113 / 230
サンタさん、学生になる
113 西地区の闇(9)
『サンタや、取り敢えず言い訳を聞いてみたらどうじゃ』
怒りのあまり口調が完全に上からになっていた私に、サーク爺が穏やかに、でも怒りの感情も見え隠れする言い方で提案する。
私は目を瞑ってフーッと大きく息を吐き、サーク爺の提案を呑むことにした。
「軍を再開発地域に向かわせたのに、中に入れなかったのは何故?」
「突入前に情報が漏れたのか、一箇所しかない進入路にバリケードを設置され、これ以上侵入したら人質を殺すと言われたのだ」
少し穏やかな口調に変えて質問した私に、ホロル様は自分も現場に向かって交渉したと言った。
「人質? 軍はいったい誰を出せと要求したの?」
「勿論、アロー公爵家の子息と、ファイトアロ男爵だ」
真面目な顔をしてそう言ったホロル様には悪いけど、全く同情する気にもなれないし、状況判断ができていないことに呆れた。
実の父親ではあるけど、アレス君もはあ?って顔をして呆れている。
「私たちを攫うように指示した魔術師学校の教官は、私のことは準男爵家の娘で、アレス君のことは平民だと思い込んでいたのよ?
当然【闇烏】の奴等は、攫った子供が公爵家の子供だとか男爵だなんて思ってない。
身に覚えのない誘拐で軍が来たとしても、何の問題もなかったでしょうね」
私とアレス君が養子になれと強要されているのは、身分を勘違いしているからだと家令のコーシヒクさんから聞いていたはずなのに、なんで身分をバラしちゃうかなぁ・・・
「そもそも、僕たちは父上が来る随分前に、既に王都の城壁より外に連れ出されていた。
もしかしたら【闇烏】は、ありもしない事件をでっち上げ、自分たちを軍が取り締まりにきたと勘違いしたかもしれない。
居もしない人物を人質だと言った【闇烏】の言葉を、信じること自体が理解できない」
ああ、アレス君がダメ出ししてる。
最近私の影響で、キラキラの貴公子が辛口の魔法使いに変わってきてるもんね。
「私たちを買った2人の子爵は、古代遺跡近くの森で養子に来いと説得している最中、盗賊を装った【闇烏】に襲撃され、あっさり私たちを諦めて逃げた。
そして私たちを殺すよう【闇烏】に依頼したツルリ子爵のせいで、【闇烏】の7人の男たちに殺されるところだった。
懸命に魔法で抵抗し、生き延びるために戦っていたら、事件を正しく読み解いた最速踏破者の仲間が助けに来てくれて、今、こうして生きていられるの」
事件の本質も、経過も予測できていなかったホロル様に、私は現実を突きつけ、貴方は見当違いで無駄なことをしていたのよ・・・とは言わなかったけど、だいたい分かってくれたんじゃないかな。
「僕たちが殺されそうになったのは、悪人を野放しにしていたアロー公爵家の責任だと思います。
4年前に母上を殺せと命じたのもツルリ子爵でした。
でも、ツルリに殺せと命じた者が必ず居るはず。ツルリを厳罰に処し、裏でツルリを操った者を父上が捕らえるまで、僕はアロー公爵家に戻ることはありません」
アレス君はそう言うと私の横に並んで、「帰ろうサンタさん」と言ってホロル様に背を向けた。
ホロル様は、室内に転がされている男を凝視し、それがツルリ子爵だと分かると驚愕の表情になり、「こいつがアンリエッタとアンタレスを?」と呟き、怒りで顔を歪めていく。
リーダーとサブリーダーは、そのまま警備隊本部に移動し、事件を説明し捜査の成り行きを確認することになった。
私とアレス君は残りの最速踏破者の仲間に、ホッパー商会の馬車で家まで送ってもらった。
家に帰ると、血濡れの私とアレス君を見て母様が倒れそうになり、兄さまが大泣きをしてしまった。
夕食後、私は王太子様宛に手紙を書いて、母様に王宮まで届けてもらった。
凄く心配しているであろうエルドラ王子や王太子妃様に、無事に生きて帰宅したことも伝えてもらう。
軍が動いた時点では、母様は何も知らなかったみたいだけど、仕事が終わって帰る直前に、王太子妃様から【闇烏】に捕まったようだと知らされたらしい。
「お風呂にも入った。ご飯も食べた。30分後には出発よ」
「了解サンタさん。腕が鳴るね」
午後10時、私たちはこっそりと寝室を抜け出し、一緒に付いて来たシリスをお供に、闇に紛れて西地区へと徒歩で向かう。
上級魔法と中級魔法の練習場である再開発地域は、王都を囲む城壁の内側に沿うように建物が建ち並び、古い木造建築が中心で、建て増しされたのか本来2階建ての建物が3階や4階建になっていた。
入り口付近の建物だけ3階建のレンガ造りで、見張り塔の役割もあるんだと思われる。
こんな時間なのに各建物にはまだ明りが灯されており、起きている者が大勢いるようだ。
私たちが監禁されていた建物の前では、焚火を囲んで酒盛りをしている男たちがいて、大声でバカ騒ぎをしている。
「あの煉瓦の建物を最初に崩せば、逃げ道はなくなるね」
「うん、そうだね。先に一番奥の建物に炎の攻撃を仕掛けて、皆が火消しに動いたら、アレス君は移動して中級魔法の練習をしてね」
私たちは再開発地域がよく見渡せる城壁の上に立ち、魔法の練習をする手順を確認していく。
一番奥の建物は、再開発地域と一般地区とを区分けするためか、城壁と同じ高さの壁で仕切られており、一般地区にはレンガ造りの3階建てのアパートが建ち並んでいた。
……あの壁があれば延焼することはないわね。もしも火の粉が飛ぶようなら、水魔法で消せばいいか。
『風向きもバッチリだわサンタさん』と、パトリシアさんが明るく言う。
『そうじゃのう、まあ王都中で大騒ぎになるじゃろうが、悪を滅ぼすためじゃ、遠慮なくやればいい』
サーク爺までちょっとワクワクした声で、魔法の練習を後押ししてくれる。
『俺は間もなくやって来るであろう軍や警備隊の動きを偵察するぞ』と、ダイトンさんが嬉しそうに移動を開始する。
『俺は念のため、飛び火がないか確認するで』と、トキニさんは風の流れを読みながら監視係りをやってくれる。
『あいつら、悪人のくせに上等なお酒と高級肉を飲み食いしてたわ』と、先に様子を見てきたマーガレットさんが、プンプン文句を言う。
「さあ、練習を開始しようアレス君」
「了解サンタさん」
怒りのあまり口調が完全に上からになっていた私に、サーク爺が穏やかに、でも怒りの感情も見え隠れする言い方で提案する。
私は目を瞑ってフーッと大きく息を吐き、サーク爺の提案を呑むことにした。
「軍を再開発地域に向かわせたのに、中に入れなかったのは何故?」
「突入前に情報が漏れたのか、一箇所しかない進入路にバリケードを設置され、これ以上侵入したら人質を殺すと言われたのだ」
少し穏やかな口調に変えて質問した私に、ホロル様は自分も現場に向かって交渉したと言った。
「人質? 軍はいったい誰を出せと要求したの?」
「勿論、アロー公爵家の子息と、ファイトアロ男爵だ」
真面目な顔をしてそう言ったホロル様には悪いけど、全く同情する気にもなれないし、状況判断ができていないことに呆れた。
実の父親ではあるけど、アレス君もはあ?って顔をして呆れている。
「私たちを攫うように指示した魔術師学校の教官は、私のことは準男爵家の娘で、アレス君のことは平民だと思い込んでいたのよ?
当然【闇烏】の奴等は、攫った子供が公爵家の子供だとか男爵だなんて思ってない。
身に覚えのない誘拐で軍が来たとしても、何の問題もなかったでしょうね」
私とアレス君が養子になれと強要されているのは、身分を勘違いしているからだと家令のコーシヒクさんから聞いていたはずなのに、なんで身分をバラしちゃうかなぁ・・・
「そもそも、僕たちは父上が来る随分前に、既に王都の城壁より外に連れ出されていた。
もしかしたら【闇烏】は、ありもしない事件をでっち上げ、自分たちを軍が取り締まりにきたと勘違いしたかもしれない。
居もしない人物を人質だと言った【闇烏】の言葉を、信じること自体が理解できない」
ああ、アレス君がダメ出ししてる。
最近私の影響で、キラキラの貴公子が辛口の魔法使いに変わってきてるもんね。
「私たちを買った2人の子爵は、古代遺跡近くの森で養子に来いと説得している最中、盗賊を装った【闇烏】に襲撃され、あっさり私たちを諦めて逃げた。
そして私たちを殺すよう【闇烏】に依頼したツルリ子爵のせいで、【闇烏】の7人の男たちに殺されるところだった。
懸命に魔法で抵抗し、生き延びるために戦っていたら、事件を正しく読み解いた最速踏破者の仲間が助けに来てくれて、今、こうして生きていられるの」
事件の本質も、経過も予測できていなかったホロル様に、私は現実を突きつけ、貴方は見当違いで無駄なことをしていたのよ・・・とは言わなかったけど、だいたい分かってくれたんじゃないかな。
「僕たちが殺されそうになったのは、悪人を野放しにしていたアロー公爵家の責任だと思います。
4年前に母上を殺せと命じたのもツルリ子爵でした。
でも、ツルリに殺せと命じた者が必ず居るはず。ツルリを厳罰に処し、裏でツルリを操った者を父上が捕らえるまで、僕はアロー公爵家に戻ることはありません」
アレス君はそう言うと私の横に並んで、「帰ろうサンタさん」と言ってホロル様に背を向けた。
ホロル様は、室内に転がされている男を凝視し、それがツルリ子爵だと分かると驚愕の表情になり、「こいつがアンリエッタとアンタレスを?」と呟き、怒りで顔を歪めていく。
リーダーとサブリーダーは、そのまま警備隊本部に移動し、事件を説明し捜査の成り行きを確認することになった。
私とアレス君は残りの最速踏破者の仲間に、ホッパー商会の馬車で家まで送ってもらった。
家に帰ると、血濡れの私とアレス君を見て母様が倒れそうになり、兄さまが大泣きをしてしまった。
夕食後、私は王太子様宛に手紙を書いて、母様に王宮まで届けてもらった。
凄く心配しているであろうエルドラ王子や王太子妃様に、無事に生きて帰宅したことも伝えてもらう。
軍が動いた時点では、母様は何も知らなかったみたいだけど、仕事が終わって帰る直前に、王太子妃様から【闇烏】に捕まったようだと知らされたらしい。
「お風呂にも入った。ご飯も食べた。30分後には出発よ」
「了解サンタさん。腕が鳴るね」
午後10時、私たちはこっそりと寝室を抜け出し、一緒に付いて来たシリスをお供に、闇に紛れて西地区へと徒歩で向かう。
上級魔法と中級魔法の練習場である再開発地域は、王都を囲む城壁の内側に沿うように建物が建ち並び、古い木造建築が中心で、建て増しされたのか本来2階建ての建物が3階や4階建になっていた。
入り口付近の建物だけ3階建のレンガ造りで、見張り塔の役割もあるんだと思われる。
こんな時間なのに各建物にはまだ明りが灯されており、起きている者が大勢いるようだ。
私たちが監禁されていた建物の前では、焚火を囲んで酒盛りをしている男たちがいて、大声でバカ騒ぎをしている。
「あの煉瓦の建物を最初に崩せば、逃げ道はなくなるね」
「うん、そうだね。先に一番奥の建物に炎の攻撃を仕掛けて、皆が火消しに動いたら、アレス君は移動して中級魔法の練習をしてね」
私たちは再開発地域がよく見渡せる城壁の上に立ち、魔法の練習をする手順を確認していく。
一番奥の建物は、再開発地域と一般地区とを区分けするためか、城壁と同じ高さの壁で仕切られており、一般地区にはレンガ造りの3階建てのアパートが建ち並んでいた。
……あの壁があれば延焼することはないわね。もしも火の粉が飛ぶようなら、水魔法で消せばいいか。
『風向きもバッチリだわサンタさん』と、パトリシアさんが明るく言う。
『そうじゃのう、まあ王都中で大騒ぎになるじゃろうが、悪を滅ぼすためじゃ、遠慮なくやればいい』
サーク爺までちょっとワクワクした声で、魔法の練習を後押ししてくれる。
『俺は間もなくやって来るであろう軍や警備隊の動きを偵察するぞ』と、ダイトンさんが嬉しそうに移動を開始する。
『俺は念のため、飛び火がないか確認するで』と、トキニさんは風の流れを読みながら監視係りをやってくれる。
『あいつら、悪人のくせに上等なお酒と高級肉を飲み食いしてたわ』と、先に様子を見てきたマーガレットさんが、プンプン文句を言う。
「さあ、練習を開始しようアレス君」
「了解サンタさん」
あなたにおすすめの小説
スラム街の幼女、魔導書を拾う。
海夏世もみじ
ファンタジー
スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。
それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。
これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。