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第十一章 まるでやらせな接待業
番外編 ハーケンソード その1
しおりを挟む季節は春。暖かくもやや肌寒い程度の気候に、ガヤガヤと賑やかな声が建物の中を響いて俺の耳に入ってくる。
建物というのは学校。リンシュの邸宅に世話になってからしばらくして、この春から俺が通うことになるギルド養成学校である。途中編入なので友だちができるか心配である。
王都に存在するその学校は広大な敷地を有しており、冒険者ギルド中央本部と隣接する学業施設だ。寮や食堂、図書館など。おおよそ生活に必要なものが詰め込まれており、学内だけで生活することも可能となっているそうだ。
とはいえ、俺はリンシュの邸宅から通うことになるのであまり関係のない話ではあるのだが。
「ところでリンシュ、なんでめかしこんでるんだ? デート?」
「はっ倒すわよアンタ」
俺の隣には普段の仕事服ではない、よそ行きの礼服に身を包んだリンシュの姿がある。
実は現在、入学手続きを終えた直後はリンシュに連れられて学内を歩いている。新しい学友たちからは、奇異の目と羨望の眼差し、そして「編入早々何をやらかしたんだこいつ」と言う哀れみの目で見られていた。
若くして冒険者ギルドの副本部長まで上り詰めているリンシュは、次期サブマスターと称されるほどの敏腕職員。たまに学校にやってきて講義を受け持っているため、中央における知名度は抜群の人間である。
おまけに見た目はスタイル抜群の超美人。外向けの柔和な姿勢と話し方は、それはそれは学生たちに人気のあるキャラクターを形成していた。
こいつの本性をかけらでも知らせてやりたいが、それをやると俺がひどい目にあってしまうのでやめておこう。
「それとここでは副本部長と呼んで敬語で話しなさい。一応アンタと私の繋がりは秘密にしてるんだから」
「はぁ……分かりました、副本部長」
「気の抜けた返事をしていられるのも今のうちよ。あの人の前でそんな態度が取れるか見ものね」
そんな事を言うリンシュの顔は、にこやかに生徒たちに手を振っているものの近くで見ればやや青ざめていた。
どんな人間でも分厚い面の皮で対応し、内心では何を考えているのかわからない、俺に対してはいつも女王様なリンシュがである。
これから会うという人は、彼女が恐れを抱くほどの重要人物────ギルドマスターである。
「しかし、副本部長がそれほど言うとは……やはり貴女でもお偉方相手では萎縮してしまうものなんですね」
「はぁ? あの人はそういうレベルじゃないのよ。どんなお偉方でもあの人の前では霞むわ。そもそも私は、相手がこの国の国王だろうと教会の教皇だろうと、目の前で中指を突き立てる度胸があるわ」
本当にやりそうだなこの女。
「結局どんな人なんですか、ギルマスっていうのは。入学手続きが終わった直後に連れてこられて、状況がよく飲み込めていないのですが」
「ぬ…………確かに、事前に説明はしておいたほうが良いわね」
リンシュはピタリと足を止め、中庭のベンチへと腰を下ろして俺に座ることを許可しなかった。
そう、俺たち二人がなぜ校内を歩いているか。その理由がこれから会う人物、ギルドマスターにあったのだ。
若くして本部の副部長に任命されたリンシュは、その立場から様々な人脈を持っており、ギルマスもその一人。彼女の管理下にある俺は、挨拶回りをする義務のようなものが課せられているのだ。
本部長やその他の要人たちにはすでに挨拶を済ませているのだが、なぜか最も重要そうなギルマスは最後に回されている。俺としては心の準備をすることができるのでありがたい話なのだが、本当ならばいの一番に挨拶に出向かねば鳴らない人ではないかと思わなくもない。
「これから挨拶をするギルドマスターは────私の母よ」
「逃げていいですか?」
「駄目」
衝撃的すぎる新情報に脳みそが追いつかず、最初に出てきた言葉が逃亡を求めるものだった。
しかし……リンシュの母親? この女に母親が居たのか? いや、流石に居るか。でも、少なくとも彼女の邸宅で出会ったことはない。使用人すら雇おうとしないリンシュの家は、俺以外の人間の形跡が一つもないのである。
そもそもこの女の母親という時点でまともじゃない。恐ろしいドS女は彼女一人で事が足りている。
しかもそれがギルドマスター? おのれ召喚者め! スタートの時点でチートレベルの人脈はずるいだろうが!!
「人脈だけで言えばアンタも相当恵まれてると思うけど」
声に出ていたようだった、恥ずかしい。
「母と言っても義理だけどね。召喚されたあと引き取られて、ハーケンソード家の庇護下に入ったの」
「え? でもハーケンソード家ってもとは没落貴族じゃなかったっけ? ギルマスが居ながらなんで?」
「そもそも家柄に固執する人じゃないのよあの人は。元々男爵の位を持ってたんだけど没落気味で、当時の当主であった母も放蕩して好き勝手やってたくらいだから。私が立て直すまではそこらの農家の人間のほうがまともなご飯食べてたぐらいよ」
「そう言えばギルドマスターって名誉職に近いんだったか。あんまりお金は入ってこないんだなぁ」
冒険者ギルドにおいては、実務のトップは三人のサブギルドマスターが請け負っている。あまりに仕事量が多いので、一人のギルマスに集中しすぎてもさばききれないからだ。
そのため、ギルドマスターという地位は先程言った通り名誉職に近く、式典の際の挨拶や他のギルドとの会合などが仕事の大半を占めるらしい。
よって、給料も貴族としてはお小遣い程度の名誉職というわけだ。
「というか、母親ということは役職とか関係なく本当に一番に挨拶に行かないといけない人じゃないですか? 居候の身の上としては」
「まあね。でも…………苦手なのよ、あの人」
この女に苦手な人間が居るとは最上級の驚きである。
「ギルマスである私の母は、その昔勇者とともに冒険に出ていた人でね。その実力は勇者をはるか凌駕すると言われているわ」
「化け物じゃないですか。と言うかその場合そっちが勇者なのでは……」
「一応ジョブがぜんぜん違うものだから、形式上は勇者じゃないわ。で、そのジョブが問題なのだけど……」
様々なスキルと補正、召喚車が持つようなチート要素を詰め込んでいるジョブである勇者を凌駕する。そんなジョブが存在するとは思えないが……
「テイマーなの」
「…………え?」
【テイマー】
様々な生き物を従えて戦う後衛職である。
それ自体は決して珍しいものではなく、自らが契約したモンスターを戦わせるためその人のステータス自体は非常に低い。
正直なところ、前フリが必要であるほどのインパクトは無いジョブだ。
「テイマーって、上級職が無いジョブですよね? モンスターの格によっては、たしかに上級職並みの働きは出来ますが……」
「それがあるのよ。彼女の持つのは、ユニークジョブとして発現したこの世で唯一のジョブ────神使い」
「────神様に複数形って無いんじゃないでしたっけ?」
「そういうまともなツッコミはいらないわ」
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