オーバーゲート

JUN

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正座

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 翌日は、大騒ぎになった。
 魔人に捕えられていたのを息子達が奪還してきた、というのは、誰もが飛びつくお話だ。
 しかしその裏では、俺達にはカミナリが落とされていた。
「それは保留って言ってたよな?」
 支部長が頭を掻きむしって怒ると、パラリと髪が落ちた。
「あんまり掻きむしると髪によく無いですよ」
 采真がたまらずにそう言うと、案の定、
「だったら大人しくしとけよ!」
と言われた。だろうな。
 今の所、俺達以外に一番奥に辿り着いた探索者は、グループが1つらしい。しかし、それ以上は行かないようにとの命令に従っているそうだ。
「しかし、考えたな。ゲートも通らずに行けば引き戻されないとは」
 感心したように、環境省――ゲートは環境省の管轄で、魔術や武具類は文部科学省の管轄だ――の幹部は唸った。
「感心してる場合ではありませんよ。ゲートを通らないというのは、違法ではないですか」
 警察官が言うと、
「いや、『ゲートを通らなければならない』という法律はありません。実質、ゲートを通らずに入る方法が無かっただけで」
と支部の弁護士が言い、警察は、背もたれにどっかともたれて鼻から大きく息を吐いた。
「しかしものは考えようですよ。そのカエルの置物を使えば、そこまで踏破していない人間でも転移できる。すなわち、自衛隊の部隊を送り込む事もできるという事ですよ、万が一の場合には」
 防衛省トップが腕を組んで考え込む。
 俺と采真とリトリイは、部屋の隅で正座をしてその会議を眺めていた。
 足はとうに痺れ切って、感覚がない。
 リトリイは生まれて初めての正座がこれで、気の毒な事をしてしまった。きっと、正座を罰としか捉えていないだろうな。
「もしも、魔人がまたこちらへやってきて災禍を及ぼすようなら、我が国は、それを許すわけにはいかない」
 首相が言えば、別の政治家が、
「先に攻撃するわけにはいきませんよ。友愛党がうるさい」
と言い、別の政治家が、
「明らかに攻撃をしに相手が来るとわかっていれば、それを阻止するのは、先制攻撃ではないと思いますが」
などと言い、紛糾し始めた。
 俺達3人は部屋の隅で、忘れ去られている。
「そういうの、他でやってくれないかなあ」
「足がなくなったような気がしますよ。正座で足が消えたりしませんよね?」
「消えるのは感覚だけだ。後で嫌になるほど痛いから安心しろ」
「え、何ですかそれ。安心できませんよ、鳴海」
 小声で言い合っていると、不意にクルリと皆がこちらを向いた。
「へ?」
「実際のゲートの向こう側の様子と、魔人軍の戦闘能力について知りたい。
 自衛隊の数名を連れて、入り口付近だけでもいいから偵察して来てもらいたいのだが。
 それと、人族の代表と、共闘できないか会談を行いたいのだが」
 首相が言った。
「お前ら、勝手に自宅から行った事も、魔人とやり合って来た事も不問にしてくれるそうだから、協力して来い」
 支部長が言い、俺達は喜んで、
「ありがとうございます!」
「じゃあ、今からでもすぐに!」
と言いながら立ち上がりかけ、派手に転んだ。
「足が!足がぁ!」
「な、何なんですかあ、これはあ!」
 リトリイは泣きべそまでかいている。
「すまん。途中から、正座させてる事を忘れてた」
 支部長が半笑いを浮かべた。
 が、絶対嘘だ!
「あれ?何か、足が変だよ?」
 リトリイが言う。
「血流が戻り始めたんだ」
「来るぜ」
「ああ」
「何が?」
「ジンジン」
「ジンジン?あ、これかな、これ……うぎゃああ!何だこれ!?」
 リトリイは涙を浮かべて悶絶し、俺と采真は無言で耐えたのだった。
 リトリイよ。正座の罰は、正座そのものだけでなく、解いた後もラウンド2があるのだぞ。








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