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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE78 スズキ その①
しおりを挟む「ゴルァ、スズキィ!! サボってんじゃねぇぞお客さんだ!!」
「はーい! すいません先輩!!」
意味不明な状況の中、目の前の怪異の一人が大声で叫んだ。
纏う雰囲気や体の一部から察するに、人間形態のメテオラと同じ魔族という種族なのだろう。
俺の所属する国では魔族という種族は認知されておらず、獣人やドワーフ、エルフなどと言った自治都市を持っているわけではないので、こうして複数人が一箇所に固まっているというのは非常に珍しい。
まあうちのリール村でも二人いるけどな。魔界でも有数の超大物が二人。
そんな魔族が呼びつけた名前はスズキ。明らかに日本人の名字である。
ただしこの世界では獣人族に多い苗字でもある。つまり遠い祖先が日本人召喚者だった場合だ。名字だけ聞くと現在の召喚者かどうかの判別はつかないのである。
「おまたせしまし────あーっ!?」
やって来たスズキと呼ばれる青年。茶色の髪を短く切りそろえ、端正な顔つきと長身な体躯。目付きの悪いその青年が俺の顔を見るやいなや叫び声を上げた。
「サトー、お知り合いでちか?」
「んー? いや、話したことはないと思うけど……」
そんな事を言うと、スズキは肩をわなわなと震わせて顔を真赤にさせた。
「よくも俺の前に顔を出せたもんだなサトー!? てめぇのおかげで人生わけのわからないことになってんだよ! どう責任取ってくれる!!」
「やっぱり知り合いっぽいぞサトー、お前一体彼に何やったんだ? ダメだぞ、サトーの罵倒はカミソリのように鋭いんだからな」
「いや、その鋭い罵倒はお前に対してだけだジュリアス」
「ふぐぅっ!?」
いやしかし、向こうさんは俺のことを知っているらしい。人違いではなく、きちんと俺の名前を言い当ててるあたり間違いないだろう。
だが俺は彼を知らない。忘れているだけかもしれないが、召喚者であるならばスズキという名前は記憶の隅にとどめているはずなんだが。はて?
「なんで覚えてないんだよ!? 昔つってもたった二年前だぞ! ロックだよ! ロック・ヴィンジー!!」
「ロック・ヴィンジー? えーっと、誰だっけ? 忘れた。まあ良いや」
「諦めが早い!?」
そもそもスズキって呼ばれているのになんでロック? 獣人のソウルネームみたいなものだろうか? でも中二成分が足りない気がする。
俺の諦めの早さに激高するスズキ青年。だがいくら罵倒されようとも思い出せないものは仕方がない。諦めてくれないものか。
「まじで思い出せないのか!? 中央で会っただろ! ヴィンジー家の三男! 召喚者!!」
「サトーさん、やっぱりお知り合いのようですよ? 思い出せませんか?」
「えー? ヴィンジー家? ダメだ思い出せん。まあ良いか」
「良くねぇよ!!」
だって本当に思い出せないんだもの。いや、ヴィンジー家というのはどこかで聞いたことがある。確か中央の成り上がり貴族の名前だったはずだ。
ここ十年ほどで急速に成り上がった新興貴族。なるほど、召喚者が三男坊ということは、チートを使って盛り立てた典型的な成り上がりというわけだ。
「このっ…………暴力沙汰を起こして連行されたボンボンだぁ!!」
「ああ、お前か。思い出した」
「あっ、畜生!!」
ロック・ヴィンジー。
中央のギルド事務職の女の子に嫌がらせをして、俺に対しても暴力を奮った挙げ句、冒険者ギルドの規定に反したとのことで連行。
こういった場合は辺境地域へ強制的に飛ばされる罰則が適用されるのだが、彼の配属先はここであったらしい。
ロックという名前は転生召喚された際につけられたもので、恐らくスズキというのが彼の本名なのだろう。
ようやくスズキの素性を思い出した矢先、彼の脳天に拳が振り下ろされた。先程スズキを呼び出した彼の先輩によるものだ。
「ゴルァ!! お客さんに対してなんて口の聞き方だぁ!?」
「痛ってぇ!? いや違うんスよ! こいつ昔俺に……」
「口答えすんな!! 何があろうと客は客だ!」
「でもここに居るってことは不法入店……」
「口答えぇ!!」
再び振り下ろされる拳。あたりに響く音はたいへん痛ましく、彼の苦労が忍ばれる。
「忍ばれるって、お前のせいだろうが……」
「それは逆恨みってやつだろ。ここに来ることになったのはお前の自業自得じゃん──ところで、ここはどこなんだ? 俺たちダンジョンに居たはずなんだけど……」
「あっ!? と言うかサトー! サンとリリアンが居ないぞ!?」
「え? あ、本当でち!? 飛ばされたのわたちたちだけってことでちか!?」
「皆さん、エクスカリバーさんのことも少しは触れてあげてください……」
一人でもなんとかなるエクスカリバーの心配は無用だろう。そんなヤツのことよりも心配なのはサン達だ。次の階層へと移動する矢先の戦力の減少。敵は強くなるのにこちらが弱体化しては大問題だ。
思い返せば点呼の際に二人の声はなかった。やはりあのダンジョン内に取り残されたのだろうか。
「なんだ? 取り残された仲間がいるのか?」
「あ、ああ。ダンジョン内で出会った仲間なんだが……」
「? ちょっと詳しく聞かせてもらっても?」
どうやら気を取り直し、仕事モードに入ったスズキ。これまでのあらましを説明すると、納得のいったという表情で頷いた。
「あぁ、つまりそいつらは正規のルートで入店したってことだな。ならダンジョンに残るのは間違ってないぞ。というか、お前ら不法入店じゃなくて巻き込まれ型か……」
「話の筋がまったく見えないでち」
「どこから説明したもんかなぁ……お前ら、ここがどこか知りたがってたな? とりあえずそこから教えてやる」
スズキはホコリの舞う室内を歩く。そして壁にかかっていたカーテンに手をかけると、勢いよく開いた。
薄暗闇の室内に眩しい光が差し込んだ。随分と懐かしい陽の光。日光を浴びたのは何日ぶりだろうか。
ダンジョン内の明かりとは明らかに違う強い光に目がくらむ。どうやらスズキは外の様子を俺たちに見せたいようだが、目を開けるのに少し時間がかかってしまう。
「人間世界とは別の場所。魔族が統治する世界。東部地域からさらに東に渡った世界の果てに────お前らが今居る【魔の国】はあるのさ」
説明を聞き、目を開く。
窓の外には巨大な建造物。中央とは違うのは、それらがどこかで見たことのあるようなコンクリートジャングルであることだった。
コンクリートで出来たビルが立ち並ぶ姿は、多種多様な魔族が闊歩していなければ日本だと見間違えるような近代的なもの。時々ビルの隙間から見える巨大なドラゴンや巨人なども、整然と間を縫って歩いている。
随分と時間がかかってしまったが、ここでようやく俺は理解した。
どうやら俺たちは────異世界へ来てしまったようである。
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