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第八章 まるで暴挙なラブコメディ
CASE62 サトー
しおりを挟む「判決。被告人キサラギ・コースケに対し、有罪を申し渡す」
「えっと……その申し渡しは却下とします。サトーさん、少し落ち着いてください」
ギルド内に設けられた簡易裁判所。日が落ちた時間帯に行われるその裁判は、俺の判決とそれを遮るルーンの言葉で始まった。
「なぜだルーン!? 俺は全世界の独身男性を代表して判決を下しただけだ! 俺は何も悪くない!!」
「うーん……すみません皆さん。集まっていただいて何ですが、サトーさんが混乱しているようなので一度解散しましょう。あとパプカさん、サトーさんに混乱解除の魔法をお願いします」
「わかりました。では最近覚えたての聖魔法を……解呪!」
「あふん」
体から力が抜けて倒れ伏し、目の前が真っ暗になった。気絶したかと思ったが、机に頭をぶつける衝撃ですぐさま目を覚ます。
「はっ!? 俺は一体何を……!?」
「おや、お早いお目覚めですね? わたしの事がわかりますか、サトー?」
「パプカ……? 確かコースケがハーレムに囲まれてるところまでは覚えて……はっ!? コースケこの野郎! ギルティ! ギルティ!!」
「解呪」
「あふん」
天丼であった。
* *
召喚者とはご都合主義の塊である。どんな言動も大抵は好意的に受け取られ、異性に嫌われるということは殆どありえないと言っていいだろう。
もちろん人によってその程度はまちまちだが、ここに極端な例が二人いる。
一人は言わずもがな、キサラギ・コースケ。召喚者のお手本のような体質を持つ男。無自覚にハーレムを構成し、全世界の持てない男たちを激高させる人物である。
そしてもうひとり。コースケの極端に反対方向に居るのがこの俺である。召喚者特有のトラブルに巻き込まれる体質は持ってい入るものの、それが良い方向に転がることがない人間。
そんな両極端に居る二人の男がかち合えばどうなるか。それは先程の裁判で証明されただろう。底辺による頂点への嫉妬の嵐である。
「────はっ!?」
「解……」
「待て待て! 俺は正気だ!! と言うかその魔法ってそんな使い方じゃないだろ! 呪いじゃねぇし!!」
「混乱とかの状態異常にも効く魔法なんですよ? 放つたびに一瞬気を失うのは考えものですが」
そう思うならポンポン連発しないで欲しい。
どうやらパプカの言う通り、しばらく気絶していたようだ。裁判に参加していた村人たちはすでに帰っている様子で、傍聴席に座っていたコースケハーレムの大半はその姿が見えずにいる。
俺が気絶している間に帰ったのかとも思ったが、どうにも様子がおかしかった。
ドンドンドンドン!!
「ここを開けて出てくるのだ! この建物は完全に我々が包囲している!」
「おとなしく言うことを聞くのが身のためですぅ! わっちのコースケ様を早く返して下さーい!」
「ヘイ! 今の台詞は誰デースカ! コースケはワタシの物であって、貴女の物ではありまセーン!!」
ギルドの玄関口の外側から、喋り方だけでそのキャラの濃さが伺える複数の女性の声が聞こえてきた。それと同時に、扉を叩く──と言うより殴る音が鳴り響く。どうやらコースケハーレムがこのギルド内に押し入ろうとしている様子だ。
今の所、扉を押さえるゴルフリートのオッサンのバカ力によって持ちこたえられているようである。
「なんて物騒な状況だ……」
「一応、サトーにも責任の一端があるんだぞ? 怒りに任せて裁判なんてしようとするから……」
「あ、いや……確かにアレは反省しないとな。ところで、誰か詳しい説明をしてもらえないか? 何で俺らが包囲されてるんだ?」
俺がそう言うと、一人の人物が手を上げた。火中の中心人物、コースケである。
「実はその…………俺が原因なんだ」
「「「いやそれは知ってる」」」
この場に居る一同が一斉にハモった。
「ぐっ…………さ、最近あいつらに構ってやれて無くてさ。クエストに連れて行くときも人選を絞らないといけないし、難しいんだよ。だからストレスが溜まってるんだろうなって……デートだって二人きりじゃローテーションが……」
「よし、こいつをハーレムに引き渡そう」
「判断早っ!?」
恐縮そうな表情を浮かべていても、その内容はただのモテ自慢。『年齢=彼女なし』を先程断言したにもかかわらず、女を侍らせてデートに勤しむのが普通だと思っているコースケに慈悲はない。
ぜひともハーレムの中に放り込んで八つ裂きになってもらおう。
「という訳でオッサン、扉は開けてもらって結構だ。コースケさんには人柱になってもらうことになった」
「俺の同意もなしに!?」
「コースケさん…………いや、もういっそコースケと呼ばせてもらうが、これは高度に政治的な判断なんだ。残念ながらお前に拒否権はない」
「性格変わり果てすぎじゃねぇか、サトー!?」
そう言えば彼に本性を表すのは初めてだったか。残念だったなコースケ、俺はこっちが素なんだよ。
「あー……ちょっと良いですか、サトー?」
パプカが手を上げて発言した。
「別にキサラギくんが八つ裂きになろうとわたしは構いませんが」
「いや構ってくれよそこは!」
「とにかく、お父さんをどけて扉を開け放ったとしましょう。残念ながら、無残な目に遭うのはキサラギくんだけでは済まないですよ?」
「は? どういう事?」
「サトーも巻き添えになって八つ裂きになるでしょう」
………………なんで?
「そりゃ……さっきの裁判のおかしなテンションはまずいと思うが、八つ裂きにされるほどか? 奴らが欲しているのはあくまでコースケだろう? 何で俺まで……」
「集団ヒステリーを甘く見過ぎだぞサトー。今の彼女たちに論理的思考などを求めても仕方がない。彼女たち曰く「サトーって奴がコースケを奪ったらしいわよ! この泥棒猫!!」って事になってるらしい」
なにげにこの場に居合わせていたジュリアスが、珍しく真剣な表情で真面目なことを言った。机に向かって始末書を書きながらで無ければ、彼女への評価が変わるレベルのまともな意見である。
「分かったから始末書を早く書き上げろジュリアス」
「はい」
ともかく、集団ヒステリーが起きているということは理解できた。なるほど、コースケを差し出してハイ終わり。とは行かないようだ。
どうやら少しばかり骨を折る必要があるらしい。まあぶっちゃけいつもの事である。
「仕方がない、とりあえず穏便に済むように交渉しよう。アヤセ! 悪いが先鋒を頼む!」
「うえぇっ!? 自分ッスか!? 無理無理、無理ッスよ! 自分平社員ですもん!!」
「落ち着けアヤセ! これは高度に政治的な判断だ! ちゃんとした考えの元での指示だから大丈夫!」
「それコースケさんにも言ってたじゃないッスか! 自分まだ死にたくない!!」
そ、それはツッコミ待ちなのだろうか?
「良いから話を聞け! 良いか? アヤセなら扉を開けずに外に出られるし、攻撃を受けても問題ない。お前物理攻撃効かないだろ? ほら、問題ない。安心して交渉に望め」
「うぅ…………でも、魔法とか食らったら流石に痛いんスけど……」
「────その時はその時だ! なるようになるさ!」
「結局行き当たりばったりって事ッスね……」
部下を死地に追いやることに良心の呵責が無いと言えば嘘になる。しかし、俺の頭で考えられる限り一番の安全策であることは間違いない。
オッサンを送り込んでも良いのだが、その場合はハーレムが全滅するシナリオしか考えられない。そもそも、オッサンは「女子供を手に掛けられるか」と至極まっとうな紳士道を表明しているので、攻撃手段としては不適格だろう。
次いで実力のあるパプカだが、流石に彼女では荷が重い。実力者揃いのハーレム相手では負けてしまうに違いない。
ジュリアスは論外。
そこでアヤセなのである。そう言えばルーンはどこに言ったのだろうと聞いてみたのだが、どうやら安全を講じて、事前にティアルが郊外へ避難させているらしい。流石はハーレム唯一の良心である。
「くっ! 仕方がないッス! 支部長さんの判断を信じて突撃あるのみッス! 女は度胸!! うおぉぉぉぉっ!!」
勇ましい掛け声とともに、アヤセがオッサンの体と玄関扉をすり抜けて外へと飛び出した。
指示を出したのは俺だが、なかなか思い切りの良い奴だと感心してしまう。
アヤセが外へと出てしばらく。けたたましいハーレム軍団の叫び声がピタリと止んだ。
交渉が成功したのだろうか? 扉を叩く音も止まっているので、流石に自体が悪化したということは無いだろうが……果たして。
「えーっと……不肖アヤセ、只今帰還したッス」
と言って、アヤセが後ろ頭を掻きながら戻ってきた。どうやら攻撃を受けた様子でも無いらしい。
「ど、どうだった?」
「とりあえず責任者を出せとの事ッス」
「…………つまり俺か」
先鋒としてアヤセを出した意味はあったのか? いや、ひとまず集団ヒステリーが止んだのだから意味はあったのだろう。これなら多少は落ち着いて話ができそうだ。
くそう! 心底嫌だが行くしか無いか!!
「頑張ってくださいサトー。骨は拾ってあげます」
「お前の屍を踏み越えてパプカと脱出するから、あとのことは気にするな」
「まぁ、幽霊になるのも悪いことばかりじゃ無いッスよ、支部長さん」
「遺灰はリンシュ宛に送れば良いのか?」
どいつもこいつも俺が死ぬ前提かよ!!
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