三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

文字の大きさ
63 / 181
サンタさん、人助けをする

63 調査の行方(7)

しおりを挟む
 私は再びバルコニーに出て、サーク爺に移動できる範囲の他の部屋の壁も確認してもらう。

「バルコニーから発見できた魔法陣は2つで、西端の部屋には、種類の違う呪符が仕掛けられているみたいです。
 隠匿魔法を解除すれば、呪符は姿を現すそうなので撤去できると思います。
 念のために、2つの部屋の中も調査した方がいいだろうと師匠が言ってます。
 庭の呪符は、枯れた花や木があれば地面を掘って確認してください」

 私はサーク爺の指示通りに、必要なことを伝えていく。
 ホロル様は、必要なら何をしても構わないし、全ての部屋を調べてもいいから、ぜひ助けて欲しいと再び私に頭を下げられた。
 因みに2階の西端の部屋は、アンタレス君の部屋になる予定だったらしい。

 ……なんだと、許せん! 私、完全に怒ったから。


「旦那様、宿泊者名簿を持って参りました」と言いながら、家令のコーシヒクさんが戻ってきた。

 その名簿を確認すると、3年前にヒバド伯爵は執事のヨカランという者を連れて3日間宿泊していた。
 その当時、呪符を貼り付けた部屋は誰にも使われておらず、誰でも入室が可能だったみたい。
 隣の部屋のトーラス君は、当時から同じ部屋を使っていたそうだ。

 そしてヒバド伯爵が最後に執事のヨカランを伴って宿泊したのは、アレス君が襲撃される4日前のことだったらしい。
 その時には、西端の部屋をアレス君が使う予定だと、メイドたちは知っていたから、ヒバド伯爵配下のメイドから情報が漏れ、襲撃され呪符を仕掛けられた可能性が高いと、ホロル様は結論を出した。


「ねえサーク爺、呪符って、解呪する以外に呪術内容を改変することはできないの? 例えば呪術返しをするとか、呪符を確認しようとする者を、呪う・・・いや、確認した者に魔法を仕掛けるとかできない?」

 ホロル様は自室にお戻りいただき、私はホッパーさんと家令のコーシヒクさんと一緒に、呪符を仕掛けられた部屋に向かいながら、サーク爺に質問した。

『サンタや、声に出とるぞ』

「いいの、わざと声に出したんだから」

 私は怒っていた。ちょっとだけ残っていた理性は何処かへ放り投げ、復讐に燃える幼女として戦場に向かう気持ちなのだ。

『サンタさん、けっこうえげつないこと考えるなぁ』
『あらトキニさん、やられたら3倍返しは当然だわ』

「そうよねパトリシアさん、やられたら3倍返しが当然よね」

 やっぱりパトリシアさんとは意見が合うわ。
 私の隣を歩いているホッパーさんは、私と守護霊が会話しているのに慣れているから、ハハハと苦笑しながら歩いてるけど、慣れてないコーシヒクさんは立ち止まり、「そのようなことが可能なのですか?」と振りむいて私に質問した。

『呪術返し・・・幼児の発想ではないぞサンタや。お主はどうしてそう過激に走ろうとするんじゃ?
 まあ、確かにわしの時代にはそういう術があったようじゃが、わしは魔法使いじゃ。呪術の改変は無理じゃな』

「呪術の改変は無理なんだ。残念」

 私の話を聞いたコーシヒクさんも残念そうに肩を落とし、階段を下りて2階の廊下を進んでいく。

『じゃが、魔法陣を確認しようとしたら発動する魔法を仕掛けることは、可能かもしれん。まあ、中級魔法でも難しい部類じゃから、サンタにできるかどうか』

「えっ、魔法を仕掛けることはできるの? やる。難しい魔法でも絶対にやる!」

 私はフンスと鼻息も荒く、必ず敵に攻撃をお見舞いすると拳を握った。


 先に到着したのは、西端のアレス君のための部屋で、全員で怪しい物がないかどうかを確認する。もちろん最強守護霊3人も手伝ってくれる。

「サンタさん、ベッドの下に何か貼ってあるような気がします」

 ベッドの下をしゃがんで見ていたホッパーさんが、私を手招きしながら言う。
 大人では確認が難しいベッド下のスペースだけど、幼児の私なら問題ない。
 可愛いワンピースが汚れても構わないので、私はスルスルと潜り込む。

「ああ、如何にもって感じの魔法陣だね。黒い紙に描いてある時点で不気味」

 ベッドの床板から黒い紙を剝がしとった私は、その紙をテーブルの上に置いてサーク爺に確認してもらう。

「ふーん、ベッドに寝ると気力や魔力が失われていくんだ。へーっ」

 サーク爺から聞いた説明を、私は声に出してコーシヒクさんに説明する。

「なんと、それではトーラス様のベッドにも! 許せません」

 冷静沈着、できる家令の見本みたいなコーシヒクさんが怒りを爆発さる。

 
 次は全員でバルコニーに出て、サーク爺の指示をコーシヒクさんに伝えながら壁から呪符を剝がして貰った。
 その呪符には、庭の呪符と壁の呪符が連動し、3日間屋敷に滞在すると死ぬ呪いがかけられているとサーク爺から説明を聞き皆に伝えた。

「へーっ、たった3日の滞在で殺すつもりだったんだ。ふ~ん」

 私もコーシヒクさんもホッパーさんも、怒り心頭で呪符を睨み付け、私は黒く微笑み絶対に3倍返ししてやると皆の前で誓った。

「いえいえサンタさん、それは私の仕事でございます。毒には毒で返さねば、ホロル様はお許しにはならないでしょう。
 できればヒバド伯爵には全く同じ毒で毒返しをし、呪術師にも相応の痛みを与えねばなりません」

 私より黒く微笑むコーシヒクさんが、これはアロー公爵家が売られた喧嘩ですからと、私にはヒバド伯爵の次男から毒を入手して欲しいと跪いて頼んできた。

「それがいいでしょう。幼女のサンタさんが手を汚す必要などありません」

 サンタさんは本当に3倍返ししそうだから、アロー公爵家に任せた方がいいと、私を説得するようにホッパーさんが言う。

 ……確かにそうだけど、私の腹の虫が治まらないのよ!
 

 結局次男トーラスの部屋のベッドにも同じ呪符が貼られていたけど、壁の呪符には3年後に死ぬ呪いがかけてあった。
 呪符の説明を聞いたホロル様は、当然怒り心頭で底冷えする冷気を漂わせ、3倍返しでは甘いですよサンタさんって、真っ黒い笑みを私に向けた。こわ!


 翌朝、私とホッパーさんはゲートルの町に帰る前に公爵屋敷に寄った。
 徹夜で描いた、大魔法使いの反撃魔法陣を仕掛けるためにだ。

「たった今、大至急ゲートルの町に戻って欲しいと、大旦那様から早馬便が届きました」

 馬車を降りたら、コーシヒクさんが飛んできてそう言った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚した話

きむらきむこ
ファンタジー
乙女ゲームのバッドエンド後の世界で、子爵家令嬢ジュリエットは侯爵家当主のオーチャードと結婚したが…  恋愛色はありません。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...