公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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54話 ティリアが思う事(ティリア視点)

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「ライル。王都に行っちゃったわね」
「はい」
「寂しくない?」

 ヴェイナーがティリアの顔を覗き込む。

「大丈夫です。御心配ありがとうございます」

 そして慌ただしく業務に忙殺されていると、あっと言う間に時間が過ぎて行く。ギルドの営業時間も終わり、拭き掃除をして今日の業務は終了となった。

(仕事は楽しい)

 ティリアは、自身の世界が広がった事を実感していた。これまで経験してきた貴族社会とは、大きく異なっているからだ。

「お疲れ様。仕事も終わったし、私の家に行こうか」
「はい。よろしくお願いします」

 2人はギルドを後にして、薄暗くなった街を歩く。

(ライルは、もう夕食を食べたのかな?)

「ぼーっとして、どうしたのティリアちゃん? ライルの事でも考えてた?」
「えっ! 分かりますか?」
「バッチリ顔に出てたわ」

 横を歩くヴェイナーは笑っている。王太子妃になるはずだったティリアは、他人に感情を読まれないようにと教育されてきた。だが今となっては、その影響も大分薄れてきている。

「もうすぐ着くわ」

 数分歩くとヴェイナーの家に到着した。

「さあ、どうぞ」
「失礼します」

 一礼して部屋に入ると、ヴェイナーは《明かり|《ライティング》》の魔法で部屋の中に灯をともした。

「生活魔法が使えるのですね」
「まあね。これでも一応、貴族の端くれだったからさ」
「ヴェイナーさんは……貴族の家を出た事を、どう思っていますか?」

 触れてはいけない過去なのかもしれない。だがティリアは、ヴェイナーに今の気持ちを訊いてみたいと思った。

「んー、そうねぇ。貴族だろうと平民だろうと、一概にどっちの生活が良いとは言えないね。まあ、今の生活に不満はないけどさ」

「私も、今の生活に不満はありません」
「それで十分さ。じゃあササッと夕飯作るから、少し待っててくれる?」
「あ、私も何かお手伝いを――」

「す・わ・っ・て・て・ね・?」
「は、はい」

 ティリアの料理は危険視されている為、ギルドでも調理の手伝いはさせてもらえない。

(このままじゃ良くないわ。料理をライルに習って、慣れていかないと駄目ね)

 ティリアが決意を新たにしていると、20分程でヴェイナーの料理が完成した。

「はい、お待たせっと」

 テーブルには香辛料の利いたソテーや、白身魚のムニエルやサラダなどが並んでいる。

「どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございます。それでは、いただきます」

 一口食べると口の中に美味しさが広がる。

「今まで経験した事のない味ですが、とても美味しいです」
「リンドルのアホが、珍しい食材を持ち帰ってくんのよ」

 ヴェイナーは苦笑しているが、その口調からはリンドルへの親しみが伝わってくる。

「ティリアちゃんって、食事の所作も綺麗ね」
「そうでしょうか?」

(自分ではよく分からない)

「ティリアちゃんを見てると、貴女がどれだけ苦労して学んできたのかが分かるわ」
「……ヴェイナーさん」

「こんな良い子が、馬鹿な王太子と結婚しなくて済んで良かったわ。そう思わない?」
「……ありがとうございます」

(ヴェイナーさんは、私の人生を肯定してくれる)

 それはとても嬉しい事だと思ったが、当時を思い出したティリアは少しだけ胸が苦しくなった。

「今の方がずっと幸せでしょう?」
「はい。でも、昔も不幸だったわけではないんです。ガーデンパーティーで出会ってからずっと、ライルが傍にいてくれましたから」

(それを私がどれだけ嬉しく思っているか、ライルは気付いていないだろうけど)

「私が幸せでいられるのは、ライルのお陰なんです」
「それさ、いつかは本人に直接言ってやりなよ?」
「はい……無事に帰って来てくれるといいのですが」

「心配無用よ。魔導超越者マジックマスターなんだから。秒で片付けて帰って来るって」
「そうですね。魔導超越者マジックマスターですからね」

 ライルは希少な天啓を得て、冒険者としての道を歩んでいる。だからこそティリアも、少しでもライルに追いつけるように頑張ろうと思っていた。

「余程変な事でもしなきゃ、無事に帰って来るさ」
「でも少し不安です。ライルは無茶な事をしがちですから」
「確かにそれはある。アイツって、結構生き急いでる感があるし」

 ヴェイナーは苦笑いをする。

「勝てないと分かってるのに、父親と決闘やってるしさぁ」

 思い出したティリアは血の気が引いた。ライルを失うような思いは、もう二度と経験したくないと思っているからだ。

「どうしてライルは、勝てないと分かっているのにグローツ子爵に挑んだのでしょうか?」

(私が何度聞いても、ライルは答えをはぐらかしてしまう。だから未だに理由が分からないのよね)

「絶対に譲れないものがあるのさ。アイツは、その為に頑張ってるだけ」
「そうなんですか?」

「ティリアちゃんは気付かない?」
「すみません。分かりません」
「そうねぇ。アタシから教えてあげるのは、何か違う気がするしなぁ」

 ヴェイナーは、人差し指を頬に当てて考えている。

「平たく言うと、ライルとティリアちゃんは似てるって事」
「似ていますか?」

「アタシから見たらね。絶対勝てない相手に決死の覚悟で挑んだり、魔力を失うのを承知で蘇生魔法使ったりさ。二人とも無茶な生き方してるよ」

(ライルと似ているなんて言われたのは初めて)

 ベッドで眠りに就くまで、ティリアはヴェイナーの言葉について考えていた。
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