まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第八章 まるで暴挙なラブコメディ

CASE60 ジュリアス・フロイライン その3

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「怪盗テュランのファン!?」

 驚きと呆れを半々に混ぜつつ、テュランから色紙にサイン書いてもらっているジュリアスを前に俺は叫び声を上げた。
 全身革布とロープで簀巻きにされたテュランが、片腕だけ出してペンを走らせるという光景はなかなかにシュールである。

「──怪盗テュラン? どこかで聞いたことのある名前だと思ったけれど、確か『ミナス・ハルバンの大冒険』に出てくるキャラクターの名前だったかしら」

 テュランの名を聞いたディーヴァが納得がいったと手を叩く。
 『ミナス・ハルバンの大冒険』とは、この世界に置いて大ベストセラーと認知されている児童向け小説である。大人にもファンは多く、王都に滞在していた頃に出た新作には購入のための長蛇の列が出来たほどだ。
 そしてここで重要なのは、フィクション作品である『ミナス・ハルバンの大冒険』のキャラクターが現実へと飛び出して、小説の大ファンであるジュリアスの前にいるということだ。

「うむ、お嬢さんフロイライン。サインはこれで宜しかっただろうか?」
「ふわぁ! あ、ありがとうテュラン! 一生の宝ものにするぞ!!」
「はっはっは! 我輩もこれほど喜んでもらえて嬉しいぞフロイライン。ところで、そろそろ縄を解いてもらえまいか? これでは身動きが取れないのである」
「え、それは流石に駄目だ。常識的に考えて」

 あ、良かった。ポンコツ女でも、最後の一線である良心は忘れていなかったようである。良いぞ、犯罪者はそのままお縄につかせておいてくれ。

「常識的に考えて! テュランお得意の縄抜けを見るまで解くわけ無いだろ! さあ、ミナスを手玉に取った縄抜け術を見せてくれ!!」
「おいぃっ!? 『常識的』の意味を調べ直せ!!」

 頭にツッコミを入れ、ヒートアップしていたジュリアスを落ち着かせる。興奮冷めやらぬと言う様子であるが、ひとまずは話ができる程度にまで落ち着いてくれたようだ。

「こいつは東部のギルド本部へ引き渡す。まあそれはともかく、いいかジュリアス。この簀巻きになってるオッサンはただの犯罪者であって、小説内のキャラクター本人じゃない。落ち着いて考えてみろ。フィクションとリアルをごっちゃにするな」
「何を言うんだサトー。ミナス・ハルバンの大冒険は、ファンの噂では史実に基づいているという一説もあるんだぞ? 特に怪盗テュランはその説が有力視されているんだ」
「はぁ? あの小説ってあれだろ? エンシェントドラゴンとか堕天使とかをバッサバッサと切り倒すミナスの話だったよな? どっちも人類じゃ勝てない最強の種族じゃねぇか。史実であってたまる…………か?」
「? 何かしらサトー、ワタクシの顔をじろじろと」

 …………確かディーヴァって、堕天使と言う種族なんだっけ? そして彼女と同じく魔王軍四天王の一角であるメテオラは、エンシェントブラックドラゴンと言う種族だったはずだ。
 ────いやいやまさかな!! 事実は小説より奇なりって言うしな! よし、深く考えるのはよそう!

「とりあえず、そこの怪盗テュランと言うコスプレイヤーが偽物なのは間違いないだろう。ミナスハルバンの大冒険って何百年も昔の作品だろうが」
「まあそれはそうだが……もしかすると~代目テュランとか、襲名制なのかもしれないだろ」
「あんな変態が何人もいるとは思いたくない」

 何を考えてあのおかしな格好にジョブチェンジしたいと思うのだろうか。

「そもそもテュランって怪盗──つまりシーフ系のジョブなんだろう? お前、言ってた事と違うじゃないか」

 今でこそシーフにジョブチェンジしたジュリアスだが、かつては「盗賊のあり方が剣士のそれと相反する」とか言ってごねていた。新刊でミナスがシーフにジョブチェンジしたことで心変わりをしたようだが、そんな彼女がテュランのファンと言ってしまうのはどうなのだろう?

「た、確かにそうだが、テュランは私にとって特別なんだ。かつて私の父が読みかせてくれた小説で活躍した義賊、怪盗テュラン。時にミナスと反駁し、時に味方になるその姿は、ミナスに次いで私の好きなキャラクターとなった。しかもだ! 幼い頃私に直接会いに来てくれたこともあるんだぞ! 凄いだろう!?」
「は? 直接? そんな親が演じるサンタさんじゃあるまいし……」
「ゲ、ゲフンッゲフンッ!!」

 テュランが目をそらして咳払いをした。怪しさ満点だが、とりあえず保留にしておこう。

「そしてテュランは私に言った。「君もいつか立派なお嬢さんフロイラインになるんだよ」とな。────だから私は大人になって、ジュリアス・フロイラインと名乗って冒険者として活躍するようになったのだ」
「いや、それは多分そういう意味じゃないんじゃないかしら……」
「言葉通りに受け取る人ッスねぇ」
「いや、と言うよりただの馬鹿だろ」

 まさか彼女の偽名にこんなくだらない裏話があったとは。

「あ、と言うかジュリアスさんって本名はフロイラインじゃないんスね。知らなかったッス」
「うむ。追手から逃れるためには偽名を名乗るしか…………あ、いや。これはちょっと内密にして欲しい」

「グスッグスッ……」

 何故かテュランがうずくまってすすり泣きをしているような音を立てている。さっきから何なんだこいつは。

「長話もなんだし、とりあえず逮捕だけでもしておくか。えーっと、罪状は────猥褻物陳列罪?」
「失敬である!!」

 あれ? よく考えたらテュランの犯した罪状ってなんだろう? 他の街で犯罪者であることはハルカの言葉から分かるのだが、その内容を聞いても具体的な罪状が浮かばない。
 うーん……とりあえず公序良俗違反とでもしておくか?

「それと公共物破損とかもだな。広場にクレーター作ってくれやがって。何度目の埋め直しだよ」
「あ、ごめんサトーくん。それは私。犬の散歩のお手伝いをしている時についうっかり……」

 と言ってテヘペロと舌を出すハルカであった。

「犬の散歩でなぜクレーターが!? えーっと……じゃあパプカがいる女子寮の件だ! 不法侵入と器物破損!」
「む、すまないサトー。それは私だ。皿洗いの手伝い中に不可抗力でああなった」
「だから皿洗いが何でクレーターだ!? 何がどうなってそうなった!?」

 あれ? じゃあテュランによる被害って皆無なの!? と言うか今まで確認してた被害って身内によるものかよ! 質悪いわ!!

「支部長さん支部長さん」
「何だアヤセ! 今付き合ってやる暇は……」
「怪盗さん逃げちゃいましたけど、良いんスか?」

 ジュリアスとハルカを相手に奮闘している中、テュランの姿が忽然と消えていた。残るは簀巻きに使った革布とちぎれたロープが地面に残っている。

「わーっはっはっは! 残念だったな青年よ! さっきも言ったが、我輩目的は達せられたため御暇させていただくのである!」

 テュランは一度降りた建物の屋根へと再び乗り移っていた。

「てめっ……結局目的ってなんだったんだよ! 赤髪の女に声かけただけじゃねぇだろ!?」
「赤髪のフロイラインに声をかけたかっただけである!!」

 この野郎ぶん殴りてぇな。

「青年よ、お主とは再び相まみえることもあるだろう。覚悟しておくがよかろう! それまでは模範的な紳士であれ!!」
「ディーヴァ、アレ撃ち落せ」
「しょうがないわねぇ」


 チュドーーーーンッ!!


 再び黒色のレーザービーム。屋根をかすめる形で撃たれたそれは、雲を突き抜けて空の彼方へと消えていった。

「残念だったな、それは残像である! 怪盗テュラン、華麗なる逃走! わーっはっはっはー!!…………」

 無駄に明るいテュランの声は、姿を消したまま小さくなっていった。────おのれ逃した!!


「まあ逃げちゃったものは仕方ないわね。私は仕事に戻ることにするわ」
「あ、そうだな。私も皿洗いがまだ半分ほど残っているんだ。ではサトー、我々はこれで……」

 ガシッ!!

 俺はそそくさとこの場をさろうとするジュリアスとハルカの肩を掴み上げた。

「その前に始末書を書けポンコツ共ーーーー!!」



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