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ノアの代理人(5)動き出した計画
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方々で、人知れず混乱が起こっていた。魔術士を呼び寄せる元凶となった些細だったはずの事件の当事者達が、敵意を剥きだしにして6係の魔術士に反逆する。
そしてサミットの会場でも、避難の呼びかけに異議を唱える大統領が出た。
「しかし」
「ノア?フン!たかがテロリストだ。おそるるに足りん!」
その自信はどこから来るのかと誰もが思った。
しかし、そのパフォーマンスは、間違いでもない。
「なるほど。我が国の警備体制を信頼して頂けるようで」
日本の総理が笑って席に座り直すと、ほかの首脳達は、お互いに顔色を窺いながら、席についていった。
唖然とした警備部員と他国のSPだったが、仕方がないと、その場でのガードに切り替えた。
紺野は口を開いて唖然とした後、今度は唇を噛んだ。そして、仕方がないという風に小さく息を吐くと、
「部屋の外を固めて下さい」
と言ってSPらを廊下へ追いやると、首相に近寄り、頭に拳銃を突きつけた。
会場に行こうとするが、騒ぎに気付いた記者や一般人が邪魔になり、なかなか進めない。周到にSNSやヤジを使って、この群衆の中にテロリストが混ざり込んでいると声高に触れ回り、皆がパニックに陥るようにと計画されてもいたのだ。
そうこうしているうちに、ヒロムはあまねと合流する事ができた。
「ヒロム!無事だったか!」
「ああ!殴り倒して来たぜ!」
「え……あ……」
あまねは一瞬逡巡したが、緊急事態だし、向こうはどうせその気だったんだし、と開き直った。
「で、あまね。まずいのか」
「たぶん。本命は向こうにもういるよ。僕らはまんまと陽動に釣られたんだ」
「急いで向かわないと――とは思うのに、もう少しが進めねえ!」
会場の建物は、直線距離なら50メートルだ。
しかしその50メートルが、とてつもなく長い。
「そこなのに!
あ、そうだ。道がなければ作ればいい」
「は?あまね?」
あまねは魔銃杖の先を、機動隊のバスの上に向けた。
「は!?」
引き金を引く。
と、バスの上とここを結ぶ氷のスロープが出来上がっていく。
その完成を確認するまでもなく、その先の会場の前にある某国大統領の専用車両の上に向かって氷の道を伸ばすように引き金を引く。
「ひょう!」
ヒロムは走り出しかけ、思い付いたようにあまねを小脇に抱えてから身体強化をかけたまま走り出した。
「ぎゃああ!何するんだよ!?」
「この方が早いだろ!」
「酔う!照準がずれる!」
「大丈夫、大丈夫!」
ヒロムは上機嫌で笑いながら走り、あまねは抱えられたまま、橋を伸ばして会場へと接近して行った。
紺野が首相の頭に拳銃を突きつけるのを、誰もが見たが、誰もがすぐには理解できないでいた。
その行動自体はわかるのだが、それをするのが紺野だというだけで、その行為が別の何かの意味を持つ行動なのではないかと考えてしまったのだ。
「紺野君?」
「お静かに、総理」
「あ?ああ」
反射的に素直に返事をしてしまってから、首相はこれが、冗談でも間違いでもないのだと理解した。
「銃を捨てろ」
大統領が口々に言い、隙を窺うが、紺野は仕事の一環といった風に淡々としており、隙が見当たらない。
「何が目的だね」
紺野は事務的に淡々とそれに応える。
「この世界のありようは間違っている」
言いながら、全員がつくテーブルの真ん中に、腕時計を置いた。
何のマネかと尋ねる者はなく、ただ、それを見た。
しかし、その紺野の言葉に反応する者もいた。
「それは、ノアの代理人のメッセージだね」
ノアの代理人は、いつも犯行の後でメッセージを送るのだが、それがこれだ。
「この世界のありようは間違っている。新しい世界システムの構築が必要だ。そのために、箱舟に不必要な存在は排除しなければならない」
代表者達は凍り付いていた。
「ノアの代理人は、内部にとうに侵入していたのか……!」
紺野は表情を動かすことなく、テーブルから1歩1歩離れて行く。
「待ってくれ。何をしようとしているのか、何を目指しているのか、それを聞きたい」
「そうだわ。こんなバカげた方法でなく、別の方法があるかも」
「まずは話し合おう。それこそが人類の正しいやり方じゃないかね」
口々に言いながら、笑顔を浮かべながら、親密そうなそぶりを見せながら、首脳達が隙を窺う。
「動かないでくださいと言いました」
紺野はピシャリと言い、彼らは渋い顔や不安そうな顔で、大人しく椅子に腰を下ろした。
「何を言っても聞く耳を持たなかった。何を話し合っても無駄。それぞれの国がそれぞれの利益を求めるだけの今のやり方が、あなた方には放棄できない」
「そんな事は――」
言いかけるのに、問う。
「では、開発したという安価で安全でクリーンなエネルギーのノウハウを、ただで全世界と共有できますか」
それでその大統領は顔をしかめて肩をすくめた。
「開発が成功したワクチンの情報を、ただで世界中に提供しますか」
訊かれた首相も、やや顔を俯けた。
「国境に壁。人種差別。自由の国は、一部の人間にとっての自由ですものね」
大統領は不機嫌な顔をして、鼻を鳴らした。
「いいか悪いかよりも、損か得かで追随を選ぶ国に、正しい未来は選択できない」
首相はそっと周囲を視線で窺った。
「そういう事です。
ここで襲撃されて、今日、主要国の首脳は消えます」
紺野はそう、宣告した。
そしてサミットの会場でも、避難の呼びかけに異議を唱える大統領が出た。
「しかし」
「ノア?フン!たかがテロリストだ。おそるるに足りん!」
その自信はどこから来るのかと誰もが思った。
しかし、そのパフォーマンスは、間違いでもない。
「なるほど。我が国の警備体制を信頼して頂けるようで」
日本の総理が笑って席に座り直すと、ほかの首脳達は、お互いに顔色を窺いながら、席についていった。
唖然とした警備部員と他国のSPだったが、仕方がないと、その場でのガードに切り替えた。
紺野は口を開いて唖然とした後、今度は唇を噛んだ。そして、仕方がないという風に小さく息を吐くと、
「部屋の外を固めて下さい」
と言ってSPらを廊下へ追いやると、首相に近寄り、頭に拳銃を突きつけた。
会場に行こうとするが、騒ぎに気付いた記者や一般人が邪魔になり、なかなか進めない。周到にSNSやヤジを使って、この群衆の中にテロリストが混ざり込んでいると声高に触れ回り、皆がパニックに陥るようにと計画されてもいたのだ。
そうこうしているうちに、ヒロムはあまねと合流する事ができた。
「ヒロム!無事だったか!」
「ああ!殴り倒して来たぜ!」
「え……あ……」
あまねは一瞬逡巡したが、緊急事態だし、向こうはどうせその気だったんだし、と開き直った。
「で、あまね。まずいのか」
「たぶん。本命は向こうにもういるよ。僕らはまんまと陽動に釣られたんだ」
「急いで向かわないと――とは思うのに、もう少しが進めねえ!」
会場の建物は、直線距離なら50メートルだ。
しかしその50メートルが、とてつもなく長い。
「そこなのに!
あ、そうだ。道がなければ作ればいい」
「は?あまね?」
あまねは魔銃杖の先を、機動隊のバスの上に向けた。
「は!?」
引き金を引く。
と、バスの上とここを結ぶ氷のスロープが出来上がっていく。
その完成を確認するまでもなく、その先の会場の前にある某国大統領の専用車両の上に向かって氷の道を伸ばすように引き金を引く。
「ひょう!」
ヒロムは走り出しかけ、思い付いたようにあまねを小脇に抱えてから身体強化をかけたまま走り出した。
「ぎゃああ!何するんだよ!?」
「この方が早いだろ!」
「酔う!照準がずれる!」
「大丈夫、大丈夫!」
ヒロムは上機嫌で笑いながら走り、あまねは抱えられたまま、橋を伸ばして会場へと接近して行った。
紺野が首相の頭に拳銃を突きつけるのを、誰もが見たが、誰もがすぐには理解できないでいた。
その行動自体はわかるのだが、それをするのが紺野だというだけで、その行為が別の何かの意味を持つ行動なのではないかと考えてしまったのだ。
「紺野君?」
「お静かに、総理」
「あ?ああ」
反射的に素直に返事をしてしまってから、首相はこれが、冗談でも間違いでもないのだと理解した。
「銃を捨てろ」
大統領が口々に言い、隙を窺うが、紺野は仕事の一環といった風に淡々としており、隙が見当たらない。
「何が目的だね」
紺野は事務的に淡々とそれに応える。
「この世界のありようは間違っている」
言いながら、全員がつくテーブルの真ん中に、腕時計を置いた。
何のマネかと尋ねる者はなく、ただ、それを見た。
しかし、その紺野の言葉に反応する者もいた。
「それは、ノアの代理人のメッセージだね」
ノアの代理人は、いつも犯行の後でメッセージを送るのだが、それがこれだ。
「この世界のありようは間違っている。新しい世界システムの構築が必要だ。そのために、箱舟に不必要な存在は排除しなければならない」
代表者達は凍り付いていた。
「ノアの代理人は、内部にとうに侵入していたのか……!」
紺野は表情を動かすことなく、テーブルから1歩1歩離れて行く。
「待ってくれ。何をしようとしているのか、何を目指しているのか、それを聞きたい」
「そうだわ。こんなバカげた方法でなく、別の方法があるかも」
「まずは話し合おう。それこそが人類の正しいやり方じゃないかね」
口々に言いながら、笑顔を浮かべながら、親密そうなそぶりを見せながら、首脳達が隙を窺う。
「動かないでくださいと言いました」
紺野はピシャリと言い、彼らは渋い顔や不安そうな顔で、大人しく椅子に腰を下ろした。
「何を言っても聞く耳を持たなかった。何を話し合っても無駄。それぞれの国がそれぞれの利益を求めるだけの今のやり方が、あなた方には放棄できない」
「そんな事は――」
言いかけるのに、問う。
「では、開発したという安価で安全でクリーンなエネルギーのノウハウを、ただで全世界と共有できますか」
それでその大統領は顔をしかめて肩をすくめた。
「開発が成功したワクチンの情報を、ただで世界中に提供しますか」
訊かれた首相も、やや顔を俯けた。
「国境に壁。人種差別。自由の国は、一部の人間にとっての自由ですものね」
大統領は不機嫌な顔をして、鼻を鳴らした。
「いいか悪いかよりも、損か得かで追随を選ぶ国に、正しい未来は選択できない」
首相はそっと周囲を視線で窺った。
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紺野はそう、宣告した。
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