まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第九章 まるで陽気な忘年会

番外編 サトー その2

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 あれよあれよとお手伝い当日。ギルド幹部の貴族令嬢の相手をすると言う簡単な手伝いと聞いたが、考えてみれば俺はリンシュ以外の貴族様とまともに付き合ったことなど無い。
 入学後友人づきあいを始めたボンズに関して言えば、非常に貴族らしくない気さくな男なので勘違いしやすいが、普通の貴族というのはもう少し偉ぶっているものらしい。
 件の令嬢も、もしかすると高飛車で高慢ちきな嫌なヤツの可能性も十分にあるのだ。リンシュが相手にしろというのだから、少なくとも一癖も二癖もある人間なのは間違いないだろう。
 
 そんな無駄にリンシュへの信頼厚い考察をしている俺は、本日学校が休日なため、朝からリンシュ邸にて待機中。いつ頃令嬢が到着するのかが未定であるため、手持ち無沙汰に庭の芝刈りに精を出していた。
 自分で言うのもなんだし、先日リンシュに言われているので複雑だが、本当に俺はワーカーホリックなのかもしれない。気をつけよう。

「そう言えばノープランで当日を迎えたけど、街に出て何すりゃ良いんだ? 仕事勉強また仕事で遊んだことがほぼ無いんだが」

 なにげに今回の手伝いについては、俺は全くの不向きなのではと草を刈りながら思った。
 週末になったら女の子と遊びに行くようなプレイボーイでは無いのだ。女の子が喜ぶ話し方や遊び方など知る由もない。
 とりあえずあれだ。令嬢に行きたいところを聞いて、それがなければ適当な喫茶店にでも行って時間を潰してもらおう。
 俺? 俺は腹が痛いと言ってトイレで籠城戦を敢行する予定だ。女の子と長時間面と向かって話すなんて能力は持っていないからな。

「────あ、そう言えば名前を聞くのを忘れてた」

 流石に呼び名が分からないとなぁ……今のうちにリンシュに念話機で確認を取っておいたほうが良いか?

 ────と、念話機用の水晶を取り出そうとした所で、リンシュ邸の正門辺りに馬車が止まるのが見えた。一般人が使うようなものでなく、御者も正装を着込んで車の作りも職人の技術が込められた物。明らかに貴族が乗るような馬車だった。
 噂の令嬢が到着したのだろう。草むしりでついた土埃を払い、急いで汚れた衣服を着替えて準備をする。

「うう……さっきまで冷静だったのに一気に緊張してきた。ヤバイ、すごく面倒くさい。もう帰りたい」

 と言う心境は他の人には同調してもらえるものなのだろうか? しかし残念ながら現在地が間借り先のリンシュ邸。召喚者である俺にとっては逃げ場所の終着地点である。
 大きく息を吸い込んで、吸い込みきった所でドアノッカーが鳴ってむせた。

「ゲホッゴホッ!? は、はーい! ただいまー!」

 気を静める間もなく、俺は玄関口へと駆け足。息を整えてドアを開いた。

「失礼。ここはリンシュ・ハーケンソード様の邸宅でお間違いないでしょうか?」
「────ゴリラ?(はいそうです。遠いところをお疲れ様でした)」

 玄関先にゴリラが立っていた。
 身長二メートルを優に超え、彫りが深く目が光り、なぜか女性用の御者服に身を包んだゴリラが玄関先に出現。
 見下ろすゴリラの眼光に、よくもまあ失禁しないで持ちこたえていると全力で自分を讃えたい。

「ごりら……? それはともかく、予定のお客様をお連れいたしました。こちらへご案内しますか? それとも正門へお出迎えへ?」
「──はっ!? あ、ああ! はい。こちらからお出迎えに行きます! ご苦労さまであります!!」

 あーびっくりした!! そうだよな! 御者服着てるもんな! 一瞬ご令嬢がゴリラなのかと思って焦ったぜ!
 どうやら本物のご令嬢は未だ正門の馬車の中で待機中のようだ。これも貴族の作法のひとつなのだろう。また一つ勉強になりました。

 ゴリラもとい御者さんの案内で正門までたどり着いた俺は、一周回って冷静になった心臓に安心感を覚えて笑顔を作った。いよいよ本番。緊張の瞬間である。

「こんにちは。貴方が街を案内してくれるというサトーさん? 今日はよろしくお願いします」
「──────」

 言葉を失った。
 リンシュからの仕事なのだから、色物令嬢が来るのだと確信していた俺にとっては青天の霹靂。ゴリラさんが令嬢だと言う方が、まだ納得がいったであろう。
 しかし、蓋を開けてみればそんなことはなく。清楚で朗らかな笑みを浮かべる赤髪ストレートヘアー。思いの外地味目な服装も自然に似合ってしまう風貌を持つ、お姉さん系美人がそこに居た。

「では私はこれで。道中楽しかったぞ。また機会があればぜひ雇ってくれ」
「ありがとうゴリ美さん。こちらこそ楽しかったです」

 ………………ゴリラについては記憶消去で対応することにしよう。

「あ、挨拶が遅れました。本日お相手をさせていただく、サトーと申します」
「はい。でも、あまり堅苦しくしないで欲しいな。実は今日は半分お忍びで遊びに来ただけだから、できるだけ貴族っていうのは忘れてほしいの。私もサトーくんって呼ぶから」

 と、後半小声で耳元で囁かれた。いい香りが鼻をくすぐり、震える声の振動が耳元をゾワりとなで上げる。

 何ということだ。天使じゃないか!! 出会って一分と立たないうちに確信した! この令嬢様は性格と容姿が抜群に優れている! 非貴族である俺に対して対等な接し方を要求する辺り、俺が想像していたタイプの貴族像は瞬く間に瓦解した!
 ああ、ありがとう神様仏様リンシュ様。
 「召喚者なのに放ったらかしかよどうなってんだ駄女神!」とか「また面倒くさい仕事押し付けやがってボケ上司!」とか思っててごめんなさい!
 こんな約得でラブコメみたいなお仕事なら大歓迎です! 今ならあなた方の御御足だって舐めて掃除できる気がします!


 ゾワリ


「──っ!?」

 そんな風に舞い上がっていると、首元をおかしな風が通り過ぎていった。
 それと同時に脳裏に浮かぶリンシュの笑顔。額には怒りのマークが浮かび上がっており、俺の心のうちの悪口が伝わったのではと恐怖した。あいつ割と普通に心を読むからなぁ。あり得る話である。
 一転して冷静になった俺は、ゴホンと咳払いをして現実へと戻った。

「えーっと……そう言えば御者さんは返してしまいましたけど、街では結構歩きますよ? こちらで新しい御者を手配しましょうか?」
「大丈夫! 私こう見えて結構鍛えてるから! 歩きやすい服装にしたし、初めての王都は貴族じゃない目線で歩いてみたいの」

 屈託のない笑顔。貴族というには少しお転婆な所もあるのだろうか? とは言え、それはそれで付き合いやすい性格。
 年齢は俺よりも上のようだし、立場もあるので敬語を外す訳にはいかないが、本人が言うように、もう少し砕けて話しても良いかもしれないな。
 当初の予定では喫茶店に押し込めて俺はトイレに籠城という段取りだったが、これは思いの外楽しくなりそうだ。

「ちなみに、何処か行きたい所ってあります?」
「うーん、大きい書店には行ってみたいかな? 東部じゃ王都で販売された小説が数ヶ月遅れで扱われてしまうから流行に乗れないのよね。ま、一日中本屋じゃ疲れるだろうし、他の時間はサトーくんにお任せしようかなって」

 守りたいこの笑顔を守るため、俺は当たり障りのない返事をしつつ脳内はフル回転。王都の観光名所や自分が行った事のある綺麗な情景のスポットを思い返す。
 しかし残念ながら、俺は王都にいる間リンシュ邸と学校を往復するだけの生活に終始している。そんな案内に適した場所など全くと言って良いほど心当たりがない。
 仕方がない。幸いにも書店の場所は知っている。彼女が本をあさっている間、『王都の歩き方』みたいな本でも買って予習しておこう。くそう、こんな事なら事前に勉強しておけばよかった。もうちょっとリンシュを信頼しておくべきだったと後悔。

「じゃあ、早速ですが行きましょうか。えー………っと、なんとお呼びすれば良いですか?」
「様は止めてほしいかな。そうね────お忍びでもあることだし、父にしか呼ばれない愛称で良いかしら。【リア】って呼んでくれる?」

 とまあこのようにして、恐らく一生に一度あるか無いかのロマンスな街案内が始まったのである。


 
 
 
 
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