キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

文字の大きさ
311 / 709
覇王と国王

169ー2 王族として(2)ー2

 我々が王都から来た魔獣討伐専門部隊と冒険者の一行で、先程タイガーとウルフを4頭討伐したと言うと、2階の中部屋を借りることができた。

 窓には内側から板が打ち付けられていて、懸命に魔獣の侵入を防いでいたのだと分かる。
 ひたすら息を潜め、誰かが助けに来てくれるのを待っていたのだ。

 ……今日、我々が来なかったら、この町の生存者は半数になっていたかもしれない。いや、もっと厳しいだろう。 


 すっかり空になっていた水瓶に魔法で水を出し、病人や高齢者から順に水を飲ませていく。

 客として泊まっていた下級貴族の準男爵が、俺は貴族なのだから、一番先に飲む権利があると騒ぎ立てた。
 アコルに会う前なら、これがこの国の普通の貴族だと思っただろう。

 しかし、魔法で水を出していたレイム公爵の側近が、高位貴族っぽい雰囲気を漂わせながら、「文句を言う奴に分ける水はない!」と一蹴したので、住民の我々に対する態度が軟化した。

 問題だったのは食料の配分だ。
 この町には七千人に近い生存者がいる。その全てに回せる食料などないし、この宿にいる300人分の食料さえない。

 討伐したばかりのウルフを出せばいいと、自慢気にレイム公爵は副指揮官に命じたが、冒険者のダイキリさんが、青い顔をして慌てて待ったを掛けた。

「血抜きが済んでない生肉を焼くと、ウルフを呼び寄せてしまう可能性があるし、そもそも食べ難い。
 肉を焼く匂いを他の住民に気付かれたら、空腹のあまり暴動さえ起こりかねないぞ!」

冒険者の常識や被災者の心理に思い至れないレイム公爵に、ダイキリさんは冷めた表情で注意した。

 申し訳ないが、レイム公爵が今日倒した黒焦げのビッグロップと、王立高学院特別部隊が倒した魔獣の内、焼け焦げているものを3頭だけ、部屋の中でマジックバッグから選んで取りだした。

 魔獣討伐専門部隊の4人が、廊下に持ち出し一口大に切り分けて、弱者から順に配っていく。

 もしもアコルが討伐した魔獣を持たせてくれていなかったら、もしも今日この町に来なかったら……と思うと胸が苦しくなった。

 ……何故王子である私が、ヘイズ領にいかねばならないのだ!と、心の中でアコルに対して悪態をついていた自分が情けない。

「レイム領は大丈夫だろうか?」と、叔父であるレイム公爵がふと呟いた。

「この国に安全な場所などないというのが、覇王様の口癖です。
 そして、魔獣の大氾濫は始まったばかりだと。
 今のままでは、救える民の命は半分にも満たないだろう……とも仰ってました」

ネルソン副指揮官は、まるで噛み締めるようにゆっくりと言った。

 そんなはずない! と、昨日までの私なら言っただろう。
 いつもは強気のレイム公爵でさえ、ネルソン副指揮官に反論しない。いや、きっとできないんだろう。

 たった10人の我々が来ただけで、この町の7千人近い民の命が繋げられる可能性が高くなった。

 たった10人の鍛えられた魔獣討伐をできる者と、マジックバッグを持つ者がいれば、多くの民を助けられると、王宮で働く者や領主は分かっていない。
 
 
 明らかに少ない肉の量だけど、何も口に入れてなかった避難者たちは、涙を流しながら感謝してくれた。

 明日の活動のことを考えて、宿屋の主人からこの町の状況を確認する。
 領主は男爵で、先月から領都に出掛けており戻ってきていないという。

 自分の治める町がこの状態なのに、いったい何をしているのだろうか?
 町の役場長は亡くなっており、生き残っている役場の関係者は少ないという。

「明日の朝、町に残っている魔獣を全て討伐します。
 その後、役場の人間や世話役たちを集めてください。

 この町で討伐したウルフと、王都から持ってきた魔獣20頭分を支給します。
 明日中に領都に到着する予定なので、役人や冒険者に救済に来るよう指示を出しましょう」

冒険者の身分でここに居る私ではなく、魔獣討伐専門部隊の者だと名乗っているレイム公爵の側近の一人が、宿の主人や信用できそうな数人を集めて、明日の予定を伝えていく。

「冒険者は、最初の魔獣討伐で殆どが亡くなっています。
 それに役人なんて、助けに来るとは思えません。まあ、期待もしてません。
 こんなに荒れ果てた町に、商人が来てくれるとも思えません。

 これからも魔獣が襲ってくるなら、他の場所に移動するしかないと、ここに居る皆は言っています。
 食べるものが無ければ、ある場所に行くしか生きる道はありません」

宿の主人は、また魔獣が来るかと思うと、安心して暮らせないと言う。
 そして助ける気があるなら、とっくに役人が来ているはずだが、あのヘイズ侯爵が助けてくれるとは思えないと、苦笑しながら皮肉を込めて言った。

「うちの領主は、覇王様からマジックバッグを買わなかったと聞いています。
 だから、王立高学院特別部隊も来てくれない・・・王様や大臣たちは、本当にヘイズ侯爵が領民を助けると思っていたのでしょうか?
 それとも、ヘイズ領の民は、死んでも構わないと思われているのでしょうか?」

この地区の世話役だと言う老人が、目に涙を浮かべて悔しそうに言った。

 老人の息子は、野菜の種を売る商団で働いており、王都やサナへ領を回っているらしい。
 息子から覇王便りのことを聞いていたという。
 最初の魔獣の襲撃で、嫁と孫を魔獣に殺され、息子に合わせる顔が無いと涙を流した。

 この町の住民は領主を信用していないし、役人なんて賄賂を渡さないと何もしてくれないと、世話役の老人が付け加えた。

「私が聞いた話では、ヘイズ領の救済をするのはワートン公爵だそうですよ。
 ワートン公爵は国防大臣だし、西のワイコリーム公爵領は、領境の山にドラゴンが飛来する可能性があるとかで、領境を封鎖されるようです。
 ワートン領なら、ライバンの森の魔獣も行かないでしょう」

アコルが言っていたように、本当に難民になりそうな住民たちに向かって、ネルソン副指揮官は自分に与えられた責務をきちんと果たして微笑んだ。


 翌日、さっさと残りのウルフを討伐し、持ってきた魔獣の8割を救済品として役場の前に置き、もっと助けて欲しいと縋りついてくる住民を、断腸の思いで振り切り、怒りに体を震わせながら、領都へと馬車を走らせた。

 そして領都ヘイズで、信じられない光景を目にする。
感想 7

あなたにおすすめの小説

畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜

グリゴリ
ファンタジー
 木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。  SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。  祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。  恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。  蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。  そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。  隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2025年12月に第4巻が発売されました  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。