オーバーゲート

JUN

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きっかけ

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 夕食は采真と2人で卒業祝いに貰ったご飯で乾杯し、食後にアイスでも買いに行くかと、家を出た。
 そして、そいつと合った。
「あ」
「え」
 柏木と西村だった。
「何でお前がここに!?」
 慌てる西村に、俺は平然と答えた。
「俺の家だからな」
「何でお前の家!?」
「買ったからだ。キャッシュでな」
 20万だったのは言わない。
 柏木も西村も、驚いた顔をしている。
「買ったのか!?お前が!?遺産か!?」
 これは柏木だ。
「そんなものはなかったですよ。全部、探索者をやって自分で稼ぎました」
 西村が悔しそうに顔を歪め、
「俺は卒業まで資格停止って言われたのに!」
と言う。
「それは当然だろ?むしろ、殺人未遂で逮捕されなくて良かったじゃねえか」
 そう采真が言い、柏木と西村は苦い顔をした。
「まあ、いきなり魔術は悪かったかもしれないけど」
 かも知れない?
「お前が魔獣だと思っているのは今もだからな!証拠を見つけたら、俺が討伐してやる!
 音無、こんな奴とつるんでたら破滅だぞ!?目を覚ませ!」
 西村が俺に指を突き付けてそう宣言し、
「じゃあ、よろしくお願いします!」
と柏木に頭を下げて、走り去って行った。
 それを、俺と采真が呆然と、柏木は溜め息をついて見送った。
「懲りてねえな。もういっそ、警察に突き出した方が良かったんじゃねえの?」
 采真が頭を掻いて言う。
 柏木はこっちに体を向け、嫌そうに軽く頭を下げた。
「うちの新人が申し訳ない。反省するように言ったのに」
「反省は一応しているのでは?人のいる所でやった事を」
 それに、柏木は顔をしかめた。
 気付くと、ご近所の人が、何事かと顔をのぞかせている。そして、理伊沙さんも。
「一体誰に怒鳴ってるの――あら、お隣さん。西村君と知り合いだったの?」
 にっこりと笑う。
「あ、こんばんは」
「どうも、理伊沙ちゃん」
 采真はひらひらと手を振った。
「そう言えば卒業式だったんでしょ?おめでとう。
 あ、ケーキ貰ったの。一緒に食べようよ!」
 柏木はギョッとした顔をしたが、采真はにこにこして、既に歩き出していた。
「マジ?やったー!ごちそうになります!ほら鳴海!遠慮せずに!」
 俺は溜め息をついた。
「采真、それはお前のセリフじゃない」
「ん?そうだっけ?」
 首を捻る采真に、理伊沙さんは明るく笑い、
「さ、入って」
と入って行く。
 柏木は溜め息をついて、嫌々俺に言った。
「お前も入れ。理伊沙がそう言ってるし、近所の目もあるしな」
「はあ。じゃあ、失礼します」
 俺は柏木の後について、家へ入った。
「今、西村君が手土産に持って来てくれたの」
 柏木がケーキの箱と皿とフォークをテーブルに置き、紅茶を淹れる。その間に、理伊沙さんが、ケーキを皿に1つずつ乗せた。いちごのショートケーキだ。
 紅茶を各々に配って柏木がテーブルに着いたところで、皆で食べだした。
「西村君と知り合い?」
「クラスメイトですよ。今日卒業式だったけどね!」
 采真がケーキをぱくつきながら答えた。
「私より年下だったの!?西村君と同じ年にしては、西村君は子供っぽいわね」
「ははは。老けてると言ってもいいんですよ」
 俺は軽く言っておいた。
「お前ら、探索者になってまだ1年だろ?」
 探索者免許を取れるのは18歳からだが、その年度に18になる人間という意味で、誕生日ではない。なので、4月生まれなら18歳で、3月生まれなら17歳で取れる事になる。グループで組むのが基本だし、推奨されているので、こういう「お友達と組める」というやり方を政府は取ったのだろう。
「じゃあ、一緒に組むために一緒に免許を取ったの?」
「いへ、おえ、あう」
「采真、飲み込んでから喋れ。
 いえ、俺は4月になってすぐに1人で取って、1人でやってました。采真と組み出したのは夏休みからです」
 ここでようやく采真が、飲み込んで口を開いた。
「俺は剣道部で、剣道部の顧問が探索者になるのに反対してたから、引退して、夏休みになってから取ったんだ。
そのうち、鳴海と喋るようになって、それで」
「え。前から仲良かったんじゃないのか?」
 柏木が少し驚いたように言う。
「ねえねえ。話し始めたきっかけとか、コンビ組むきっかけとかって、どんなだったの?ケンカとか?」
 それに柏木が苦笑して
「マンガじゃあるまいし」
と言うが、俺と采真はちょっと考えた。
「ケンカがきっかけと言えば言えるのか、鳴海?」
「まあ、言えなくもないか」
「そんな古典的なきっかけで!?」
「やっぱり男は殴り合ってわかり合うものなのね!」
 柏木兄妹が声を上げ、俺達は、その時のことを思い出した。






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