公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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01話 神罰を受けた令嬢

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 王城では、ウィリアム王太子の成人を祝う夜会が開催されている。

 しかしウィリアムにエスコートされているのは婚約者ではない。壇上にいるウィリアムは、婚約者の異母妹と共にいた。

「ティリア・フローレンス! 僕は貴女との婚約を破棄し、ミリーナ・フローレンスと新たな婚約を結ぶ!」

 婚約破棄を告げられたのは、白銀の髪にアメジストの瞳をしたティリア・フローレンス公爵令嬢だ。

(何故なの?)

 16歳のティリアは才女であり、未来の王太子妃に相応しいと目されている。婚約を破棄されるような貴族令嬢ではなかった。

「理由を、お聞かせ願えますか?」
「ミリーナから聞いたよ。貴女の魔力は大きく弱まったそうじゃないか」

 睥睨しながらティリアへ告げる。

「はい。それが何か?」
「僕が何も知らないと思っているのか? だとしたら随分と舐められたものだな」

 剣呑な態度で咎められても、責められる理由がティリアには分からなかった。魔力の強さは、あくまでも妃を選ぶ一要素でしかないからだ。

「貴女は僕に相応しくないんだよ」
「畏れながら申し上げます。私の魔力は確かに弱まっておりますが、王太子妃になる身として、恥じない程度であるかと存じます」

 ティリアの魔力は極端に落ちてしまったが、それでも高位貴族や王族として十分過ぎるレベルを維持している。

「魔力の強弱について言っているのではない。神罰を受けるような貴族令嬢など、僕の婚約者に相応しくないと言っているんだ」
「神罰……ですか?」

 金髪碧眼のウィリアムは、戸惑うティリアを冷たく見据える。

「貴女の護衛騎士が神罰を受けて以降、貴女の魔力も大きく落ちている。それこそが、護衛騎士と共に神罰を受けた動かぬ証拠ではないか。僕という婚約者がありながら、護衛騎士と蜜月な関係だったのだろう? 神の怒りに触れるのも当然と言えるな」

「いえ、私はそのような――」
「言い訳は不要だ不埒者め!」

 ウィリアムは強い口調で詰ったが、ティリアは神罰など受けていない。魔力が弱まっているのは、幼馴染でもある護衛騎士を心配して心を痛めているからだ。

 大陸最強を決める大会で優勝した騎士は「開かずの箱」を開ける試みに挑戦しなければならない。

 そして今年の優勝者はティリア付きの護衛騎士だった。だが慣例通りに挑戦したところ、開かないはずの箱が何故か開いてしまったのだ。

 それ以降、護衛騎士の剣の腕は大きく衰えてしまっている。巷では「護衛騎士に神罰を与える為に、開かずの箱が開いたのだ」と噂されていた。

「どのみち貴女はもう要らない。僕には愛するミリーナがいるからね」

 ウィリアムの横で、ミリーナが勝ち誇ったように口角を上げる。

「そう……ですか」

 ティリアは背筋を伸ばすと、無表情で臣下の礼をとる。

「婚約者として至らず、大変申し訳ございませんでした。婚約破棄を謹んでお受け致します」

 退出しろとの指示でティリアは会場を出た。促されるまま別室へと入り、婚約破棄の書類にサインをする。

 既に国王夫妻とフローレンス公爵家の間で話し合いは済んでおり、事はスムーズに運んだ。全てを終えて部屋を出たティリアは、後方に侍女と護衛が控えているにも関わらず一筋の涙を流す。

 泣いたのは婚約破棄で心が傷付いたからではない。6年間の努力が徒労に終わったやるせなさからだ。

(……あっけないものね)

 この婚約はティリアが望んだものではなく、両家の都合による政略だった。

 先妻の娘を公爵家から追い出したいフローレンス公爵と、膨大な魔力持ちの貴族令嬢を王太子妃として迎えたい王家。双方の思惑が一致した婚約だ。

 頭の足りないウィリアムに代わって、将来はティリアが実質的に政務を担うと目された。その為、苛烈を極める王太子妃教育が長年に渡って課せられている。

 決済や承認に留まらず、権謀術数めぐらす者への対処や臣下の指導法に至るまで、もはや王太子妃教育とは言えないものまで施された。

 寝る時間も満足に取れない中、人生を費やして最大限の努力をしてきた。自身の恋心を捨てて王家へ嫁ぐ決心もしていた。しかし婚約は破棄され、全ては水の泡となって消えた。

 ティリアは不義など働いていない。むしろそれを咎められるべきは浮気性のウィリアムの方だ。ウィリアムが他の貴族令嬢達と身体を寄せ合っている姿を、ティリアは何度も見てきたのだから。

「もう……疲れてしまったわ」

 砂漠に水を撒いていたようなもので、ティリアがやってきた努力は何も実を結ばなかった。

「あの、ティリア様?」
「ごめんなさいマーサ。私は王太子妃にはなれないわ」

 すると若い侍女は、何度か首を振った後に落胆してみせた。一介の侍女が取るべき態度では断じてない。だが公爵家で疎まれているティリアは、使用人達からも侮られていた。

「王太子妃の侍女として、王城に上がれる日を待ち望んでおりましたが。まあ、こんな事になるのではないかと薄々思っておりましたけど。はぁ……ミリーナ様の侍女が羨ましい」

 異母妹のミリーナは強欲だ。王太子妃になれる好機を見逃すはずがない。そして派手好きなウィリアムも「ミリーナ嬢を見倣え」と、貞淑なティリアに常日頃から苦言を呈していた。

 そんな2人が共謀してティリアを貶めたのだから、今の状況は当然の結果と言える。ティリアにとっては、もはやどうでもいい事だが。

「フローレンス公爵家には御子息様もおりますしねぇ。ティリア様の心中お察し致します」

 薄く笑う侍女の目は、ティリアを蔑むものだった。ミリーナが王太子の婚約者となり、フローレンス公爵家には程良い魔力持ちの嫡男がいる。

 婚約破棄で傷物となったティリアの婚姻は、酷いものとなるのだろう。公爵は、先妻の娘であるティリアを愛していないのだから尚更だ。

「……ライル」

 ポツリと呟いた言葉は、侍女の耳には届かない。
 優しい護衛騎士の顔を思い浮かべながら、ティリアの胸中は不安に揺れていた。
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