嘘つきは恋人の始まり

JUN

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「この頃あの2人、いつも一緒じゃない?」
「仲良かったっけ」
 そうクラスメイト達に囁かれるくらい、真秀と成宮は大抵一緒にいた。
 今日も弁当を一緒に食べ、のんびりとしていた。
「なあなあ、真秀」
「何だ」
「彼女と毎晩電話してるのか?それとも、リモートデートかあ?」
 真秀は紙パックのコーヒーを噴きかけた。
 そして近くにいたクラスメイト達は、そのままの姿勢で耳をそばだてた。
「メ、メールだ」
「何で?声くらい聴きたくないのか?画面越しに、チューとか」
 成宮が自分の腕で自分を抱きしめるようにして言うのに、真秀は即反論する。
「しない!」
「何で?」
 真秀は少し顔を赤くして、そっぽを向いて答えた。
「声を聞いたら、会いたくなるだろ。顔を見たら、触れたくなるだろ」
 成宮はポカンとしてから、真顔で言う。
「お前、純情かよ……」
「……俺は霙を大事にするんだよ」
 川田氏乱入が、軽く尾を引いているのだ。それに、空の回し蹴りも瞼に焼き付いている。
 しかし、クラスの女子は、悶絶していた。
 成宮は調子に乗る。
「彼女の写真見せろよ」
「ええ?」
「何。見せるのが恥ずかしいような顔なわけ?」
「そんなわけあるか!」
 真秀は定期券を出し、開く。
「いや、入学式?最近のやつはないのかよ」
「浴衣の写真を送ってくれたな。清楚で、よく似合ってた」
 言いながら、今度はスマホを開く。
「おお、かわいいじゃん」
「だろ。でも、かわいいだけじゃないぞ。ほら」
「おお、サバゲー?かっこいい!」
「だろう。正義感が強いし、弱い者に優しいし、明るくて、友達思いなんだ」
「そうかそうか。くそ。のろけやがって」
 成宮はぶつぶつと文句を言い、思い付いたようにニヤリとした。
「なあ、どんな声?」
「声?録音したものはないな」
 真秀はそう言ったが、成宮がスマホをタップしようとするのを見て、ぎょっとした。
「お前、やめろよ、こら」
「親友としてあいさつをだな」
「向こうが今忙しかったらどうするんだ!」
 取り返そうとするが、成宮も渡そうとしない。
「あ」
「あ?」
「押しちゃった」
 成宮が、テヘ、と舌を出した。
「成宮ー!」

 霙は、明日に迫った文化祭の準備の追い込みに入っていた。
 クラスは、学校の近所のジオラマの展示をする事になっていた。
「細かいなあ、くそ」
「誰だ。これやりたいって言ったやつ」
 ブツブツ言いながら、全員で作業をしていた。
「がんばろうよ!これが高校最後の文化祭だし、いい思い出になるよ!」
 霙はにこにことして言い、文句を言っていたクラスメイトも、
「仕方ないなあ。まあ、やるか」
「最後の最後で彼女ができるかも知れねえ」
と作業に戻る。
 しかし、一部の女子は、それを面白くない目で見ていた。
「はあ。面倒臭い。もうすぐ私立の試験なのに、こんな事やってる暇ないっての」
「誰かさんはいいわよねえ。もう結婚が決まってるんだから」
「ああ、それなら暇よね。やってもらったらいいじゃない」
 それに、霙と同じクラスのマヤがいきり立つ。
「ちょっと!」
「マヤ、いいから」
「でも!」
 霙に止められ、マヤは渋々、大人しく作業に戻った。
 それで図に乗って、まだ言う。
「あら、ごめんね、川田さん」
「でも、見た事ないもんねえ。本当にいるの、そんな人」
「顔よし、頭よし、運動神経よし、名家の長男で、優しくて頼れるんでしょ?」
 せせら笑いを浮かべるそのグループに、とうとうマヤが切れた。
「何よ。サバゲー同好会も、島津利子ってお嬢様も知ってる事だ。疑うって?」
 教室中の視線と注意が、このやり取りに向けられていた。
 霙も流石にカチンときていた。
 が、次の言葉に、自信がなくなる。
「そんな人なら、もっとそれなりの人とくっつくんじゃないの?どこかのお嬢様みたいな」
「とっくに振られてたりして」
「わかんないもんねえ、遠いから」
 ニタニタと嗤う。
「そんな、私だって努力はしてるもの。してるけど」
 震え出す霙をよそに、マヤとその女子グループは掴み合いを始めかけた。
 その時、電話が鳴り出した。
「あ」
 何となく、気がそがれ、皆の注意が霙に集まる。
「あ、真秀」
「何!?」
 マヤが霙の方に大股で来る。
「はい」
『あ、どうも。初めまして』
『やめろバカ!』
 聞いた事のない声と、真秀の声がした。
「え」
『悪い。こいつが間違って呼び出しをして。忙しかったか?本当にすまん』
 真秀の慌てたような声がする。
 霙は、涙がこらえきれなかった。
「ううん。声が聞けて良かった。
 真秀」
『うん?』
「真秀」
『霙、何かあったか』
 声が真剣実を増す。
「何でも」
『何でもないわけないだろ。すぐ行く』
「へ?」
 電話は唐突に切れた。

 真秀は急に真面目な顔付きでスマホを閉じると、帰り支度を始めた。
 驚いたのは、成宮やクラスメイトだ。
「ちょ、おい?」
「用ができた」
「午後は?」
「欠席だな」
「サボりか?おい、待てよ!どこに行くんだよ!」
「東京」
「はあ!?」
 真秀は教室を足早に出て行った。




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