オーバーゲート

JUN

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定説が変わる時

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 俺達は検証を続けながら、迷宮に潜る生活に戻った。
「ほい!上がりっと!」
 采真が剣を振り、チンパンジーのような魔獣が両断される。
 トリッキーな動きが厄介なヤツだが、上手く采真が力を使いこなして仕留めた。
 対になって出て来たヤツは魔術師タイプで、数種類の魔術を使いこなすヤツだったのだが、それは俺が即不発にして封じ、斬って倒した。
「あ、この草、魔素中毒に使うやつだ」
 魔石を拾った拍子に、近くの岩陰に生えていた植物を見付ける。常時買い取り対象なので、それも採取しておくことにした。
「なあ、魔素中毒って、魔素を取り込んで出せないままにためていく状態の人だろ?」
 采真が訊く。
「ああ。出せれば魔術士、出せなければ魔素中毒」
「何が違うんだろうな」
「さあ。まあ、人間は魔素をためる事も出す事も、想定していない生物だったからな。順応できない人がいるのは当然だろうし、魔術士が少ないのも当然だろう。将来は、多分減って行く症状だと思うけどな」
 変わる環境に合わせて進化していくからなあ、生物は。
「今日はこんなもんか」
「帰るか!」
 俺達は、トップチームが順に設置していった転移石で入り口へ戻った。
「便利になったなあ」
「次行く時は、行った事のある階へ行けるんだからなあ」
 言いながら、門の外へ出る。
 そこで、声がかかった。
「霜村!」
「ん?あ、西村の取り巻きの」
 見覚えのある女子がいた。
「橋立だよ、鳴海」
「そうか。
 西村なら知らんぞ。最近会った事もない」
 先にそう申告しておく。
 橋立は必死な顔に笑顔を浮かべて、素早く寄って来て俺の腕を掴む。
「関係ないから。
 あの、あたしら、霜村に別に何もしてないよね?」
 俺と采真はキョトンとした。
「罵声を浴びせるとかグループを作る時に拒否するとか学校からのお知らせとかを回さないようにしてたりとかの事か?」
 言うと、橋立は引き攣ったような顔をした。
「ちょっとしたジョークじゃん。友達の、ふざけ合い?」
 俺と采真は驚いた。
「友達?誰と誰が?」
「すまん、鳴海。俺にもわかんねえ」
 すると橋立はイライラとしたように言った。
「厄災の劫火が本当は魔人の仕業だったんでしょ?だから、家のあった所も資産も全部被害者の補償に取り上げられたのを取り返すのと、名誉回復と、虐めたり中傷したりしたやつらも、訴えるんじゃないの?」
「……は?」
 今聞いた事を、頭の中でもう1度繰り返してみた。
 家や研究室のあった場所は、慰霊碑の建つ公園やマンションになっている。今更返せと言っても無理だろう。真実が明らかになれば同時に父の名誉も回復されるし、中傷した人間を訴えるなら、何十万人を訴えればいいんだ?
 俺は、橋立が何を言っているのか理解できなかった。
 すると、近くにいた探索者が、口を出した。
「魔人が厄災の劫火を起こしたのは自分だって言ったのを複数の人間が聞いただろ?それで、でっちあげとか言ってたやつらも、認めるしかなくなったんだよ。それで、朝や昼のワイドショーで、霜村が訴えを起こしたらとか、無実の、しかも当事者でも無くその子供である未成年者が親を失って大けがまでしてたのに、全資産を取り上げたのはどうだって言い出してな」
「今更ですか」
 笑いも起きない。
 その探索者は肩を竦めた。
「今まで被害者の権利とか真っ当な第三者としてお前を見ていた奴らが、お前が被害者で自分達が加害者になり得るのに気付いて慌ててるんだろうな」
 今度肩を竦めるのは俺の方だった。
 采真は呆れたように橋立を見ていた。
「そりゃあさぞかし心配になるだろうなあ」
 周囲に居合わせた探索者達は、苦笑したり、我関せずといった顔で、通り過ぎていく。
「訴える気はないから」
 言うと、橋立は安心したようなケロッとした顔で、腕をパッと放して伸びをした。
「なあんだ。心配して損しちゃった」
 それに俺は、少しイラッとして、
「でも、そうだなあ。正当な権利と言えば権利か。どう思う?」
と言ってやった。
 采真もその探索者も俺の考えはわかったようで、
「そりゃそうだぜ。お人好しに過ぎるぜ。現に橋立だって反省はしてないみたいだし」
「今後の為にも、ここは訴えておくべきじゃないかな」
などと合わせ、橋立は慌てた。
「え、嘘でしょ?は、反省してるし!」
「まあ、弁護士と相談してみろよ。協会の法務部で乗ってくれるからよ」
「はい、そうします」
「高校時代の事は俺が証言するからな!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 俺はそんな必死な橋立から顔を背けて、笑いそうになるのを隠した。
 そして、それに気付いた。
 同じように必死な顔の男が、2メートルも離れていない所でブツブツと言っていた。
「それじゃ困るんだよ。自分よりも不幸なやつでないとだめだろ。憎んで、いい気味だとせせら笑えるから、俺達は生きて来られたんだ。敵わないやつが犯人なんて言われたって、どうすりゃいいんだよ」
 俺は橋立を背後にかばい、采真とその探索者が剣を構えて俺の前に立った。
 その男が、出刃包丁を握っている手を袋から出し、構えた。
 采真がいるし、相手は素人の中年だ。俺は大して心配はしていなかった。
「何なの!?」
「いいから大人しくしてろ」
 橋立の方がうるさくて厄介そうだ。
 いや、もっと厄介なものを見つけてしまった。
「采真、そっちは任せた」
「おう!って、何?」
「仲間があそこで魔術を――」
 ぶっ放した。




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