オーバーゲート

JUN

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怪鳥と飛竜と探索者

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 最悪だ。そう思って俺と采真は呆然としているのに、村の皆は狂喜乱舞していた。
「儀式だ!」
「竜神様がいらっしゃったぞ!」
「戦え!闘志を見せろ!」
「探索者はどこだ!」
 俺と采真は、そんな村人達を見て嘆息した。
 村長がニタニタと笑って近付いて来る。
「戦わないと、やられますよ。何せ、あなた方にはキラー鳥の匂いがついている。羽毛布団、使ったでしょう?」
「あああー!?あれ、キラー鳥だったのか!」
 采真が頭を抱えて絶叫した。
 俺は天を仰いだ。竜とキラー鳥が激しくぶつかっていた。怪獣映画のようだ。
「削り合ってくれればなあ」
 祈るように呟く。
 突き合い、爪で掴み合いをしていた彼らは、ふと、地上の俺達を見た。そしてイラッとしたのか、キラー鳥が羽で暴風を起こした。
 その途端、村人が吹き飛ばされる。
 そして、竜がこちらに向かってブレスを吐く様子を見せた。
 流石にまずい。俺は盾を展開し、どうにか魔術の傘で竜の火のブレスを防いだ。それでも、チリチリと熱が届く。
 竜は俺と采真をキラー鳥のヒナと勘違いでもしたのか、単に目障りだったのかはわからないが、どうやら、俺達を先に倒そうと思ったらしい。キラー鳥が距離をとって俺達を警戒しているのを見て、キラー鳥を後回しにして俺達に向かって来た。
 風を放つと気流が乱れて体勢を崩したので、すかさず、火、氷と叩き込んでみる。
「おお!効くのは氷だな!」
 采真が楽しそうに言う。
 そして、地上に引きずり落とした竜に、嬉々として斬りかかって行く。が、硬い。
「だめだ、鳴海!硬ェ!」
「まず翼だ!」
 俺は言いながら、翼の付け根に氷と風の刃を立て続けに叩きつける。そこに僅かにできた傷に、采真が剣を叩き込んで広げた。
「戻れ!」
 竜の尻尾が唸りを上げて采真を狙い、口元にはブレスの兆候がある。
 采真が飛ぶように距離を取った先へ俺は移動し、盾を展開。それで火のブレスを防ぐ。
 防がれて、竜は余計に腹が立ったらしい。
「ギャアアアア!!」
 威嚇の声を上げ、こちらに重い体を向ける。
 しかし俺達は同時に左右に分かれて走り出しており、俺は竜の喉の奥に氷を叩き込む。
「ギュオオオオ!?」
 その間に嫌がる竜の後ろをまわって来た采真が、翼の付け根に斬り込み、とうとう片方の翼が地に落ちた。
「ギャアア!?ギュオオオオオ!!」
 怒りの咆哮に、空気が震える。
 竜が采真の姿を捕えようと首を巡らせ、がら空きになった首に、今度は手動で爆破の魔式を書き込み、引き金を引いた。
 首に穴が開き、巨体が揺れた。
 効くらしい。
 そして今度はその目を俺に向ける。忙しい事だな。そしてそこに采真がアタックをかけるのは、俺達のやり方だ。
 首の傷が広がった。
 竜は怒りと警戒心の混ざった目をして、ブレスを吐く準備をする。
 狙いはどっちだ?わからない。わからないので、その口の中に氷を叩き込みながら、
「采真、逃げろ!」
と指示する。
 俺は魔術師にありがちな、考えながら戦闘を行うタイプだ。しかし采真は、カンと反射でやるタイプだ。俺が言うと即座に素直に距離を取る。
 火と氷がぶつかり合って、竜の口腔内で爆発を起こし、竜がのたうちまわった。尻尾や鋭い爪の付いた手足が振り回される。
 その間を縫って走り寄った采真が首の傷に連撃を加え、俺は風の刃で傷を深く削る。
 そうして、竜は横倒しになって、動かなくなった。
「やったか?」
「それは言うな。フラグになったらどうする、采真」
 しかし、痙攣も、ふいごのような呼吸音も止まる。
「やった?」
 俺は座り込みたくなったが、次がまだいる。
 風に飛ばされて叩き伏せられていた村長の腕に抱えられていた箱を奪い取り、中身の卵をキラー鳥に掲げる。
「おおい!返すから!」
 采真も隣へ来て、キラー鳥を見上げる。
「こいつらが、ごめんなあ?」
 キラー鳥は、俺達の前に降り立った。
 竜と戦うという儀式を達成して喜ぶ村民達だったが、キラー鳥に見据えられて、ギョッとしている。
「お、おい。助けてくれるんだろ?」
「は?何で?」
 采真が笑顔で応じ、村民達は真っ青になり、次に、土下座した。
「許して下さい!」
 キラー鳥は言葉がわかるかのようにそれを眺め、
「キエエッ」
と威嚇して彼らを震え上がらせた。
 そして、卵を掴もうと足を延ばし、止まった。
「グアッ」
 卵を掲げた頭上から、ピシッと音がした。
「え?」
 何だろうと、俺は卵を目の高さに下ろし、見た。
 その目の前で、卵にひびが入り、広がり、そして、
「ピイ!」
ヒナが顔を出して、俺を見つめて来た。
「え?孵ったの?帰ってくれとは言ったけど……孵ったのか?」
「ピイ?」
 俺とヒナが、同時に小首を傾げた。
「なあ、鳴海。そいつ、お前を親と思ってるんじゃねえ?」
「俺は、こいつにエサとしてワニを与えるなんてできないぞ」
「うん。親に返そうぜ」
 俺はヒナを恐る恐るキラー鳥に差し出し、采真と揃って笑顔を浮かべた。
「俺は単なる助産婦さんだ。お前の親はこっちだぞ」
「元気なお子さんですよ」
 キラー鳥とヒナは見つめ合い、ヒナはジタバタと暴れ出した。そしてキラー鳥は羽ばたく。
 風が巻き起こり、ヒナがふわりと浮く。
「ピイ、ピイ、ピイ!」
 ジタバタしながらもどうにか飛び始めるのは、野生の神秘なのか。
 何でもいいから、帰ってくれ!
 祈りが通じたのか、キラー鳥親子は宙に舞い上がり、頭上をクルリと回って、飛んで行った。
「行ったか……」
 俺達はほっとしてそれを見送った。

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