オーバーゲート

JUN

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イタリアの夜

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 彼らを拘束したまま協会へと連行し、俺達はカルロスとリタに、「今晩ミーティング」とメールを打った。
 続いて協会職員に事情を説明し、調書を作って、彼らを警察へ引き渡す。
 それが済むともう夜で、俺達はアパートに戻った。そして、リタの部屋に、また4人で集まる。
「ケガがなくて何よりだよ」
 カルロスは、自分が何かされたかのように、青い顔をしていた。
「あいつら、『協会の上の方が黙認してる』とか言ってたけど」
 言うと、カルロスは首を横に振った。
「流石にそれはないよ。都市伝説レベルだね」
 それを是非信じたい。
「酔った時に友達が喋ったって、ダメかな」
「そうだな。弱いな」
 采真とリタはがっくりと肩を落とした。
 が、采真はすぐに立ち直った。
「じゃあ、作戦は続行ってわけだな」
「そういう事だ。方針に変更なし。引き続き、俺達は全力で先を目指せばいい」
「OK、鳴海!」
「リタ、そういう事だ。焦るなよ。確実に俺達は、真相に近付いている」
 リタは、悔しそうに唇を噛んだ。
「でも、あたしもマリオに1発入れたいのに。悔しいわ」
「リタ。私刑はダメだよ」
 カルロスが慌てて言うのに、リタは益々不機嫌そうになる。
「わかってるわよ」
 俺と采真は苦笑して、隣へ引き上げる事にした。

 日本の家に戻ってもいいが、何か呼び出しとかがあるかも知れないと思って、イタリアに泊まる事にした。
 部屋2部屋の内の1部屋はダイニングのようになっているので、もう1部屋で並んで寝転ぶ。
 さっさと寝るかと目を閉じた後、それに気付いた。
 
     う……うう……う……

 俺と采真は、パッチリと目を開けて顔を見合わせた。
「女の泣き声だな。不動産業者が言ってた」
「ああ。でもこれって、デジャブって言うのか?」
 音を立てないように、ソロリと起き上がり、その声に耳を澄ます。
 泣き声に、鼻をすすり上げる音。そして、溜め息。
「……これ……」
「リタだな」
 俺達は、よくよく、隣家の女性に泣かれる運命らしい。
 何となく溜め息をついた時、窓の外に、ポウッと灯りがついたように感じてギョッと目を向けた。
 何も無い。
 が、少しすると、ポウッと明るくなる。
 よくよく見ると、ベランダの下を這うようにして光の球がふわりと飛び、手すりから浮き上がって少ししたところで消えている。
「何だ?」
 俺達は窓際に寄った。
 また、光の球が飛んで来て、手すりの上まで浮き上がって、消えた。
「人魂?」
 采真が小さい声で言う。
「不動産業者が言ってたな」
 俺も小声で返し、それから言う。
「これ、光の魔術だぞ」
「……リタ?」
「そう考えるのが合理的だな」
 言って、そうっとベランダの窓を開け、隣を見た。
 このアパートは、2部屋ずつベランダがくっついている。ここは、リタの所とベランダがくっついており、仕切りの板があるものの、下は20センチほど開いている。
 気を付けて、ベランダに出る。
「リタ?」
 声をかけると、隣でリタの声がした。
「あら。鳴海?」
「俺もいるぜ!」
「フフ。どうしたの?月見?」
 俺と采真は目を見交わした。
「まあ。リタは?もしかして、魔術の訓練?」
「う。何で、まあ。
 光だと害が無いと思ったんだけど、眩しかった?」
「いや、眩しくはないよ。ないけど……」
 俺は、不動産業者に火の玉の目撃情報があるせいで、この部屋が瑕疵物件と言われている事を告げた。
「はあ!?し、知らなかったわ。でも、どうりで隣に人が来ないし、来てもすぐに出て行くと……」
 それを聞いて、俺達はゲラゲラ笑った。
 つられたのか、リタも笑い出した。
「いいんじゃねえの?貧乏なやつにお勧めじゃん」
 采真が言う。
「じゃあ、訓練は続けようっと」
「いい根性してるよ」
 それで俺は、少し光を安定させ、強くなるようにアドバイスをし、その成果が多少出たところで、お互いにお休みと引っ込んだ。
 采真は暗い部屋で、真剣な声で言った。
「もう、女の啜り泣きは、止めたい」
「ああ」
「必ず、マリオの罪を暴く」
「ああ」
「そんで、リタに告白する!」
「おう!がんばれよ」
 俺達は拳を付き合わせ、それで目を閉じた。
 采真がリタの夢を見たかどうかは知らない。
 でも俺は、巨大な松明を掲げて走る松明リレーの夢を見た。



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