まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第八章 まるで暴挙なラブコメディ

CASE59 ネロリアス・マクナン その1

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 窓の外に見えていた巨大なクレーターは、現在パプカが使役するゴーレムによって修繕されていた。
 そしてよくよく見てみると、その巨大クレーターには及ばないものの、庭にはその他にも大量のクレーターが刻まれているようだった。どうやら今回以外にも、ちょくちょく侵入者がこのアパートを訪れているようだ。

「命知らずと言うかなんと言うか……」
「この村の男連中は女性に飢え過ぎです。まあ男女比の問題もあるんでしょうが、真正面から口説くという事がなぜできないんでしょうね?」
「豪胆に見えて結構繊細だからなあいつら。可愛い子を見つけても話しかけることがまず無理らしいぞ」
「あぁ、なるほど! だからわたしに誰も男が近寄ってこないんですね? すごく納得しました!」

 いやパプカの場合、手を出すとお巡りさんかゴルフリートのおっさんがすっ飛んでくるからだろう。社会的に死ぬか、物理的に死ぬかの二択なんて関わりたくなかろうよ。

「ともかく、いらんトラブルを起こしていないようで良かったよ。ネロさん、パプカの仕事の手伝いは順調ですか?」
「順調…………ポーション、面白い」
「そうそう! ネロさんってばすごいんですよサトー! ポーションづくりの専門でもないのに、凄く飲み込みが早いんです! おかげで数日分のポーションがあっという間に完成ですよ!」
「天才と言う部類のお方だからな。伊達に12歳でプラチナランクの冒険者じゃないってことだ」

 普通の人間とは頭の出来が違うのだろう。

「そう言えばパプカさん。ポーションをこんなに大量に作ってどうするんスか? 個人で使える量じゃ無いと思うんスけど」

 パプカの部屋には所狭しとポーションの瓶が積み上げられている。
 地震とか起きれば大惨事になりかねない状態だが、この辺りではほとんど地震は起きないらしいので問題無いと言う。

「ああ、そう言えばアヤセにはまだ教えていない仕事だったな。実は、リール村のポーション類は定期的にパプカから買ってるんだよ」
「え、そうなんスか?」
「えっへん。パプカ印のハイポーションは効き目が強いと評判なんですよ?」

 胸を張るパプカに同調するのは少し癪だが、実際彼女のポーションは、辺境で物資が届きにくいこの村において非常に重要なポジションを占めている。
 冒険者には必須とさえ言える回復アイテムポーション。作ることが出来るのは、完璧に設備を整えた工場か、腕の良い錬金術師が必須となるアイテムである。
 錬金術師というジョブは数が少なく、工場は大都市にしか無いので、場所によっては輸送コストが馬鹿にならない。そのため、現地でポーションが作れる存在は非常に重宝されるのだ。

「普段憎まれ口を叩いてはいるが、パプカが居ないとうちのギルドの財政はちょっと厳しくなる。まあ、こいつの起こす被害でほぼプラスマイナスゼロではあるが」
「えっへん!」
「いや最後のはちゃんと反省しろよ!」

 優秀かつちゃんと実績を残しているのは良いが、性格に難ありと言うのはいただけない。

「あ~、でも最近ちょっと困ってるんですよねぇ」
「? 何か問題でもあるんスか?」
「いえね? 何年か前にポーション業界に革命を起こした人物が居まして。超格安で性能の高いポーションを大量に生産しているんです。これが最近更に改良されまして、輸送コストを考えても、個人で作ってる錬金術師では太刀打ちできない価格になり始めたんですよ」
「はぁ……ダンピングみたいな物ッスかね?」
「だんぴ? それが何かは分かりませんが、一昔前ならポーションはそこそこ高い値段で取引されてたんです。でもその革命が起こったために値崩れ。廃業した錬金術師は多かったと聞きます。手軽になったのは良い事だと思いますけど」
「うわぁ、ファンタジーなのに世知辛いッスねぇ…………あれ? サトーさん、なんか顔が蒼いッスけど大丈夫ですか?」

 どこかで聞いた話。ポーションの値崩れと言うのは、俺にとって非常に身近な話であった。
 と言うか、最近結婚した某友人の奥さん。彼女が思いっきり関わっている話なのである。

「えっと…………実はな、パプカ」

 俺はパプカに、ボンズの奥さんであるフローの恋愛劇のあらましを伝えた。
 ボンズの元に馳せ参じるため、金稼ぎとしてポーション業界に革命を起こしたという話である。

「…………その一件について、わたし以外の錬金術師に話さない方が良いですよ。その召喚者、この界隈では絶許指定にされていますから」
「だよなぁ。あぁ、召喚者の被害がこんなところにまで……」
「ちなみに、錬金術師が作ったポーションに色々な効果を付与するのは魔法使いのお仕事なので、彼女の敵は凄まじい数であると言えるでしょう」

 ちらりとネロを見てみると、壁に寄りかかりながら、深い溜め息をついていた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………これだから召喚者は」
「いや、貴女が着いていってるコースケさんも召喚者ですからね?」
「だから苦労してるんじゃないですか。全く、胃の薬がいくらあっても足りはしない。心労に効く回復ポーションは無いものか……」
「苦労されてるんですね…………ってあれ? なんか喋り方おかしくないですか?」

 ネロの喋り方は、単語を並び立てるシンプルな物。これほど流暢に話すタイプの人間ではなかったはずだ。
 俺の指摘にハッとしたネロは、気まずそうな表情を浮かべたあと、もう一度深い溜め息をついてから顔を上げた。

「まあ良いです。コースケさんもいらっしゃらないですし、キャラ作りは止めます。ええ、これが本来の私の喋り方なんです」
「キャラ作りて……」
「ちょっ、止めてくださいよネロさん! その話し方ではわたしとキャラが被ってしまうでは無いですか! みんな混乱しちゃいますよ!」
「いや、それは今更ッスよパプカさん……」

 姿形と肩書。それに加え、唯一差別化を図っていたネロの独特な話し方を敬語に直してしまうと、いよいよキャラ被りも完璧になってきた。
 幼女に魔法使い(錬金術師)に敬語キャラ…………うわ、凄いややこしい!

「と言うかなんでキャラ作りなんてものを……しかも聞くとコースケさんには秘密といった様子ですが、何か理由でも?」
「まぁ…………諸事情によると言いますか、とりあえずこれを見ていただけますか?」

 そう言ってネロが懐から取り出したのは一枚の紙切れ。長方形の白い紙に文字が羅列されているそれは、おそらく名刺と呼ばれる物であった。
 俺とパプカ、そしてアヤセは気になる名刺の文字に目を走らせる。

「…………召喚被害防止委員会・会員?」

 名刺には、全く聞き覚えのない文字が書かれていた。
 
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