まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第十一章 まるでやらせな接待業

CASE81 ジュリアス・フロイライン その3

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 俺は魔の国の裏道を駆け抜ける。人間の国では見られることのないアスファルト塗装で走りやすいその道は、手入れが行き届いているのかゴミひとつ落ちていなかった。
 表通りを見て思っていたことだが、魔の国というのは日本のような現代国家と遜色のない文明レベルを誇っているらしい。
 通りを歩く魔族の容姿がなければ、ここが異世界であることを忘れてしまいそうな空間である。
 さて、話は戻ってなぜ俺が裏通りを走っているのか。

「助けてください! 追われているんです!!」

 と言う美少女の言葉から始まった逃走劇。迫る後方のエプロン姿の男達。
 俺は悩んだ。これは間違いなく厄介案件。ジュリアスに連れられて本を買いに行くだけでも相当な苦労なのに、これに加えて新イベントが発生してしまえば俺の身がもたないだろう。
 だから断ろう。「警察署ならこの先にありますよ」と言って難を逃れよう。俺はそう心に決めて口を開いた。

「はい喜んでー!!」
「サトー!?」

 今思えば、俺はかなり浮かれていたのだ。
 普通の召喚者のようなイベントが発生し、美少女の潤目が俺に向けられて、助けを求められていたのだ。これまで召喚者らしい約得イベントが無かった俺の人生からすれば、この出来事は青天の霹靂。
 これがジュリアスやパプカなどの既存残念娘達であれば、一瞥もくれずその場から逃走の案件だが、相手がまだ知らぬヒロインであれば話が別だ。
 俺だってなぁ! コーイチみたいに女の子にモテたいんだよ!! せめて人生のうち一回ぐらいのモテ期を期待したって良いじゃねぇか!!

「だから俺は…………この子……と、逃げることを…………決めたのだ!」
「さっきから何をブツブツ言ってるんだサトー! 重いから引きずられてないで走ってくれ!」

 そんな俺の今の状況。謎の美少女との逃走劇の中、体力が尽きてジュリアスに引きずられていた。

「この体たらくでよくこの子を助けようと思ったな!? むしろ足手まといだろこれ!」
「お、俺のことはおいていけ……」
「格好いいセリフだけど、だからなんで引き受けた!?」

 反論のしようのないジュリアスの言葉にうなだれる俺。
 とは言え、謎の美少女の逃走幇助はきちんと完遂した。裏路地を縦横無尽に駆け抜けて、盗賊ジョブのスキルである【逃走】が発動。
 気配を遮断し、逃走経路の障害物を崩して追手を妨害。見事裏路地から抜け出して高台の広場へとたどり着いた。

「うん、それ全部私がやったことだぞ、サトー」
「さすが盗賊の天才。良い働きであった」

 息を整え、ようやく落ち着いた一行。広場に到着するまで必死に走っていたため、話す暇もなかった謎の美少女がようやく口を開いた。

「いやぁ、ごめんね。変なことに巻き込んじゃって」
「気にしないでくれ。女の子を助けるのは男の努めだ」
「だから助けたのは私だと何度言えば……」
「あっはっは。そうだね、ジュリアスさん……だっけ? どうもありがとう。もちろんサトーくんもね。けど、随分体力がないようだけど、本当に召喚者なの?」

 俺は自分が召喚者と名乗った覚えはないのだが。

「だって獣人じゃないでしょ? なのに日本人の名前を名乗ってるってことは、転生タイプじゃない召喚者ってことだよ」
「ああ、なるほど」
「サトーって名前が聞こえたから、召喚者なら例外なく凄く強いでしょ? だから助けてくれるかもって思ったんだ」
「例外ですみません」

 実際彼女の認識で大概間違いではないのだが、残念ながら俺は数少ない例外なのである。

「あ、遅れたけど……私ミューズ。よろしくね」
「ところで、なんで追われてたんだ? 悪漢……と言う割には、身ぎれいなエプロン姿の集団だったけど」
「えーっと……色々あってね。実際あの人達は悪者ってわけじゃないんだけどねぇ」

 エプロンを着込んだ悪者というのは斬新だが、どうやら話はそう単純なものではない様子である。

「あっ! と言うか本!! サトー、新刊の販売までもう時間が無いぞ!!」
「そう言えばそれが目的で出かけてたんだったな。いい機会だ、諦めよう」
「淡白すぎる! どうしよう、無計画に逃げてたからここからじゃ本屋の場所が……ミューズ! この街の人間なんだろう? 本屋まで案内してくれないか!?」

 ジュリアスの必死過ぎる訴えに、なぜかミューズは体をこわばらせて目が泳ぎ、脂汗をかいていた。

「えー……うん。まあ、ねぇ。ジュリアスさん、ミナス・ハルバンの大冒険好きなんだ?」
「ああ! それはもう、給料を費やしてグッズを買い漁るくらいには!」
「もっと計画的に散財しろよ社会人」
「そ、そうなんだぁ。でもそのぅ……ここからだと本屋の場所は私も分からないかなぁ。むしろ近づきたくないって言うか……」

 なにかしどろもどろなミューズ。その口調から、本屋から遠ざかりたいという意思が見て取れた。
 思えば、彼女を追っていた奴らの服装。エプロン姿から飲食関係者かと思っていたが、もしかすると本屋の人間だったのではあるまいか。
 美少女が本屋の人間に追われる理由…………ダメだ、さっぱり見当がつかない。

「あ、そうだ! 実は私、ミナス・ハルバンの小説なら何冊か持ってるんだ。新刊もあるし、逃げるの手伝ってくれたお礼に二人にプレゼントするよ」
「ほ、本当か!? それは有り難…………ん? だが、なんで新刊まで持ってるんだ? 発売まではまだ一時間くらいはあるが……」
「ギクッ!」

 そんなマンガ表現を口に出して言わなくても。
 とはいえ、なにか口にできない裏の事情があるのだろう。ここからはじまる俺の異世界物語…………ダメだ、これもさっぱり予想がつかない。
 果たしてミューズを助けたのは正解だったのか。また新しい残念娘が登場しただけなのではあるまいか。
 そんなふうに天を見上げて息を吐くと、その息は上空から発生した突風によって舞い戻ってきた。

「ぶわっ!? なんだ!?」

 台風並みの風量が辺りを覆う。たまらず顔を伏せて身を守ると、急に周辺が影に飲まれた。

『ん? サトーとジュリアスではないか、なぜここに居るのだ?』
「…………メテオラ?」

 俺たちの頭上には、言わずと知れた異世界の最強格。天空の王者エンシェントブラックドラゴン────メテオラがホバリングしていた。

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