公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

文字の大きさ
63 / 77

63話 ティリアはギルドで奮闘する

しおりを挟む
 そびえ立つ壁のような魔物は消滅してしまった。

「倒しちまったぞ」
「本当にやりやがった……」

 見ている事しか出来なかった冒険者達は息を呑む。大人数で対処してどうにもならなかった魔物を、ライルがアッサリと討伐してしまったからだ。

「な、なあライル? 闘いは終わったんだよな?」
「はい。魔物は完全に消滅しましたから、もう安全です」

 冒険者達は顔を見合わせる。そして駆け出しの者もベテランも関係なく、肩を叩き合いながら大喜びを始めた。

「……規格外の強さね」

 魔女のアリサは、顎に手を当てて今後の事を考える。

「お疲れ。ライル君」

 労いの言葉を掛けた。ライルは息も上がっておらず、まだまだ余力を残している状態だ。

「アリサさん。助言ありがとうございました」
「魔法剣士ならではって感じだったね」

 魔法を撃ち込み、インパクトの瞬間に合わせて斬撃を浴びせた。刹那の狂いも許されない厳しいタイミングのはずだったが、ライルは一度もミスする事なく、全ての攻撃を難なく成功させている。

「あんな戦い方、よくやれるわホント」
「難しくないと思いますが? 魔法を当てて斬るだけですよ?」

 そう思っているのはライルだけだ。難易度的には非常に高く、簡単に成功させられるようなものではない。

「聞き捨てならねぇなぁ」

 ご機嫌な冒険者が近付いてくると、ライルに手を伸ばして肩を組んだ。

「正確無比な剣捌きで延々と斬り続けるのが『難しくない』わけがねぇだろうがよぉ」
「だよなぁ?」
「魔法だってそうさ。普通の魔法使いは何十発も撃てねーよ」
「だよなぁ?」

 数人からウザ絡みをされつつ、ライルはしばらくされるがままになっていた。やがて気が済んだのか、男達は満足して去って行く。

「ライル君って、人とズレてるところがあるよね」
「そうですか?」

 最高レベルの領域にいるが、本人はそれに気付いていない。寸分の狂いもなく狙ったタイミングで斬るのは、ライルにとっては修練中の日課でしかなかったからだ。

 だからこそ、普通の冒険者達とライルの間には、考え方に大きな隔たりがある。

「まあ、この調子で頼むわね。期待してるから」
「頑張ります」

 そうこうしていると、冒険者総括協会の拡声魔法が響き渡った。

『皆さん。お疲れさまでした。これにて解散といたします』

 負傷者を出す事もなく、つつがなく終了した。

 △

 壁の魔物を相手に冒険者達が大騒ぎをしていた頃、冒険者ギルドもまた大騒ぎとなっていた。窓ガラスに茶色い何かがヘバりついていたからだ。

 しかし原因が究明された事により、ギルド内は落ち着きを取り戻していた。

「皆さん。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 ティリアの謝罪をギルドメンバー達は受け入れる。そもそも「ティリアは金輪際料理をしようとは思わないだろう」と決めつけていたのが、間違いの元だったわけだが。

「料理は禁止だって、あたし言ったはずだけど?」
「申し訳ありませんヴェイナーさん」

 ティリアは深々と頭を下げた。努力家のティリアだからこそ、壊滅的な腕前の自分が許せない。ついつい料理に挑戦してしまったのだ。

「プリンが作れそうな気がしたんです」

 真剣な顔でヴェイナーを見つめる。「諦めなければ、いずれは料理の腕が上がる」と未だに信じているからだ。

「ティリアちゃん。残念だけど、魚は陸を歩けないし狼は空を飛べないわ」

 ヴェイナーは「達成困難だ」と暗に諭す。ショックを受けるティリアの頭を、ゆっくりと撫でた。

「まあ、あたしもギルドを預かる者としての責任があるからさ、ケジメは付けないといけないんだよ。だから許すのは今回が最後だからね?」

 ティリアは神妙に頷いた。

「そうねぇ……貴女が作った料理を、他の誰かに全部食べさせる事。それが、次に料理をしてしまった時の罰よ。分かった?」
「は、はい」

 ライルなら喜んで食べそうだとティリアは思った。

「口移しでやってもらうから」
「く、く……口移しですかっ!?」
「罰なんだから当然でしょ? ティリアちゃんが口移しで全部食べさせなさいな」

(口移しって、私がっ!?)

「何を慌ててるの? ふふっ」

 ティリアは真っ赤になっている。その様子を見ながらニヤニヤしていた周囲の人間も、ヴェイナーに続いて軽口を叩いていった。

「誰に食べさせるつもりなの?」
「もしかしてライル君?」
「ライル君かぁ」
「あいつまた気絶しそうだな。ははは」

 俯いて震えるティリアを眺めながら、ギルドメンバー達はご満悦だった。

 △

「じゃあ、ここを片付けてから仕事を再開してね」
「はい」

 ようやく落ち着いたティリアは、嘆きのプリンを片付けてから仕事を再開した。すると、

「あああ! 悩む!」

 ヴェイナーは唐突に叫んだ。

「ヴェイナーさん?」
「ねぇ。これどうした方が良いと思う? ルート選定で迷ってんだけどさ」

 差し出された書類は、高額商品の運搬依頼に関するものだった。依頼料、危険度、護衛人数、納期などを加味して、数本のルートが候補に挙がっている。

「そうですね。私なら、これらのルートではなく海路を選びます」
「海路?」

「はい。この時期の海は穏やかですし、陸路で山を越えるよりは安全です。高額商品の運搬となりますので、盗みに遭う可能性も考えられますし。ですが船上であれば逃げ場がありませんので、賊もおいそれと手を出せないかと」

「確かに。そう考えると海路もアリね。ありがとう。検討してみるわ」
「はい。あの、ヴェイナーさん。こちらの再契約書ですが」

 商人と締結する予定の、回復アイテム納入契約書をティリアは提示する。

「固定価格での超長期納入契約を結ぶのはお勧めしません」
「どうして?」

 ヴェイナーは疑問を口にする。超長期の契約とする事で、かなりの割安価格で納入してもらえるからだ。

「まず中級ポーションですが、増殖可能な低価格原材料を使った生産実験が、昨年成功しております。原産国となるアルギニアでは、大量輸出を見越した街道整備も間もなく完了予定ですし。そうなれば生産コストだけではなく運搬コストも大きく下がるはずです」

「そんな事になってたの?」
「はい。2年も経てば、中級ポーションは今よりもっと安くなるかと思います。ですので現時点での納入契約については、多少割高でも短期契約に留めるべきです」

 ヴェイナーは、しきりに感心している。

「次に、こちらの上級ポーションの契約ですが――」

 広い見識を持つティリアは、ギルドにとって最適となる答えを導いていく。今ではティリアに意見を求める者も多い。そしてそれは、ゼンじいとて例外ではなかった。

「ティリア」
「ゼン様?」

 ヴェイナーが席を立ったのと入れ替わるように、ゼンじいはティリアの隣に座った

「どれに賭けるべきか予想してくれんか?」
「申し訳ありませんゼン様。賭博行為への協力は、ヴェイナーさんから固く禁じられておりますので」

 するとゼンじいは顔を伏せて辛そうに話す。

「一発当てて妻に美味いもんでも食わせてやりたかったんじゃが……」
「ゼン様!? 微力ながらお手伝いさせていただきます」

 ティリアはチョロかった。

『ゼンじい結婚してたっけ?』
『してるわけないじゃん。オッズがワシの嫁じゃ! とか言ってるギャンブル狂よ?』

 女性達はボソボソと話す。

「では20ある生産地域の中から、今年のトップ2になりそうな地域を当ててくれ」

 提示された書類には賭けの倍率と、王国各地域毎の特殊魔石年間産出量が、10年分掲載されていた。

「少々お待ちください」

 ティリアは自らの知識を総動員して論理的に考えていく。やがて満足いくまで考え抜いてから、ゼンじいに結果を見せた。

「こちらで如何でしょうか?」
「何じゃこれは?」

 それは産出量上位2地域を単純に予想するだけではなく、本命予想が外れた場合でも軽傷で済むという、複雑かつ高度な賭け方だった。

「リスクを抑えた投資となります」
「リスクを抑えた……か。うむ。世話になった」

 ゼンじいはギルドを出ると、足早に賭場へと向かう。

「何が『リスクを抑えた』じゃ。分かっとらんなティリアは。ワシの生き様をとくと見よ!」

 好き勝手に全ツッパしたゼンじいは、結果が判明してから完膚なきまでに燃え尽きた。そしてティリアの言う通りに賭けていれば、多少資金が増えていたという事実を知って愕然とするのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

処理中です...