三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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王立能力学園・大賢者編

189 呪術と魔法(7)

 ヨカランの頭上に33本の炎の矢が現れ、ヨカランの行く手を阻むように正門近くに半円形で降り注いでいく。
 そして地上に突き刺さると炎は3メートルの高さになり、ヨカランの動きを止めるため炎の輪へと変形し取り囲んでいく。
 炎の色は青に近くかなりの高温だから、触れると服は焼け大火傷は免れない。

「ウワーッ!」とヨカランの悲鳴が聞こえる。

「ウオォーッ!」って、鐘楼の上から魔術師の皆さんの声がする。

 私は直ぐにエアーアタックを使ってヨカランの前に移動し、正門側の上空で待機する。
 決して油断なんかしないよ。
 大好きなツクルデ教授は、今頃埋葬されている頃だもん。
 見ていてね教授。仇は絶対にとるから。

「いくよサンタさん!」と、アレス君が攻撃準備完了の合図を出す。

「了解、殺さないよう気を付けて! 私はいつもの場所ね」と、私も大きな声で答えて、炎の高さを徐々に下げていく。

 上空から見えるヨカランは、何が起ったのか分からず、恐怖の表情で身動きできずにいる。
 炎がヨカランの視線の高さまで下がった時、私はヨカランの視線の高さより少しだけ高い位置で浮いており、視線が合った瞬間、私はヨカランを睨み付けた。
 宙に浮いている私を見たヨカランは息をのみ、「な・・・」とだけ声を発した。

 炎が地面まで下がりヨカランの全身が露わになったのを合図に、アレス君は得意の土魔法で作っていた尖った石を、ヨカランの右太もも目掛けて攻撃を仕掛ける。
 私は高度を下げながら、ヨカランと同じ目線になった所で、左目に親指大の尖った氷を放つ手筈になっている。

 小さくなっていく炎に少し緊張を解くヨカランだけど、視線は私を警戒し向けられたままだ。
 私もヨカランを睨んだまま、無詠唱で親指程の大きさの氷を眼前に作りだす。
 そして自分と同様宙に浮かせておき、右手を前に出し人差し指をヒュンと素早く前に振った。

 ヨカランは私をずっと睨んだまま、行動の一部始終を見ていた。
 魔法を知らないヨカランは、我が身を守るため次に何が起るのかを知る必要があり、私から目を離すことができなかったのだ。
 放たれた2つの攻撃をほぼ同時に受け、ギャー!と悲鳴を上げる。

 攻撃の速度は目で追えるかどうかで、ヨカランは痛みを感じて攻撃されたことを実感したのだと思う。
 その場にしゃがみ込み、左目に手を当て刺さった氷を抜こうとする。
 普通なら痛くて転げまわるところだけど、この悪人は一般人より根性があるのか往生際が悪いのか、氷を抜くと立ち上がり逃げようとする。

 ……なんて奴なの。

 直ぐにアレス君の2発目が左足の足首辺りに命中し、今度はグワーッ!と叫んで転げた。
 
 流石にもう逃げられないだろうと思い近付こうとしたら、攻撃を受けていない両手でカバンを拾って開け、中から何かを取り出そうとする。
 取り出したのは恐らく呪符で、その数は2枚。

『サンタや、自死する気じゃ』と、サーク爺が慌てて叫んだ。

『早く呪符を取り上げて!』とパトリシアさんも叫ぶ。

『えっ?』って答えた私は、自死の意味が思い出せず一瞬ポカンとした。
 だって、まさかそんなことをしようとするなんて、全く思ってなかったから。
 直ぐに近付き呪符を取り上げようと手を伸ばすと、ヨカランは1枚の呪符を私のスカートに貼り付け、悪魔のように歪んだ顔で、「私の勝だ!」と言って醜くニヤリと笑った。

 駆け付けてきたアレス君が心配して「サンタさん大丈夫?」と声を掛け、ウエストポーチから聖水入りの小瓶を取り出し、ヨカランが自分の体に貼ろうとした寸前、持っていたもう1枚の呪符にジャバジャバと掛けていく。

「無駄だ無駄だ! この呪符は聖水くらいでは完全解呪はできない。せいぜい効果が落ちるくらいだ! アーハッハ。これはお前に貼ってやろう」

 地面にはいつくばっているくせに、勝ち誇ったようにヨカランは笑う。
 当然アレス君は、ヨカランの手が届かない位置までサッと距離をとる。

「へ~っ、即死・・・に近い呪符なんだ。5分後に死ぬって、ダメダメじゃん。魔法使いに5分も時間を与えるなんて、ほんと笑っちゃうわ」

 私は自分に貼られた呪符を解読し、白い手袋を装着した手で剥ぎ取って笑い返した。
 そして信じられないって驚愕の表情に変わったヨカランが持っていた、もう1枚の呪符を素早く奪い取り、2枚の呪符をビリビリと破ってみせた。

『やはり2枚とも同じ呪符じゃったか。楽に死なせることは阻止できたわい』

 サーク爺はそう言って、安堵の息を吐いた・・・気がする。

 はあ? どうして素手で呪符を持つことができるんだ!って、愕然とした表情でヨカランは座った姿勢で私を見上げる。
 呪符は呪術師以外が素手で触ると、呪符の影響をもろに受け即座に体調を崩すか、呪符の内容で呪われる可能性が高いと教会本部で学んでいる。
 だから全く呪われている様子もなく、普通にしている私が信じられないのだろう。

「魔法使いは、呪符の影響を受けないのか? そんなバカな・・・」

「もちろん受けるわよ。でもね、私は特別な力を持っているの。残念ねフフフ」
 
 私が、ではなく【聖なる効果】のある手袋の力だけど、もう1度笑っておこう。

「楽に死ねると思うなんて、呪術師っておめでたいのね」

「えっ? もしかしてコイツ、自分で死のうとしたの? ハハハ、極悪人の呪術師でも死刑は怖いんだ」

 アレス君は自分が放った攻撃で血を流している足首を、フンと言いながら踏みつけた。
 アレス君は、私を害そうとした者には容赦ない。
 足で踏んだり蹴ったりすることが多く、剣士じゃないから剣を帯刀してないし、下手に魔法で攻撃したら命を奪いかねないから足を使う。

 ……まあ魔術師は剣を習う必要がないと言われているし、本来公爵家の子息には専属の護衛がつくのが当たり前だしね。

 ……今でもアレス君の1番の護衛は私だよ。そのポジションは、誰にも譲る気はないから。

「アーハッハ、間もなく5分だ。呪符を剝がしても一旦貼られた呪符は解除されない。お前は死ぬんだ!」

「そう?」とこともなげに言って、私はヨカランを魔法で持ち上げ、大聖堂の前まで放り投げた。

 一部始終を見ていた王子と騎士団が、待ってましたとばかりに飛び出してくる。   
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