前世の僕は、いつまでも君を想う

杵築しゅん

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45 吹き荒れる風と決心

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◇◇ 原条れん ◇◇

 期末試験の最終日、俺は学校内で友人に向けられる視線の中に、悪意のあるものや、ひそひそと陰口を言う女子学生が居ることに気付いた。

「ねえ、あの噂って本当?青い髪で青い瞳の青虫って」
「違うんじゃない。だって、あの先輩は地毛でしょう?カラコンじゃないし」
「でもさあ、この学校の学生だってネットに載ってたよ」
「本当なら……ちょっとキモイよね」
「でもさあ、本当だったら、あの人はリゼットルのメンバーを知ってるってことだよね」

 それは1年生と思われる女子たちの会話で、何のことか分からなかったが、該当する人物が春樹であることは疑いようもなかった。
 俺は2年連続でデジ部の映画にも出ていて顔も売れており、社交的な性格だったので、話をしていた女子に近付き、きっちりと情報を入手した。
 とんでもない噂内容に愕然とし、明らかに虚言、または春樹を陥れる悪意ある噂に腹が立った。

 春樹はその外見から派手に見られるが、かなりの人見知りでヘタレでシャイだ。目立つことを嫌い、デジ部の映画は専ら音楽担当だ。
 リゼットルといえば、話題のアニメの主題歌を歌っていたバンドだが、あの曲は確かコンテストに入賞したラルカンドという奴が作った曲だと記憶している。
 春樹の友人にバンドをやっている奴らが居るのは知っている。確か山見高と西川高でバンドを組んでいたはずだ。噂が本当なら、そいつらがリゼットルということになる。
 うちの文化祭に来ていた春樹の幼馴染の啓太が山見高で、啓太の部活の先輩がバンドメンバーだったことで知り合ったと言っていた。

 何も知らなさそうな春樹に、このことを言うかどうかを迷ってしまう。
 で、迷っている数日間に、すれ違い様に「青虫」とか「恥ずかしいヤツ」とか「ホモ」と心無い言葉を吐きかけるゲスが現れた。
 俺が隣に居る時でこれだから、一人の時は何を言われているか分からない。
 それなのに春樹のヤツは、何も言い返さないし完全無視している。この様子だと、何も知らないのかグッと堪えているのか……どちらかだ。とうとう部活の後輩からも、春樹のことが噂になっているけど大丈夫かと訊かれた。

 そして今朝、教室に入ったら春樹の机に落書きがしてあった。
 青い油性マジックで《 リゼットルに近付くな青虫 》と。何なんだよいったい!
 登校してきた春樹は自分の机を見て「とうとう来たか」と呟いた。

「おい春樹、どうなってるんだ?お前はあのデタラメな噂を知っていたのか?あんな、噓を書かれて、なんで反撃しないんだよ!」

俺は落書きした犯人に対し無性に腹が立って、まるで春樹を責めるように怒鳴ってしまった。

「心配掛けたみたいでゴメン。その件は、もう直ぐ解決すると思う。
 仕掛た女は2年前にフラれた腹いせで、メンバーを苦しめたかったみたいだ。
 偶然一緒にいた俺をターゲットにして、自分がメンバーと付き合っている彼女のような虚言を吐き、目立ちたかったみたいだ。
 告白されて丁重に断っただけで、ここまで他人を貶めることが出来ることに、攻撃された俺よりも、彼氏だと嘘をつかれた友達の方が精神をヤられてる」

春樹は感情を大きく揺らすこともなく、淡々と真相?を語っていく。

「何だそれ!自作自演かよ!」
「フラれた腹いせ?ふざけるなよ!じゃあ、相手の名前は分かってるんだな?」
「信じられない。なにその女!どこの高校?あたしが反撃してあげる」

 どうやら俺と同じように心配していた様子のクラスメートたちが寄ってきて、俺と春樹の会話に入ってきた。

「勘弁してくれよ。何この落書き、このクラスの奴じゃないよな?」
「やめてよ!私たちは春樹くんがチャラ男じゃないって知ってるじゃん!瞳なんて、私たちの前で変化したのよ。書き込みが虚言だって直ぐに分かってたから、あたしは自分の友達には、あれは嘘だって広めてたわよ」

次々とクラスメートが寄ってきて意見する。お前ら、なんで今まで黙ってたんだ?
 きっと俺と同じように言い出せなかったんだろうけど、俺の想像以上に噂が回ってるってことじゃん。クソッ!

「でも、俺は相手にしない。確かに俺はリゼットルのメンバーとは友達だけど、俺よりもあいつらの方が大変だ。明日から学校に行くのを自粛するかもしれない。俺はこの落書きの犯人捜しはしない。

春樹はそう言って意味深に微笑んだ。
 そうだよな。うちの部には、あの最強部長が居る。今年はつい先日、念願の全国大会入賞を果たし、この学園の副理事長だ。あの人が後輩を、特に可愛がっていた春樹を攻撃されて黙っているはずがない。




◇◇ 佐々木一俊 ◇◇

 12月16日放課後、山見高の校門に、他校の学生や野次馬と思われる者、リゼットルのファンだと豪語する者たちが集まり始めた。
 昨日までは2・3人だったのだが、ネットによる拡散は思っていたよりも早かった。
 山見高の学生の中にも、今話題のバンドのメンバーが校内に居ると囁かれ始めていたし、だんまりを決め込んでいる俺や蒼空や伯に、どうなのかと質問する友人も出てきた。

 不味かったのは、学校側の対応だった。
 放課後俺ら3人を、同時に校長室に集めてしまったのだ。当然その様子を見ていた学生は、噂のリゼットルのメンバーが、かつての【空色パラダイス】のメンバーであると確信してしまった。

「学校の迷惑になるようですので、我々は登校を自粛します。ですから、警備の人を雇う必要はないのではと思います。19日の月曜、クラスメートに説明させてください。説明後は自宅待機します。騒ぎが収まるようでしたら、全校集会には出席したいと思いますが、無理そうだったら休みます。最悪の場合でも、卒業式だけは出席させてください」

バンドリーダーである俺は、代表で今後のことについて話しながら、覚悟を決め真面目な顔で頭を下げる。

「いや、学校は君たちを守るつもりだ。何も休まなくてもいいだろう」
「いや、しかし校長、これから本格的に受験に入る3年生に影響が出るかもしれません。それに、部外者が校内に侵入するのは問題です」
「だが教頭、彼らは真面目に勉強し大学にも合格している。授業態度も問題ない。むしろ、学校側が来させないようにしたと思われる方が、騒ぎになると思うが」

 校長と教頭が意見を戦わしている間にも、校門前に来た野次馬なのかファンなのかが、ネットに学校の写真や部活をしている学生の写真を勝手にアップしていた。
 同じ学校の学生も【リゼットルのメンバーは、うちの生徒で~す】と他校の友人にラインでばらし始めていた。

「校長先生のお言葉は有難いのですが、ネット社会の現在、明日には校内の学生のほとんどが、そして週明けには他校の中学・高校・大学生、そして一般人も情報を得ていると思います。
 私たちは、学校にも学友にも、地域の人々にも迷惑を掛けたくありません。
 自惚れで終わるならいいのですが、関係のない学生が写真に撮られたり、話し掛けられたりするのは嫌なんです。
 もしも、もしも年内にばれたら、出席日数が足りていれば休もうと決めていました。期末試験も受けられたので充分です」

今度は蒼空が、これは想定していた事態なので覚悟はできていますと言って、少し寂しそうに笑った。

「私は、4月から転校予定の学校に許可をいただきましたので、3学期から東京に転校します。本当は3年生から東京に行く予定でしたが、悪意ある書き込みをしたファンが、友人を傷つけてしまいました。ネット社会の怖さを痛感し……不本意ですが……この学校を去りたいと思います」

伯は少し言葉を詰まらせながら、転校を決めたと校長に告げた。

「俺は応援しているからな。いつか、もっとビッグになって、卒業式にサプライズゲストで来てくれ!リゼットルのメンバーの母校なんだと、学生たちが自慢できるよう、プロとして頑張ってくれ!」

3年の学年主任である牧田が、立ち上がって俺、蒼空、伯の頭をぐしゃぐしゃと撫で、無念さを滲ませながらも励ましてくれた。


 12月19日㈪、今朝はファンや野次馬の待ち伏せを避け、家族の車で午前7時には学校に到着していた。
 予想していた通り、リゼットルの正体が俺たちだと学校中に広まっていた。
 土日にクラスメートや部活の連中から、本当のことを教えろ!とラインやショートメールが来ていたが、俺は月曜に学校で話すと伝え何も教えなかった。

「みんなおはよう。リゼットルのリーダーで、ドラム担当の佐々木一俊です」

担任の先生との事前の話し合いで、朝のホームルームで自分たちのことと、これから休むことの説明をする許可を得て、俺は極力明るい声で話し始めた。

「オォーッ!よくやった!」
「きゃー!一俊くん、サインして」
「シークレットは大丈夫なのか一俊?」

思っていたよりも前向きな声が掛りほっとし、俺はニヤリと笑った後で、手を挙げて騒ぎを静めた。

「俺もまさかプロデビューするなんて思ってなかったよ。運が良かっただけだ。
 これから俺たちは本格的な活動に入るので、残念ながら暫く学校は休んで、東京に行くことになる。
 ファンや野次馬が皆に迷惑を掛けるかもしれない。
 その時は、リゼットルのメンバーは、もう学校には来ないと言っておいてくれ。
 騒ぎが終息したら、こっそり、ちゃっかり登校するから。
 最後までみんなと一緒に過ごしたかったけど……ちょっと無理っぽい」

「気にすんな!お前は俺の自慢の友達だ。迷惑なんて考えてないよ」

1年からずっと同じクラスの斎藤が、気にするなと声を掛けてくれる。
 その後も頑張れとか負けるなと、皆の応援する言葉が教室内に飛び交う。

 ……ああ、いいクラスメートに恵まれたな。受験前で大変なのに、ありがとう。

「教え子が芸能人になった。リゼットルというアニソンを歌うバンドだって中学生の娘に言ったら、初めて自慢の父だと言われた。だから佐々木、これにサインをしておいてくれ。バンドメンバー全員で頼む」

担任の石田が、買ったCDを俺に差し出し、サインをしてくれと頼んできた。

「え~っ!それってアリ?」とか「担任のくせに抜け駆けか!」と文句を言ったり、俺も私もと手を挙げる。

「ありがとう。お前らと同じクラスで本当に良かったよ。でもサインは、来年発売するアルバムにするから、絶対に買ってくれ。今度はちゃんと顔も出すからさ」

俺は茶目っ気たっぷりにウインクをして、アルバムを買ってくれと頼んでおく。 
 なんで黙ってたんだ!、友達だろう!って文句を言われると覚悟していたのに、誰も秘密にしていたことには触れない。担任の演出も有難い。
 今日が最後な訳じゃないから、しんみりしたくはない。だから笑顔で、しばしの別れを告げよう。

「受験頑張れよ!友達がリゼットルに居るって言われる程の、人気バンドになるよう俺もベストを尽くす。雑誌やテレビに出る時は、クラスラインに連絡する。応援よろしくお願いします」

俺は応援のお願いと諸々のお詫びも兼ねて、ゆっくりと頭を下げた。そして、笑顔で教室を出ていった。


 生徒指導室に行くと、先に到着していた伯が、赤い目をして待っていた。
 伯は予定より早く転校する。この学校の卒業生にはなれないことが、本当は寂しいし残念なはずだ。クラスメートにきちんと別れを告げられたのだろうか?
 なんとなく声を掛けそびれている間に蒼空が入ってきた。

「あいつら、容赦なくサイン色紙を寄越しやがった!しかもクラス全員分だぞ」

紙袋に入った38枚の色紙を抱えながら文句を言う蒼空は、仕方ないと言いながらも嬉しそうだった。
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