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マチのお見合い
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友達の結婚式の2次会用に奮発して買ったワンピース、いつもは履かない余所行きのヒール、ふんわりとした感じのメイク、髪は昨日カットして来た。
マチは鏡の前で自分をチェックした。
今日はお見合いだ。親も親類も、結婚、結婚とうるさい。
「最近は独身の人も多いのよ」
「仕事が忙しくて」
そういう言い訳をしてはいるが、マチ自身、結婚したいと思っていないわけではない。友人の半分は結婚し、子供のいる友人もいる。
年賀状の家族写真を見る度に溜め息が出、初詣では真剣に、
「今年こそいい人と出会えますように」
と神頼みする。
しかし、28の今、合コンに誘われる事もめっきり少なくなり、親も本人も、焦りを感じている今日この頃だ。
今日は久々の見合いで、相手はエリート銀行員。キリッとした感じのハンサムで、魔術士でも気にしないと言う。
同じ班の3人のうち、組んでいるブチさんは既婚者だ。
ヒロムは明るくて楽しい。しかし、もし結婚したとしたら、疲れる気がする。
あまねは大人しくて目立たない。最初のうちは、目の前にいるのに目に入らなくて探した事が何度もあったという、不思議な人だ。もしかして幽霊なんじゃないかと、その頃は少し怖かった。もし結婚したら……想像できない。
別の班の人とは、何だかんだとすれ違ったり、じっくりと話をする機会がなかったりするし、伝票を溜めまくってたり、自分よりも年も階級も下で相手が気を使うか、既に相手がいるかが多い。
そういうわけで、職場で相手を見付けるのは絶望的だ。
今日の見合いには、力が入っていた。
「よし!」
マチはOKを出すと、自分に気合を入れて、自宅を出た。
見合いの場所は、都内のホテルだ。
伯母といる時は、「まあ、伯母さんの顔を立ててお見合いはするけど、わからないわよ」という顔をしているが、内心ではドキドキしていた。
顔が、好みだった。
「館林さんは東大を出てアメリカに行って、WHO?BMW?何だったかしら。何かそういう感じの資格をアメリカで取ったエリート行員なのよ。なのにぜんぜん気取ったところが無くて、優しいんですって」
横文字に弱い伯母がそう説明する。
「ふうん」
「魔術士でも気にしないらしいわ」
「そうなの」
澄ました顔で答えた時、相手がやって来た。
「まあまあまあ!」
伯母がにこやかに青年――館林洋一郎――を迎える。
そしてマチと館林は向かい合って、当たり障りなくまずは挨拶と自己紹介をしたのだが、早くもマチは、この見合いはだめだな、と感じ始めていた。
なぜなら、館林の目は、顔に向くよりも胸に向く方が長いからだった。
表面上は和やかに会話をし、お茶を楽しむ。
マチは色々と話しかけ、身振り手振りを交えたりしてみたが、さじを投げた。だめだ。なので、おばと館林の会話をBGMに、ホテル自慢のパンケーキを楽しんでいた。
それを食べ終え、来た甲斐はあったと自分を慰めた時、その声が響き渡った。
「盗撮魔よ!捕まえてー!」
見ると、走る礼服の男が、ワンピースの女性2人に追いかけられていた。
周囲の人はそちらに目をやるが、見た次の瞬間には男がそばを走り抜けているので、見送るばかりだ。そのうちには、追いかける女性がヒールのせいか、距離がだんだん開いていく。
マチはすっくと立ちあがった。
「麻智ちゃん?」
「待ちなさい!」
マチは走り寄ると、男に魔銃杖を向けて風をぶつけ、男を引き倒した。台風程度の強風で、立ち上がる事も出来ず、男はもがきながらアップアップしていた。
それに悠々と近付き、仁王立ちになって言う。
「警察です」
駆けつけて来たガードマンに男を任せ、席に戻ったマチを、伯母と館林がオロオロとしたように迎えた。
「大丈夫ですか。いやあ、お見事でした」
「もう、今日はお見合いだっていうのに」
マチはニッコリと笑った。
「私は警察官ですから。
それに、個人的に見過ごせませんよね。盗撮は犯罪ですし、胸とかをジロジロと見られるのも女は不愉快ですもの。私は私であって、おっぱいではありません」
館林はきまり悪そうな顔になってよそを向き、伯母は
「ああ……」
と言いながら俯いた。
翌日、そっとブチさんが訊いた。
「昨日はどうだったんだ?」
お見合いだと気合を入れていたのを、ブチさんは知っていたのだ。
「美味しかったですよ!流石は最近話題になっているパンケーキだけはありました!ふわふわで、クリームがたっぷりで、フルーツがこれでもかと添えてあって。もう、天国のパンケーキです!」
ブチさんは察した。
「そうか。それは、良かった……のか?」
「はい!あれ?」
マチは首を傾け、昨日の主目的がお見合いだった事を既に忘れている事に気付き、愕然としたような表情を浮かべた。
「気にするな。相性ってものがあるし、焦る必要はないからな。マチの良さをわかる奴が現れるから」
「……はい」
「……聞き込みに行こうか」
今日も一日が始まる。
マチは鏡の前で自分をチェックした。
今日はお見合いだ。親も親類も、結婚、結婚とうるさい。
「最近は独身の人も多いのよ」
「仕事が忙しくて」
そういう言い訳をしてはいるが、マチ自身、結婚したいと思っていないわけではない。友人の半分は結婚し、子供のいる友人もいる。
年賀状の家族写真を見る度に溜め息が出、初詣では真剣に、
「今年こそいい人と出会えますように」
と神頼みする。
しかし、28の今、合コンに誘われる事もめっきり少なくなり、親も本人も、焦りを感じている今日この頃だ。
今日は久々の見合いで、相手はエリート銀行員。キリッとした感じのハンサムで、魔術士でも気にしないと言う。
同じ班の3人のうち、組んでいるブチさんは既婚者だ。
ヒロムは明るくて楽しい。しかし、もし結婚したとしたら、疲れる気がする。
あまねは大人しくて目立たない。最初のうちは、目の前にいるのに目に入らなくて探した事が何度もあったという、不思議な人だ。もしかして幽霊なんじゃないかと、その頃は少し怖かった。もし結婚したら……想像できない。
別の班の人とは、何だかんだとすれ違ったり、じっくりと話をする機会がなかったりするし、伝票を溜めまくってたり、自分よりも年も階級も下で相手が気を使うか、既に相手がいるかが多い。
そういうわけで、職場で相手を見付けるのは絶望的だ。
今日の見合いには、力が入っていた。
「よし!」
マチはOKを出すと、自分に気合を入れて、自宅を出た。
見合いの場所は、都内のホテルだ。
伯母といる時は、「まあ、伯母さんの顔を立ててお見合いはするけど、わからないわよ」という顔をしているが、内心ではドキドキしていた。
顔が、好みだった。
「館林さんは東大を出てアメリカに行って、WHO?BMW?何だったかしら。何かそういう感じの資格をアメリカで取ったエリート行員なのよ。なのにぜんぜん気取ったところが無くて、優しいんですって」
横文字に弱い伯母がそう説明する。
「ふうん」
「魔術士でも気にしないらしいわ」
「そうなの」
澄ました顔で答えた時、相手がやって来た。
「まあまあまあ!」
伯母がにこやかに青年――館林洋一郎――を迎える。
そしてマチと館林は向かい合って、当たり障りなくまずは挨拶と自己紹介をしたのだが、早くもマチは、この見合いはだめだな、と感じ始めていた。
なぜなら、館林の目は、顔に向くよりも胸に向く方が長いからだった。
表面上は和やかに会話をし、お茶を楽しむ。
マチは色々と話しかけ、身振り手振りを交えたりしてみたが、さじを投げた。だめだ。なので、おばと館林の会話をBGMに、ホテル自慢のパンケーキを楽しんでいた。
それを食べ終え、来た甲斐はあったと自分を慰めた時、その声が響き渡った。
「盗撮魔よ!捕まえてー!」
見ると、走る礼服の男が、ワンピースの女性2人に追いかけられていた。
周囲の人はそちらに目をやるが、見た次の瞬間には男がそばを走り抜けているので、見送るばかりだ。そのうちには、追いかける女性がヒールのせいか、距離がだんだん開いていく。
マチはすっくと立ちあがった。
「麻智ちゃん?」
「待ちなさい!」
マチは走り寄ると、男に魔銃杖を向けて風をぶつけ、男を引き倒した。台風程度の強風で、立ち上がる事も出来ず、男はもがきながらアップアップしていた。
それに悠々と近付き、仁王立ちになって言う。
「警察です」
駆けつけて来たガードマンに男を任せ、席に戻ったマチを、伯母と館林がオロオロとしたように迎えた。
「大丈夫ですか。いやあ、お見事でした」
「もう、今日はお見合いだっていうのに」
マチはニッコリと笑った。
「私は警察官ですから。
それに、個人的に見過ごせませんよね。盗撮は犯罪ですし、胸とかをジロジロと見られるのも女は不愉快ですもの。私は私であって、おっぱいではありません」
館林はきまり悪そうな顔になってよそを向き、伯母は
「ああ……」
と言いながら俯いた。
翌日、そっとブチさんが訊いた。
「昨日はどうだったんだ?」
お見合いだと気合を入れていたのを、ブチさんは知っていたのだ。
「美味しかったですよ!流石は最近話題になっているパンケーキだけはありました!ふわふわで、クリームがたっぷりで、フルーツがこれでもかと添えてあって。もう、天国のパンケーキです!」
ブチさんは察した。
「そうか。それは、良かった……のか?」
「はい!あれ?」
マチは首を傾け、昨日の主目的がお見合いだった事を既に忘れている事に気付き、愕然としたような表情を浮かべた。
「気にするな。相性ってものがあるし、焦る必要はないからな。マチの良さをわかる奴が現れるから」
「……はい」
「……聞き込みに行こうか」
今日も一日が始まる。
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