上 下
47 / 64

第47話 山の中央の竹と笹の伐採 2

しおりを挟む
   取り敢えず僕は、ヒセキと話した通り【属性編重】と【完全龍化】を使用する事にした。

   選択属性は土属性で龍形態ではあるものの、前回同様に成長段階は最大にして、残りのスキルスロットに【骨格変化・参考種族=人種族】、【肉体変化・参考種族=人種族】、【死角視点の可視化】、【反射神経向上】と設定してみた。

   骨格と肉体の変化は龍の肉体に慣れて無い為、基本的には龍ではあるけど人に近い形態の方が違和感無く行動出来ると感じたからだ。

   【死角視点の可視化】は竹や笹を切った際、正面以外の見えない範囲をカバーし、可視化する事で【無限収納】に回収をし易くするのが目的だ。

   最後の【反射神経向上】は、ヒセキ達に切った竹や笹が倒れかかった時の保険として設定したんだ。多分避けたりするだろうけど、伐採の対象となる竹や笹が雲を突き抜ける程の巨体だから、万が一取りこぼしが発生した場合を考えたら怖くなったので、素早く動ける様にする為に一応設定したんだよね。

   別に【全ステータス2倍】でも良かったんだけど、その場合は能力値が高過ぎて下手すりゃ山が崩壊して家に被害が出かねないから、必要な能力だけを向上させる事にしたんだ。

   肉体の変化の前に服は【無限収納】に入れて、バスタオルを腰に巻いてからにした。

   その内、慣れたら龍化に合わせて収納出来る様になるだろうけど、今はまだ変化の度に服を破損してしまいそうだしね。

   女性陣の視線が僕の股間に集中していたのは今更な事なので意識しない事にする。

   こうして龍化した訳なんだけど、スキルで人種族に近付けたからか、ファンタジー物の小説やマンガに出てくる、敢えて例を上げるなら、ダンジョン等を守護する巨大な竜騎士に似た風貌の二足歩行の龍になってた。 

   精々の違いと言えば、鹿みたいな角や翼が有り、鱗は【龍精霊化】の時と違い微細な状態では無く、巨大な体格に合わせた大きさになっている。

   身体や腕、脚部の鱗は騎士鎧の様な形状に変化しているしね?

   ただ、それでも目の前にある竹や笹の高さを追い抜く程の背丈では無くて、多分、空でも飛ばないと全景の確認は無理みたいなんだよね。

   また、この身体に変化して知った事だけど、僕の股間のアレは収納式になってたんだよね。

   まぁ、博〇銘菓の某CMじゃ無いけど、ナニをブラブラさせた龍というのは見た目が最悪としか言えんしなぁ・・・ 

   元々の参考にした対象も本来は女性だから、そもそもぶら下げるモノ自体が存在しないけどね。

   本来の形態は半人半馬のケンタウロス状態が基本型で、人と馬体の背に翼が有る姿であり、その姿から更にそれぞれの背に有る翼で身体全体を覆い被せ、一見すると四つ足歩行の鈍重な龍の姿に擬態している、というのが、僕が現在の形態になった時に得た宝鉱龍神帝の個体情報だった。

   人型の上半身が頭部と首に、そして馬体の方がそれに合わせる様な形で違和感の無い胴体と尾、脚部を構成する、って感じかな。

   僕が閲覧したその情報の中には、安全が確保出来る場所や自身の拠点では、鱗では無く体毛の状態か、龍の形態のままだと無駄にスペースが取られる為に魔法で人の姿に変化しているそうだ。

   とは言っても、魔法だと効果が切れかける前に掛け直すのだけど、それすら面倒臭いらしく、自身の体組織から人を模した身体を作り意識だけ入れ替える、という手段を用い、この方法を参考にした他の龍神帝達も同様の手段を使用しているそうだ。

   意識を入れ替えた龍の身体は仮死状態になるので【無限収納】に収納でき、切り替えする際は属性に合わせたエフェクトを隠れ蓑にして、龍と人の身体を差し替えてるのだとか。

   この方法のお蔭で変化途中で襲撃される事も無くなったらしく本人・・・じゃ無く本龍達は安堵しているらしい。

   襲撃されるって情報を閲覧した時は驚いたけど、この世界なら地位や名声を得る為、または希少な龍神帝の素材を入手する為に無謀な挑戦をする、良く言えば勇者、悪く言えばただの馬鹿が一定数居るのも当然なのだそうだ。

   ・・・僕も種族的にはレア過ぎて他人事じゃ無いな、と思い、一応だけど気を付けておく事にした。

   ふと足元を見ると、ヒセキ達が何か問いかけてた。

   別にこのままでも聴覚レベルを上げれば聞こえるけど、誠意を示す為に敢えて屈んで話を聞く事にした。

   なるべくゆっくりと動作を心がける様にする。人を遥かに越えた巨体でいきなり屈めば、それだけで暴風が吹き荒れる程度の事は僕も容易に想像する事が出来たからだ。

   「ん~?どうかしたのヒセキ?」

   「ノンキなヤツだな、カナメ・・・変化していきなりボーっとしたから何か問題でも起きたのかと思ったっていうのによぉ?」

   「あぁ、そりゃ悪かったね~。現在のこの形態になった際に本来の個体情報が判明したから、理解を深める為に内容を読み込んでた最中だったんだよ」

   「何だ、そんな事か。てっきりアタシはカナメ自身の本来の龍としての姿では無く、他の龍神帝の姿になる事で何らかのショックでも受けたのかと思って焦ったんだがな?」

   「それこそ有り得ん話だろうに。この形態だって本来の姿を僕の都合で改変した訳だしさ」

   「そりゃ確かにな。で?どこまで確認したんだよ?」

   僕は素直に個体情報と他の龍神帝達の対応、後はチャレンジャーと言う名のアホ共の話をした。

   「フム、大体その辺りまでか。攻撃方法とかは閲覧してねぇのかよ?」

   「何で?」

   「何でって・・・普通は男なら龍のイメージをする上で真っ先に興味があるんじゃねーの?」

   そう言われてもな・・・

   僕が返答に躊躇していると、ここまで黙って聞いていた竹虎達が答えた。

   「ヒセキ様には悪いですが、要さんは基本的にそうした事に余り興味ありませんから。でも、そうですね・・・他人に迷惑かける人や暴力で全てのカタを付けようって考えの人には、『教育的指導』はされますけどね?」

   「そうなんだよね~♪要おじいちゃんの武闘派の弟子のおじちゃんやおばちゃんとかでも調子に乗ってると、お仕置きされてるからね~♪」

   「・・・ヒセキが、知ってるなら・・・教えて、あげたら?」

   竹虎や笹熊の返答に釈然としない顔をしていたヒセキだったけど、サユキがヒセキに答える事を提案すると納得した様で僕に説明した。

   「宝鉱龍神帝も龍だから爪や牙、尻尾は勿論、下半身の馬体から繰り出される足の踏み付けもスゴいんだよ。当然、ブレスは言うに及ばずってヤツさ。

   後は、土属性魔法による攻撃なんだがな?

   普通のストーンショットもただの石じゃ無くオリハルコンを生成して打ち出すから、大抵の敵は喰らった時点であの世行き確定なんだよな」

   そりゃ怖いな・・・確かオリハルコンって異世界モノの定番で、最も硬度の高い鉱物だったよね?そんなモンが初級レベルの魔法で放たれたら死にもするわな・・・

   「それにな?敵が大軍で襲撃して来たら、偽装を解き本来の姿で遥か上空を飛行し、方向確認後に加速した上で偽装形態で急速降下する、彼女曰く『自重式メテオ』を繰り出された日にゃ、どんな防御も意味が無いから壊滅する運命からは逃げられねーしな!」

   「物騒な話を上機嫌で言ってる所悪いんだけど、宝鉱龍神帝ってそんなに気性が荒いタイプなの?」

   「そうでも無いぜ?むしろ普段はのんびりしている性格だし、敵には自身の攻撃手段の説明までしっかりとする優しさがある程だ。それでも素材欲しさに攻撃して来るってんなら人生終了となっても自業自得だろうしよ」

   「まぁ、そうだよね。それに会話が可能なら性格的には交渉の余地もあるだろうに。例えば、定期的な食料品の提供の代金として希望する素材を可能なレベルで、とかさ?」

   「襲撃したヤツ等がそこまで出来た性格してりゃ、そもそも争いまで発展しねーよ。常識的に考えても龍の中でも最高位の存在なんだからな」

   ・・・まぁ、馬鹿は死なんにゃ治らないって言うしな・・・

   「大体は理解出来たよ。それじゃ、伐採を始めるとしますかね~」

   「アタシ達はどうすれば良い?」

   「そうだなぁ・・・じゃあ、この竹と笹を刈り取った後に再度同じレベルで生やして貰えるかな?

   そもそも、竹や笹の成長力が並みじゃ無いし、地球のと違って高濃度魔力が含有しているせいで普通に伐採も出来んからね」

   「そりゃアタシ達にとっては願ったり叶ったりって所だけど、本当に良いのかよ?一回や二回処の話じゃねーんだぞ?」

   「構わないよ。今は僕が居るから良いけど、早々都合良く居合わせられるとは限らないからね。それなら、今の内に刈れるだけ刈った方が後々の事を考えても正しい判断だと言えるんじゃない?」

   僕の答えにヒセキはため息を吐くと、了解した様で頷いた。

   「まぁ、正直な話をすんなら助かるんだけどよぉ、何か他に要望は無いのかよ?」

   「そうだねぇ・・・じゃあ大体で良いから、約半数まで伐採したら残りの半分はタケノコくらいで成長を止めて刈らせてくれるかな?

   主な目的は食材確保だけど、魔力含有量も高いなら薬品系アイテム作成に必要な素材の代替品として利用出来るかも知れないからね」

   「確かにアタシ達が居る事で食材の消費量がはね上がっただろうからな・・・ヨシ、判った。サユキもそれで良いよな?」

   ヒセキの問いにサユキはコクコクと頷き同意を示した。

   あ~良かった。これで巨大タケノコを複数入手出来るよ。流石にこの巨大な竹や笹程の長さは無いだろうけど、太さもあるし1個食べるのに最低でも1ヶ月はかかると想定している。

   ・・・そうだよね?まさか1日で食べ切るって事は無いよね?タケノコ料理ばかり食卓に出すつもりも無いから1ヶ月は余裕で賄えるハズ・・・筈だ!

   自分の想像した内容に一抹の不安を抱きつつ、表情に出さない様にした。まぁ、今は【完全龍化】してるからポーカーフェイスの必要性も無いけどね。・・・バレ無いよね?

   「じゃあ始めるけど、ヒセキとサユキは安全面を考えて、僕の後ろで成長力の制御をしてくれるかな?」

   僕がそう言うと、竹虎がそれに答える。

   「大丈夫ですよ要さん。私が身体を笹熊と同じサイズになって背中にヒセキ様を乗せますし、その場に居ると危険な場合は退避しますので御安心して下さい」

   そう言うと竹虎は本来の姿に戻り体格を笹熊に合わせた後に、その背にヒセキを乗せた。

   笹熊の方に視線を向けると、既に本来の姿で背にサユキを乗せてお喋りしていた。

   僕はそれを確認後、先程と同様にゆっくりと立ち上がった。

   「それじゃあ始めるよ~!」

   「ウルセーんだよカナメ!もっと声量絞れっての!今の身体で大声出したら、下手すりゃブレス吐くのと変わらねーんだからよ!」

   「判った~!」

   「判ってねーじゃねーか!」

   ハイハイ細かいなぁ~、と思いつつ僕は頷き返した。

   今後の会話の際には屈み、先程まで無意識に声量を絞って会話していた事に気付いたので、そうする様に心掛ける事にした。

   刈り取りにはシッポの鱗を鋭利な刃物に変化させ竹や笹の根元に巻き付かせて切断する訳なんだけど、実際に行動に移すと通常のモノとは違って幅広い為に長さが足り無かったので、背中の翼をシッポの長さに再構成する事にした。

   別に空を飛ぶ訳でも無いから、あっても無駄なだけだしねー?
しおりを挟む

処理中です...