三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、トレジャーハンターになる

18 怒濤のデビュー戦(2)

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 混乱している【最速踏破者】メンバーの前に、魔術師のファーズさんが出てきて、にっこりと笑って私のことを説明してくれる。

「サンタさんの魔術・・・じゃなかった、魔法の攻撃は凄いぞ。【中位・魔術師】でも、あれ程の攻撃は放てないだろう。
 まあ、いろいろと言いたいこともあるだろうが、魔法の腕は間違いない。 
 ただ、今回初めて古代都市に潜るから、全くの新人と思って気遣ってくれ。
 職業のことは深く考えるな。教会でも詳しいことは分からないらしいから」

 うん、協会の魔術師教官でもあり試験官でもあるファーズさんの言葉だ、きっと納得してくれる・・・訳じゃあなさそうだけど、こればかりは見てもらうしかない。
 でも、試験会場の的や岩を、これ以上壊すのは勘弁して欲しいとチーフが言うので、古代都市に潜って魔法を見せることになった。



 古代都市に潜る時は、たくさんの装備や水や食料を携帯して行く必要がある。
 前衛で攻撃を任されている銀級剣士のリーダー・カーリンさん38歳と、銅級槍術士のサバンヤさん30歳は、攻撃時に邪魔にならないよう最小限の荷物を入れたリュックだけを背負い、先頭を進んでいくらしい。

 サブリーダーで銀級ナイフ投げのヤバノキさん33歳は、メンバーの中で一番小柄だけど、背負うリュックは一番大きい。
 なんでもそのリュックは古代都市の遺物らしく、実際の重さの3分の1しか感じない優れもので、ヤバノキさんが得た最高の戦利品なんだとか。
 ヤバノキさんの荷物の中には、食料や煮炊き道具、そして医薬品が入っている。

 ……何それ、私も絶対に欲しい!

『サンタや、中級魔法の中に軽量魔法があるぞ。使えるようになったら、どんな荷物も片手で持てるくらいにできるし、上級魔法を覚えたらポーター人形を作ることも可能じゃ』

『はい? ポーター人形? それは、幼児には絶対に必要なもの。うん、私、頑張る』


 銅級で力持ちのカンパーニさん26歳は、主に戦利品を持ち帰る担当で、大き目のリュックの他に折り畳み式のリヤカーを牽いている。
 この折り畳み式リヤカーは、ホッパー商会の主力商品で、トレジャーハンターだけでなく、商人さんたちからも大人気だ。

 最年少でまだ鉄級のヨケンヤラさん18歳は、掘削担当なのでスコップやツルハシなどを持っているけど、武器としても使えるんだよと説明してくれた。
 鉄球だから中層部(中部)までは潜れるけど、最深部には潜れない。
 トレジャーハンターになって6年目で、皆の弟分として頑張っている。

 お爺様とホッパーさんの荷物は、チーフが会員専用のポーター2人を貸し出してくれたので手ぶらに近いウエストポーチだけだ。
 私? もちろん小さなリュックだけだよ。
 でも、ハンター用にと買ってもらったポケットがたくさんついたベストには、攻撃用に石礫が入れてある。
 そしてリュックごと覆うように、冬用の茶色い薄皮のポンチョを着ている。

 ……よし、準備万端、レッツゴー!



「わーい、憧れの古代都市ロルツのゲートだぁ!」
 
 思わず嬉しくて万歳する3歳児サンタでございます。
 ただ、どうみても幼児、どう見ても場違いな私を、入場確認するゲート担当の協会職員の2人が、首を捻りながらガン見してくる。
 そしてサブチーフに、これは何事でしょうか?って問う視線を向ける。
 
「ああ、この子はサンタさん。昨日、協会の魔術師試験に合格し、特例で銅級トレジャーハンターになった子だ。
 暫くの間、銀級パーティー【最速踏破者】の仮メンバーとして同行する」

「・・・?」

 はあ?って顔をした2人の職員は、サブチーフの言葉だけど本当かよ!って疑いの目で私を見るけど、反論なんてしない。サブチーフが怖い顔で睨んでいるから。

「サンタさん、ゲートを通過する時は、全員が名前と目的地を記入する決まりです。えっと、名前は書けますか?」

「はい、大丈夫ですリーダー」

 私は胸を張り、【銅級・魔法使いのサンタ】と名前を記入した。
 協会が発行した魔術師認定証には、本名のサンタナリア・ハーシルン・ファイトと記入してあるけど、ハンターの名札には【銅級・魔法使い・サンタ】としか書いてない。
 もしも子爵家の人間だとバレると、誘拐など危険な目に遭う可能性が高いから、サンタとだけ記入してある。

 平民が多いトレジャーハンターは、名前だけ記入って人が半数なんだって。
 それでも【職業選別】で【トレジャーハンター】の職業を授かった者は、トレジャーハンター協会がやっているハンター養成学校で、1年間勉強できるらしい。
 卒業すると鉄級からスタートすることができるし、ミドルネームとしてロルツって記入することが許されるんだとか。

『みんなが記入した名簿を見たら、サブリーダーのヤバノキさんにはロルツが付いていた。
 ありゃ、リーダーのカーリンさんはミドルネームがヒータナンだから、男爵家の出身なんだ』

『まあ、男爵や騎士爵の家なら、長男以外は自分で稼ぐしかないからな。
 協会も考えたもんじゃ。俺は養成学校卒なんだぞって自慢できるし、ミドルネームを持てることも、古代都市ロルツのロルツを名に頂くことも誇りにはなるじゃろう』

『そうかもね。貴族じゃないけど、強いトレジャーハンターだって威張れるかも。そもそも【職業選別】がトレジャーハンターだもん、強くなるはずだよ』


 ゲートを通ると、その先には古代都市へと入っていく、四隅を黒光りする鉄で補強された厚い木製の巨大な扉がドーンと存在感を示して迎えてくれた。
 扉には、古代語で書かれた文字と、火山から溶岩が流れ出るような不思議な絵が描かれている。

「汝、世の天変地異に贖うならば、この扉を開け命を繋げ?」扉の文字を声を出して読み上げていく。

「サンタや、お前は古代文字まで読めるのか? は~っ、深く考えるのは心臓によくないな。
 だがなサンタ、お前はやはり、王立能力学園に入学すべきじゃ」

 お爺様が大きな溜息を吐きながら、私に王立能力学園に入学しろと言う。

「私も同感です子爵様。アンタレス君に家庭教師を付けるので、一緒に勉強し最年少入学して頂くのが良いでしょう」

 ホッパーさんも大きく頷きながら勧めてくる。
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