、王子のお気に入りである学生を、王子の離宮に招待した。
そのお気に入りは、男のくせに華奢なうえ、顔も女のようだった。
入学早々、多くの男に目をつけられ迫られて困っていた様子に、王子は同情し自分のお気に入りであるという態度をとることで、その者を守ろうとされた。
しかし、王子とお気に入りが深い仲ではないと知られると、爵位にものを言わせて強引に迫る者が現れた。その時、お気に入りを守る男が登場し、剣の腕で捩じ伏せていった。
王子が、私の大事な王子が、その様子を見てから変わられてしまった。
生意気にも、そのお気に入りは王子の好意を断った。それでも王子はその男を欲し、心を痛め続けられた。
許せない。高貴な王子の寵愛を断るとは!・・・そう激怒する一方で、ソラタは己の感情の中に、決して抱いてはいけない感情が芽生えていたことに気付いた。
……王子が好きだ。誰にも渡したくない! あんな男より、私の方が王子に相応しい。私なら、どんな王子の要求も受け入れられる。王子の心を慰める栄誉は、自分に与えられたものだと。
だが、その思いは表に出すことはできない。
王子の目には、ソラタは従者としてしか映ってはいない。
欲っしても願っても、叶えられることのない欲望は、王子のお気に入りに対する怒りとして変換されていく。
全ての元凶は、あのお気に入りにあるのだとソラタは思い込み、それはそれは陰湿なことを繰り返していた。もちろん、王子には内緒で秘密裏に。
前世の夢を何度も見て、叶わぬ想いに涙しながら目覚め、いつの間にか大人になっていた。でも、王子の名前もお気に入りの名前も分からなかった。
ところが、ナロウズ音楽事務所の目玉として企画した、学生向けのコンテストの初日、ある学生のことが事務所で話題になった。話題の映像と出品者の名前を見た時、私は目眩を感じて椅子に座り込んだ。
ラルカンド・フォース。・・・その日本人とは思えないような名前を見た瞬間、私の頭の中に登場人物の名前が浮かび上がり、夢の、いや、前世の記憶が鮮やかに蘇った。覚醒したと言った方が正しいのかもしれない。
ソラタが愛していた王子の名前はガレイル。そして王子のお気に入りの名前はラルカンド。ラルカンドを守っていたのはエイブ。
覚醒した私は、これまで見ていなかった騎士学校卒業前のシーンを夢で見た。
自分勝手な思いで愛を歪めたソラタは、あらゆる手段を使ってラルカンドを王子に近付けないようにした。
ある時、自分が練った策によって、偶然にも思いを遂げるチャンスがやってきた。私はそのチャンスを逃すことなく、狂いそうになる王子に付け込んだ。
しかし、抱いても抱かれても、主であるガレイル王子の心は自分に向けられることはなかった。
いろいろと卑怯なことをしてまで欲した王子との関係は半年も続かず、以後、王子が亡くなるまで、従者以外の役割が与えられることはなかった。
王子が亡くなって後、ソラタは自分の行いを悔い、空虚な日々を過ごした。
ラルカンドという名の学生の【絡んだ糸】という曲の映像を見てから、前世の記憶はより鮮明になり、後悔の念に押し潰されそうになる。
王子は最後に「お前がラルカンドにした嫌がらせは知っていた。従者としての仕事なのだと思い、私はお前の行いを赦すことにした。だが……私は……ラルカンドを失った絶望から目を逸らすため、最愛の人を死に追いやる手助けをしたお前の手をとった……そんな己が一生許せなかった。もう一度、一度でもいいから……私はラルカンドに必要とされたい。今度はちゃんと……守り……たい」と仰られて目を閉じられた。
絶対に同じ過ちを犯してはならない。自分のせいで王子を不幸にしてしまった事実を、ご自分を許せないと後悔の人生を送らせた罪を、胸に刻まねばならない。
……ガレイル王子に会いたい! 今度こそ私は王子を守り、王子を幸せにする! 自分が・・・ではなくてもいい。王子が私の前で笑って生きてくだされば・・・私に罪の償いをさせてくださればそれでいい。
そうだ、私は自分の死に際に、もう一度やり直せるなら正しい判断力が欲しいと願った。同じ年齢ではなく、王子を守れる地位と包容力が欲しいと願った。
コンテスト出品者のラルカンドが、もしも自分と同じ前世の記憶を持つ者なら、ガレイル王子だって現世に存在しているかもしれない。
そう思って過ごしていると、ラルカンドと名乗る学生と本当に会う日がやってきた。
初めて会ったその少年は、前世と同じ髪の色と瞳の色をしていた。それも生まれつきではないと言う。不思議な……というよりも、これはもう運命なのではないかとさえ思えた。
前世と同じように華奢で、男に好かれる容姿をしていたのだ。
彼はまだ15歳だ。自分とは12歳も違うし、私から名前の由来や前世のことを訊ねる勇気はない。
じりじりとこみ上げる焦りと、ガレイル王子に会いたいと焦がれる気持ちで、胸が苦しくて堪らない。
そんな私の焦りなど知る由もないはずのラルカンド、いや四ノ宮春樹と、友人のバンドを見に行った時、彼は電車の中で「貴方は、ラルカンドのことが嫌いでしたよね……エイブのことも」と、エイブの名前まで出してきた。
私は咄嗟に反応できず、思わず「何故…」と呟いてしまった。自分らしくもなく完全に動揺した。
……間違いない! 四ノ宮春樹は、前世のラルカンドだ! そして、私が誰なのかを知っている。
前世のラルカンドは、弓の名手であり弓の製作者として優秀だった。現世の四ノ宮春樹には、作詞作曲の才能があった。
コンテスト作品もまあまあだったが、その後に作った作品は、正直驚くほどの才能を感じさせた。
先日送ってきた【恋の音を聴いた朝】は、高校生とはとても思えない作品で、期待以上の出来だった。
依頼者であり、ソーエイミュージックジャパンの社長である父に見せたところ、ミユウに提供することが決まった。
「ラルカンドくん、ミユウさんとスタジオで一緒に歌った感想は?」
「ミユウさんの前で歌った時は緊張しましたが、いい雰囲気を作ってもらったので、楽しかったですよ。流石女優さんですね。綺麗だったし……俺の曲が違う曲みたいでした」
ミユウとの食事会は中止になり、急遽スタジオでミユウとセッションしたので、気付けば午後4時を過ぎていた。先方の予定に合わせていると、こんなことは珍しくもない。
今日はそのまま自宅に直帰する予定だったので、ラルカンドくんを誘って早目の夕食にする。
私には、どうしても確認しなければならないことがある。
彼が本当に同じ前世の記憶を持つ者なのか、他にも、同じ前世の記憶を持つ者を知っているかどうかを、はっきりさせたい。
面倒だが事務所に一旦戻り、自分の車に乗り換えて自宅のあるマンションビルに向かった。同じビルの階下にあるカジュアルレストランで食事をする。
たわいもない話から始めて、次第に音楽業界の話になった。この流れから前世の話に移行するのは難しい……と思っていたら、ラルカンドくんの方から仕掛けてきた。
それは、私がハーフボトルのワインを飲み終えたタイミングだった。
「ソラタ先輩、リゼットルのメンバーの中に、エイブが居ますよ。ソラタ先輩は、前世の誰かに出会いましたか?」
「やはり君は、あのラルカンドなんだな?」
「あの……が、どのラルカンドなのか分かりませんが、同じ騎士学校に在学していたラルカンドだと思いますよソラタ先輩」
目の前でコーヒーを飲んでいる少年は、高校生とは思えない落ち着いた態度で、ほんのりと微笑みながら言った。
その顔が妙に色っぽい気がして、私は思わずドキリとする。
……フッ、らしくもない、このくらいのワインで酔ったのか?
「何故、どうして君は私がソラタだと分かったんだ?」
「初めて握手した時です。俺、同じ前世の記憶がある人に近付いたり触れると、前世の記憶が頭の中でスパークするんです。先輩は、そんな経験ありませんか?」
「はっ? 握手した時だと? では、エイブに会った時も直ぐに分かったのか? 他にも、前世の記憶を持つ者に出会ったのか?」
私は思わず体を前のめりにし、軽く睨むような感じでラルカンドくんに問い質す。
「エイブに初めて会った時、俺は何故だか突然涙が溢れてきて戸惑いました。まだ名前も知らない状態で、泣くつもりなどないのに勝手に涙が零れるんです。
2度目に会った時も3度目に会った時もです。ギターケースを持っているその男が、もう1度会いたいと願ったエイブだと知ったのは、半年くらい経った後でした。
エイブも、偶然俺の曲を聴いてから、前世の夢を見るようになったようで、ラルカンドに会いたいと、バンド仲間に言っていたそうです。
俺もエイブも、前世の夢を見て泣きながら目覚める。後悔し、やり直したいと願い、現世では同じ過ちを犯したくないと強く思うんです。
ソラタ先輩もそうでしょう? ガレイル王子を好きだった貴方も、何かを後悔し泣きながら目覚めるでしょう?」
ラルカンドくんは少し目を潤ませながら、逆に私に質問を返した。
彼は欲しい答えを半分くれたが、その話の内容に大きなショックを受けた。
まさか、彼もエイブも同じように前世に苦しみ、泣きながら目覚めていたなんて……そして、私のガレイル王子への気持ちに気付かれていたなんて・・・
「ああ、そうだな。私も泣きながら目覚める方が多い。そして同じ過ちを犯したくないと思っている。だが、本当に償いたい相手がいなければ償えない。君は……私を恨んでいないのか?」
「……う~ん、ソラタ先輩をですか? 恨んだりしてませんよ。俺が後悔していたのは、自分の曖昧な態度と、最後の思いを伝えられなかったことですから」
王子への想いを知っていたのなら、私が裏でいろいろやっていたことも知っているだろう。それでも恨んでいないと言うのだろうか……
ラルカンドを結果的に死に追いやった私とエイブを、本当に恨んでいないなんて信じられない。
「ソラタ先輩が、ラルカンドを狙っていたクズ野郎をけしかけて襲わせたり、ラルカンドを王子に近付かせるのは危険だと、エイブに暗示をかけたりしていたのは知っていましたよ。だけど俺は、俺を懸命に守ろうとしてくれるエイブが好きだったので、エイブの束縛も過剰な独占欲も、愛なのだと思って幸せだったんです」
まるで全てを悟っているかのようなラルカンドの言葉に、彼よりも大人であるはずの私は愕然とした。
「ソラタ先輩は、何を後悔しているんですか? 俺が死んで邪魔者が居なくなったのに、貴方は、いえ、ガレイル王子は幸せな人生を送れなかったのですか?」
「それを訊くということは、君はエイブから自分の死後のことを何も聞いてないのか? ガレイル王子のことも・・・ガレイル王子には出会っていないんだな?」
俺にとって重要なのは、ガレイル王子が現世に現れているのかどうかだ。王子のその後の情報を知らないのなら、きっと出会ってはいないはずだ。
俺はワインの追加を頼むかどうかを迷いながら腕を組んだ。まだ、大事な話を聞き出せていない。
「相変わらず先輩は、質問を質問で返し、まるで尋問するように話すんですね。今の問いには……まだ答えられません。エイブには、俺の記憶は16歳くらいまでしか覚醒していないと言ってありますから。・・・ソラタ先輩、いえ九竜副社長、俺のことはラルカンドではなく春樹と呼んでください。なんだか混乱するので」
春樹はまるで挑むような瞳で、ニヤリと意味あり気に微笑んだ。なんだこいつは……
私が、この九竜 惺が翻弄されている?そんなことは認められない。
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