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【83】考え直せ
しおりを挟むちょっと大人しくなった弟わんこを連れて、酒蔵の中に入る。
独特に香りを感じた。チート城のものとは、また違う匂いだ。
こんなときでなければ、じっくり見学したいところだけど……。
「アムルちゃんのお父様。例の素材を使ったお酒は、どこで造っているのですか?」
「まだ樽に汲む段階でもないのですが……おや?」
お父様が首を傾げる。
「ここにある酒樽はこれだけだっただろうか。昨日見たときはもう少し数があったと思うのだが」
杜氏さんを呼んで話をするお父様。
ひとりの杜氏さんが首を傾げていた。
「確かに妙ですねえ……蔵の中はいっぱいなのに」
ふーん。確かに、部屋の端から端まできちんと綺麗に樽は並んでいる。
不思議なこともあるもんだなあ。
「…………」
「…………」
いま、弟わんこが目をそらした。
私は疑いの目MAXで部屋の端に近づく。
白く塗られた壁に手を当て、魔力を通す。
ふわ……と壁の質感が消えた。
奥にいた二人の人物と目が合う。
「あ、お姉様」
「……」
私は弟わんこを振り返る。
――気づいていたな?
――何のことだか。
後でもう一回尻尾を踏んでやろうと心に誓いながら、私はアムルちゃんに声をかけた。
「そんなところで何をしているのかな? アムルちゃん、お母様」
「酒樽を隠していました!」
素直でよろしい。
お父様たちもやってくる。
数人の杜氏さんが気まずそうにしているところを見ると、どうやら秘密の空間でこっそり酒造りをしていたらしい。
ここにあるのが、冒険者さんをおかしくした酒なのね……。
たぶん、アムルちゃんの魔力が加わったんだ。
「アムルちゃん。悪いこと言わないから、お父様に任せようよ。おかしな酒を造らずにさ」
「まあ、お姉様。おかしな酒なんて造っていませんわ。ねえお母様」
アムルちゃんがお母様を振り返る。
先ほどから妙に静かだったお母様は、手を合わせて言った。
「これは神が我々に与えたもうた恵みなのです……ありがたくいただきましょう……」
「いやおかしいでしょ明らかに」
「敬虔なお母様も素敵だと思います!」
家族思いだね。お母様らしさが欠片も残っていないけど。
お父様が難しい顔をする。
ここはズバッと指摘して欲しい。
「……採用」
「考え直せ」
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