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08話 ライルの魔力測定。ティリアの留守番
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冒険者ギルドは登録者数に応じて徴税される。それ故に、弱くて稼げない冒険者は登録を断られるのが常だ。
「新米冒険者なんて、ギルドに入ってパーティー組まなきゃ簡単に死んじゃうしさ。だから今の『初心者お断り』って、大手ギルドのやり方は間違ってんのよ」
女は「そう思わない?」と言ってライルに同意を求めるが、業界に詳しくないライルは答えに窮して曖昧に笑った。
「では弱くて申し訳ないですが、よければ登録させてください」
「そうこなくっちゃ。これで今期の登録ノルマ達成っと」
女はニンマリと笑った。
「よろしくライル。あたしはヴェイナーよ」
「よろしくお願いしますヴェイナーさん」
ヴェイナーは上機嫌で立ち上がると、ライルを屋外に連れ出した。
「打撃測定と魔力測定があるけど、どっちをやってみる? 難易度的には変わらないけど」
「打……魔力測定でお願いします」
「OK。分かったわ」
騎士として転落してしまったライルは、打撃測定を避けて魔力測定を選択した。
「測定が終わったら本登録の説明するから」
「はい」
「あそこを見て。空に浮いてる金属の的があるでしょ?」
「はい。ありますね」
10m程上空に、1m四方程の何かが浮遊していた。魔力測定用の共通原器らしい。
「なんでもいいから、あれに適当な魔法をブッ放してよ。どんなに微弱な魔法でも、的に当たりさえすれば最低値は超えるようになってるからさ。簡単でしょ?」
なんでもいいと言われても、ライルはチャチな《火球》の魔法しか使えない。
「どうしたの? もしかして、あいつ等の目が気になる?」
室内にいるギルドメンバー達は、興味深々でライルの様子を見ていた。
「俺が情けない魔法を使った事が広まると、ティリア様の名誉を傷付けてしまいそうで」
するとヴェイナーは、腰に手を当ててライルを見据えた。
「アンタが仕える人は、アンタの失敗を笑うの?」
「そんな事はありません!」
声を大にして否定する。
「じゃあ周りの目なんてどうでもいいでしょ。気にせずサクッとやりなさい」
「そう……ですね」
ライルは吹っ切れた顔で、的の方へと向き直る。
(ティリア様の護衛として、醜態を晒すわけにはいかない!)
ライルは詠唱を終え、全力で魔法を発動した。
「《火球!》」
ライルの体内で、滾る何かが一気に爆発する。それは狂ったように行き場を求め、手のひらから勢いよく放たれた。
「くっ!」
その反発力で、ライルは後方に弾き飛ばされる。的に向かって行ったのは、伝説の魔法使いもかくやという巨大な火球だ。そして上方でジュワッという音がすると、空中の的は跡形もなく消滅していた。
「嘘……でしょ」
空を見上げてヴェイナーは呟いた。
△
ライルが魔力測定器を消滅させた頃、ティリアは家の掃除をやっていた。窓を開けてハタキでパタパタと埃を落とし、箒でササッと掃いていく。仕上げに軽く布拭きをすると、部屋の中を見回した。
「このくらいでいいかな?」
掃除はすぐに終わってしまった。ライルの友人であるアーバンが、入居前清掃を行っていたからだ。その為、部屋はあまり汚れていなかった。
「掃除は終わったし、料理はライルが帰ってきてから作る約束だし……」
平民になる事が決まってからは、ティリアは侍女の仕事を積極的に見学していた。身支度や掃除は勿論の事、料理についてもある程度の知見がある。
「他に何をしたらいいの?」
時間が有り過ぎて困惑してしまう。王太子妃教育を受けていた頃は、寝る時間を削っていた。公爵家からの廃籍が決まってからは、平民として生きて行く準備に追われていた。
しかし今は、それとは真逆で時間が余っている状態だ。
(刺繍をやってみようかしら)
貴族令嬢の嗜みとして、ティリアも刺繍を行う事があった。経験豊富で、縫う速さはかなりのものだ。
思い立ったティリアは自室へと向かい、トランクの中から裁縫道具とハンカチを取り出した。
椅子に座ってから刺繍枠を手に取ると、無地のハンカチを刺繍枠へと固定する。
(ライルは喜んでくれるかしら?)
ふと思ったが、それは杞憂だとティリアは知っている。ライルが喜ばなかった事など一度たりともないからだ。
むしろ、ちょっとした物を贈っても「家宝にする」「俺が死んだら一緒に墓に入れてもらいます」などと言われて、ティリアが焦ってしまうのが常だった。
「何を刺繍しようかしら?」
しばらく悩んでモチーフが決まった。
「ライルは護衛騎士だもの。騎士様に相応しい物がいいわね」
平民となったライルは既に騎士ではないが、ティリアにとっては些末な問題だ。
「ふふっ」
受け取る時のライルの顔を想像すると、自然と笑顔になってしまう。ティリアは「いけないわ」と言って、頬をペチペチと叩いた。
「私も頑張らないとね」
針に糸を通すと、一針一針心を込めてハンカチに刺繍をしていく。出来上がった刺繍入りのハンカチは、ティリアが満足する会心の出来だった。
「新米冒険者なんて、ギルドに入ってパーティー組まなきゃ簡単に死んじゃうしさ。だから今の『初心者お断り』って、大手ギルドのやり方は間違ってんのよ」
女は「そう思わない?」と言ってライルに同意を求めるが、業界に詳しくないライルは答えに窮して曖昧に笑った。
「では弱くて申し訳ないですが、よければ登録させてください」
「そうこなくっちゃ。これで今期の登録ノルマ達成っと」
女はニンマリと笑った。
「よろしくライル。あたしはヴェイナーよ」
「よろしくお願いしますヴェイナーさん」
ヴェイナーは上機嫌で立ち上がると、ライルを屋外に連れ出した。
「打撃測定と魔力測定があるけど、どっちをやってみる? 難易度的には変わらないけど」
「打……魔力測定でお願いします」
「OK。分かったわ」
騎士として転落してしまったライルは、打撃測定を避けて魔力測定を選択した。
「測定が終わったら本登録の説明するから」
「はい」
「あそこを見て。空に浮いてる金属の的があるでしょ?」
「はい。ありますね」
10m程上空に、1m四方程の何かが浮遊していた。魔力測定用の共通原器らしい。
「なんでもいいから、あれに適当な魔法をブッ放してよ。どんなに微弱な魔法でも、的に当たりさえすれば最低値は超えるようになってるからさ。簡単でしょ?」
なんでもいいと言われても、ライルはチャチな《火球》の魔法しか使えない。
「どうしたの? もしかして、あいつ等の目が気になる?」
室内にいるギルドメンバー達は、興味深々でライルの様子を見ていた。
「俺が情けない魔法を使った事が広まると、ティリア様の名誉を傷付けてしまいそうで」
するとヴェイナーは、腰に手を当ててライルを見据えた。
「アンタが仕える人は、アンタの失敗を笑うの?」
「そんな事はありません!」
声を大にして否定する。
「じゃあ周りの目なんてどうでもいいでしょ。気にせずサクッとやりなさい」
「そう……ですね」
ライルは吹っ切れた顔で、的の方へと向き直る。
(ティリア様の護衛として、醜態を晒すわけにはいかない!)
ライルは詠唱を終え、全力で魔法を発動した。
「《火球!》」
ライルの体内で、滾る何かが一気に爆発する。それは狂ったように行き場を求め、手のひらから勢いよく放たれた。
「くっ!」
その反発力で、ライルは後方に弾き飛ばされる。的に向かって行ったのは、伝説の魔法使いもかくやという巨大な火球だ。そして上方でジュワッという音がすると、空中の的は跡形もなく消滅していた。
「嘘……でしょ」
空を見上げてヴェイナーは呟いた。
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ライルが魔力測定器を消滅させた頃、ティリアは家の掃除をやっていた。窓を開けてハタキでパタパタと埃を落とし、箒でササッと掃いていく。仕上げに軽く布拭きをすると、部屋の中を見回した。
「このくらいでいいかな?」
掃除はすぐに終わってしまった。ライルの友人であるアーバンが、入居前清掃を行っていたからだ。その為、部屋はあまり汚れていなかった。
「掃除は終わったし、料理はライルが帰ってきてから作る約束だし……」
平民になる事が決まってからは、ティリアは侍女の仕事を積極的に見学していた。身支度や掃除は勿論の事、料理についてもある程度の知見がある。
「他に何をしたらいいの?」
時間が有り過ぎて困惑してしまう。王太子妃教育を受けていた頃は、寝る時間を削っていた。公爵家からの廃籍が決まってからは、平民として生きて行く準備に追われていた。
しかし今は、それとは真逆で時間が余っている状態だ。
(刺繍をやってみようかしら)
貴族令嬢の嗜みとして、ティリアも刺繍を行う事があった。経験豊富で、縫う速さはかなりのものだ。
思い立ったティリアは自室へと向かい、トランクの中から裁縫道具とハンカチを取り出した。
椅子に座ってから刺繍枠を手に取ると、無地のハンカチを刺繍枠へと固定する。
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ふと思ったが、それは杞憂だとティリアは知っている。ライルが喜ばなかった事など一度たりともないからだ。
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「何を刺繍しようかしら?」
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「ライルは護衛騎士だもの。騎士様に相応しい物がいいわね」
平民となったライルは既に騎士ではないが、ティリアにとっては些末な問題だ。
「ふふっ」
受け取る時のライルの顔を想像すると、自然と笑顔になってしまう。ティリアは「いけないわ」と言って、頬をペチペチと叩いた。
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