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襲撃

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 まだ日の上らない未明の事だった。
 ゼルと見張りを交代した直後に、それは来た。盗賊団の襲撃だ。
「起きろ!」
 流石に皆、一声かけると跳ね起きる。
 甲冑や防具などに身を固めた30騎ほどの集団が、町になだれ込んで行くところだった。とても静かだ。
「行くぞ」
 野営の道具もそのままに、こちらも馬に飛び乗って町へ急ぐ。
「町が見える所で張っていて正解でしたわね」
 ロタが言い、マリアが、
「今回でおしまいだ」
と意気込む。
「ああ、ローズちゃんが心配だ!」
 ルイスが言うのに、ガイが、
「俺はルイス副隊長が何か心配ですけど」
と俺を見た。
「俺も同感だよ。
 さあ、気を付けていこう!一般人にケガ人が出ないように」
 俺達が盗賊団に遅れて町に入って行くと、盗賊団が、金庫や麦の袋を馬に積み終わったところだった。
「え!?早っ!」
 ギョッとしてゼルが言うが、向こうもギョッとしたらしい。
 中の1人が、そばにいた女性に剣を突きつけた。
「動くな!この女を殺すぞ!」
「キャアア!」
 そしてルイスが叫ぶ。
「ローズちゃん!?」
 俺は思わずルイスを見そうになった。
 それで周囲の窓が開き、寝ぼけ眼の住人や泊まり客が顔を出した。
「何だ、朝っぱらから――何だ!?」
「あ、集会所のドアが!?」
「盗賊団だ!」
 一気に騒がしくなる。
 その中で盗賊団は、人質にしたローズという女性を馬に引き上げ、剣を突きつけたまま、
「動くな!日が昇るまでに町から出たら、女は殺す!」
と俺達に向かって言い、素早く、町を引き上げて行った。
 そしてそれを、俺達は歯ぎしりしながら見送るしか無かった。
「フィー隊長!」
「人命第一だ」
「でも!」
「馬の蹄の痕を辿れば方向がわかる。今は追うな」
 俺は馬を降り、開け放したドアの前でへたり込む町長らしき人物に近付いて行った。
「中央軍独立小隊の者です。あなたが町長ですか」
「は、はい。
 ああ。納税分の小麦をここに集めてあったのに!それと、祭りの寄付金も!」
「カギを壊してありますね」
 ドアを調べていたガイが言う。
「ああ、太陽早く上れよう!」
 ルイスが落ち着きなく空を見上げている。
「それにしても、随分と仕事が早いな。それに、目的の場所を知っていたみたいだし」
「ええ。早すぎますわ」
 町長がギョッとしたような顔を向けた。
「まさか、内通者が――!?」
「しっ。それをこれから調べましょう。
 蹄の痕を辿れば、後を追えるでしょうから、取り戻せるかも知れませんしね」
 その時、ルイスとマリアが素っ頓狂な声を上げた。
「ああっ!?」
「待て!!」
 目を向けると、馬に乗った十数人が、町から走り出していくところだった。
「人質が!」
 ルイスが言うのに、男が振り返って、
「出るなと言われたのはあんた達軍人だろう?俺達は、同じ商隊を組む家族だ。心配して追いかけて何が悪い!」
と言うや、町を飛び出して行った。
「フィー隊長!蹄の痕が、グチャグチャで追えませんぜ!賭けたっていい」
 ゼルが町の入り口を調べて肩を竦める。
 俺達は全員、がっくりと頭を垂れた。




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