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25話 新たな刺客

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「貴方達も刺客に命を狙われますのよ?」
「分かってる」

 それでも俺は少女を守ると決めた。
 だから放っておくなんて無理だ。

 あの時、まるで打ち合わせていたかのように、何故か城門の列が進まなくなった。
 そして少女は馬車から出るしかなくなり、無防備になったところを狙われている。

 つまり、ここの領主であるアルトス侯爵家と、少女のフローレンス公爵家は裏で繋がっているんだろう。

 そうなると、俺達と完全に無関係ってわけじゃない。
 アルトス侯爵子息である魔術師のダンログは、憎むべき仇でもあるからだ。

「君の敵と俺達の敵は裏で手を組んでる。だったら、俺達も手を組んでもいいんじゃないか?」
「わたくしは足手まといになりますわ。貴方達が無駄に命を落とす必要はないと言っているのです」

「大丈夫だって。俺を殺せるとしたらギザラムだけだからな」

 するとクリフさんはハハッと笑った。

「ライル君は《深淵の洞窟》を踏破した冒険者だからね。凄く強いから、君は心配しなくて大丈夫」
「《深淵の洞窟》をですの?」 

「ブラックドラゴンにも実力を認められているよ。その証拠に、彼は神気を発しているからね。君もあのフローレンス公爵家の生まれなら、神気が見えているんじゃないのかい?」
「いえ……そのようなもの、わたくしには見えませんわ」

 少女は唇を噛み締めた。

「そうか。ごめんね。でも嘘じゃないよ。少なくともライル君は、飛んできた矢を簡単に掴める実力を持ってるわけだし。それがどれ程凄いのかは、君も分かるだろう?」
「はい」

「それに僕も回復魔法と攻撃魔法が得意だから、簡単にやられたりしないしね」
「回復魔法と攻撃魔法? もしや、どちらも使えるのですか?」

 少女は目を見開いた。

「うん。更に言えば、僕には無詠唱スキルもあるからね。魔法は即時発動可能なんだ」
「えっ? では貴方様は、もしや――」

「僕はクリフ・ローレンで元神官。彼はライル・グローツで冒険者だよ。よろしくねティリアちゃん」
「クリフ・ローレン様!? 高名な神官様ではありませんか!?」

 素っ頓狂な声を上げるが、驚くのも無理はない。
 クリフさんは大陸の大神官位が約束されていた人だからな。

「で、ですが、クリフ・ローレン様は大神殿におられるはずでは?」
「色々あってね。僕は神官を辞めたんだよ」
「あれだけの名声を捨て、お辞めになられたのですか?」

 信じられないといった顔で、クリフさんを見ている。

「失礼ですが、貴方様は本当にクリフ・ローレン様なのでしょうか?」
「見てて」

 クリフさんが回復魔法を使うと、少女の全身を白い光が包んだ。

「無詠唱!?」

 クリフさんは驚く少女にニコリと笑い掛け、空中に小さな氷を発生させた。

「どうかな? 回復魔法と攻撃魔法を無詠唱で使える人間は、僕以外にいないと思うけど」

「た、大変失礼致しました。クリフ・ローレン様」
「クリフでいいよ。ティリアちゃん」

「あの、クリフ様が真実を述べられている事は分かりましたわ」
「うん」

「では、こちらのライル・グローツ様が『ブラックドラゴンにも認められている実力者』というのも間違いありませんでしょうか?」

「そうだよ」
「――!?」

 少女は言葉が出ないようだ。
 ワナワナと震えながら俺を見ている。

「ライル・グローツ様」
「ん?」
「貴方様は、一体どういうおつもりなのかしら?」

 一転して喧嘩腰だ。
 面倒だなと思いつつ、俺はウンザリして溜息を吐いた。

「ブラックドラゴンは避けるべき厄災であり、死の象徴でもありますのよ。神々でさえも恐れる禁忌の存在。それがブラックドラゴンですわ」
「大体知ってる。ギザラムもそんな事を言ってたし」

「ギザラムとは?」
「ブラックドラゴンだよ。ギザラム・シャザ・アンダーロードっていう、長ったらしい名前なんだけどさ」

「言い方には気を付けなさいませっ!?」
「何を焦ってるんだ?」

「怒りに触れてしまったらどうするのです! ブラックドラゴンは千里を見通すとも言われておりますのよ!」

「その程度じゃ怒らないって。俺が頭踏んづけた時も、大ウケして笑ってたような奴だし」
「!?」

 絶句している。
 まあ、俺もこの少女の立場だったら同じような反応をしただろうが。

「そんな事より、さっそく新手の刺客が来たみたいだぞ」
「えっ?」

 300m程先の木陰に魔術師っぽいのが10人いる。
 本人達は隠れているつもりかもしれないが、俺から見ればバレバレだ。
 こちらに殺意を向けてくれば、俺の《索敵サーチ》スキルに反応するからな。

「どうしますクリフさん?」
「僕はライル君が取りこぼした分を処理させてもらおうかな」
「分かりました」

 俺は両手にダガーを下げて、静かに時を待つ。

 ――来た!

氷槍アイスランス》と《火球ファイヤーボール》が絶え間なく少女を襲う。

《カウンター》《カウンター》《カウンター》《カウンター》《カウンター》

 双剣をフル活用して叩き落とし、跳ね上げ、弾き返していく。
 威力も速度も予想の範囲内だ。
 十分に対応出来る。

「僕の出番は無いみたいだね」

 クリフさんが杖を構えて警戒しながら呟いた。

《カウンター》《カウンター》《カウンター》《カウンター》《カウンター》

 返し続けること約5分。

「《カウンター!》」

 パァン!

 最後の魔法を跳ね返し、俺は一息吐いた。

「撃ち止めか。10人もいて数百発程度でバテるとか、全然大した事ない奴等だな」

 振り返ると、ティリアは唖然とした顔で俺を見ていた。
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