次期魔王の教育係に任命された

ミイ

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第3章

72. 手料理

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「インカさん…突然の訪問なのに受け入れて下さってありがとうございます…。」

僕は唯一頼れる場所であるインカさんとアクアの処を訪れていた。僕としては前回、ネフライトと話してから様子のおかしくなった彼と気まずい別れをしてしまった為、再度訪問することをとても嬉しく思っていた。

インカさんは僕のことを知ってか知らずかあまり深く事情を聞いてこなかったので、簡単な事情説明でお世話になることを了承してくれた。

「いや、ショウが私達を頼ってくれて嬉しい、好きなだけここに居るといいさ。私もアクアも大歓迎、なぁアクア。」

インカさんは嬉しそうにアクアを抱き上げ、それに応えるようにアクアも「ニャー。」と鳴き僕に抱き着いた。

「良かった…。暫くの間、宜しくお願いします。」






それから僕はインカさんのお宅でお世話になる代わりに家事全般を僕が請け負うことにした。決してインカさんが出来ないというわけではないが、仕事を終えてからアクアの面倒と家事をするのは正直しんどいだろう。

僕の申し出に彼は快く了承すると「早速で悪いが、今晩の夕食はショウが作ってくれないか?」と困ったように告げる。インカさん曰く、食材がほとんど野菜しかなく自分が作れるレパートリーとしては野菜炒めぐらいしかないのだという。保存庫を見せてもらうと唯一、ブロック肉があるものの他は全て野菜だった。

「任せてください!」と気合いを入れて返事をすると早速調理に取り掛かる。元々家事が得意だった僕としてはアクアに栄養のあるものを、インカさんにはスタミナが付くものを作ってあげたい。

一応、2人に好きな食べ物と嫌いな食べ物を聞き食材を切っていく。「まぁあんまり関係ないをだけど…。」と思いつつ、手を進める。ちなみに獣人だからといって特別な調理法はないらしい。日本では猫の禁止食材にタマネギやカカオ、トマト、魚介系があるが特にそういったものもない。そしてありがたいことにこちらの食材は日本のモノと見た目は全く違うものの味はほとんど変わらない為、特に問題なく調理することが出来た。

「夕食が出来ましたよー。」

僕が作ったのは野菜がたっぷり入ったスープとメインにブロック肉を切って焼いたステーキ。サイドメニューにはポテトサラダもどきとミニサラダ。

今回はあまり時間をかけれなかったので簡単なものになってしまったが、急遽とはいえ十分だろう。若干、野菜の多い食卓になってしまったがアクアの好き嫌いを克服するにはいい機会だ。

これで食べてくれるといいけど…。

席に着いたインカさんは僕の作った料理を見るなり、ほぉっと感嘆の声を上げ、お箸を手に取る。そして黙々と箸を進め次々とお皿を空にしていった。アクアは呆然とその光景を見つめつつ、一番近い野菜スープに口をつける。まだ人型がとれないアクアの為に細かく切って冷ましておいたものだ。

あぐあぐと音を鳴らしながら食べ進め、気付いた頃にはミニサラダ以外を食べ終えていた。アクアはミニサラダを睨みながら「ヴー…。」と唸っている。

「アクア、食べやすくしてるから食べてみて。それでも無理だったら食べなくていいから。」

僕はアクアにそう伝えると魔王城では味わえなかった家庭の雰囲気を楽しむことにした。
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