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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE85 ルーン・ストーリスト その1
しおりを挟む「いやぁ……どうするかなぁ……」
俺はマオーが用意してくれたホテルに帰る最中、頭を抱えて悩みこんでいた。
悩みの原因はもちろん分かり切っている。なぜか諸悪の根源として認定されてしまい、命の危機にさらされている現状があるからだ。
俺に落ち度なんてないはずなのに、なんで抹殺対象に指定されなければならないのか。
「あんまり悩みすぎると早々に禿げるでちよ、サトー」
「なんでお前はいつも俺の頭皮の心配をするんだ」
俺の心労などお構いなしに、パプカは道中買ったクレープを口いっぱいにほおばっている。
「つーかそんな他人事で良いのか? 魔族の奴らがリール村に押し寄せてくるかもしれないんだぞ? お前の拠点でもあるだろうが」
「私は冒険者でちから。ピンチになったら速攻で逃亡でち。自由度の高さが冒険者の良いところでちよねぇ」
「いや冒険者ならちゃんと戦えよ」
こいつには冒険者の義務と言うものについて講義を受けさせる必要がありそうだ。
とはいえ、今あれこれと悩んでいても仕方がない。ひとまず有事の際はゴルフリートのオッサンをけしかけつつ、逃げるルートの策定だけしておくことにしよう。
「人の父親をおとりにしないでください。まああの人ならむしろ喜んで戦いに行きそうでちが」
「これぞ利害の一致という奴だ」
「たぶん違うと思うでち」
そうこうしているうちに俺たちはホテルへとたどり着いた。
思えば今日はなかなか濃い一日だった。
ジュリアスに連れ出されて図書街をひた走り、逃げた先でパプカと共に自分への抹殺談話に耳を傾ける。
魔の国に来たというのに、結局つるむのはいつものメンバーであった。
日も暮れ始めた夕方。
そういえば昼から何も食べていないことに気が付いた俺は、パプカと共にホテルの食堂へと向かった。
「しかし……凄いでちね、魔の国の食糧事情。ホテルの中に街があるみたいでち」
「つーか完全にフードコートなんだよなぁ。俺たちの国よりもずっと召喚者の影響を受けてるな」
街の様相からして完全に現代国家日本。
文明レベルは俺たちの住む国よりも数段進んでいる魔の国は、国力と言う観点から見ても比較にならない発展具合であった。
フードコートと表現した食堂には、M印のバーガー店とか、白髭おじさんのフライドチキン店とか。著作権的にヤバそうなラインナップが並んでいた。
「懐かしい……と言えば、懐かしいのかなぁ……」
「なんでチキンを前に遠い目を……」
これは召喚者にしかわからない感覚なのだろう。つーかやりたい放題だな過去の召喚者。今更だけど。
「とりあえずご飯にしましょう。さすがにおなかがすいたでち」
「お前さっきクレープ食べてたよな……? まあいいか。今日は何にしようかな…………ん?」
派手な看板の群れから外れ、座席の隅にちらりと見えるクリーム色の髪。
机に突っ伏してなおその存在感を失わない我らが女神。ルーン・ストーリストがそこにいた。
「しくしくしくしく……」
「なんか……泣いてまちね」
「どうしたルーン! 何か悩み事か! 泣きたいなら俺の胸の中で泣け!!」
「早っ!? ちょっとサトー! いつも思いますがルーンの時だけ態度が違いすぎるでちよ!! わたちやジュリアスなら絶対スルーするでしょう!」
「うん」
「即答!?」
そもそもルーンとほかの人類を一緒にすることが論外であり、パプカやジュリアスだからという訳ではない。ルーンが特別すぎるだけなのだ。
「さあルーン! 俺の胸を貸すから存分に泣け!!」
「いえ、あの……ご遠慮します」
俺のテンションに対して、泣いていたルーンは一転して冷静になった。
「おお、よしよし。サトーのような変態が近づいて怖かったんでちね。気持ちはわかりますよ」
「俺が近づく前には泣いてただろ!」
「ああ、はい。サトーさんが原因という訳では…………うっ」
ルーンは再び瞳に涙をためた。
正直その表情を見るだけで保護欲がかきたてられてしょうがないが、そういった場面ではないだろう。
「真面目な話どうしたんだ? 俺で良かったら相談に乗るぞ?」
「…………実は」
「実は?」
「マオーさんの計らいで検査を受けたんですが──男に戻れるのは早くても一か月後だという結果が出まして……」
「「よし、解散」」
「なんで!?」
だって、ルーンの性別が男であろうが女であろうがどちらでもなかろうが関係ないからな。ルーンはルーンであるだけで価値があり、ルーンであることが重要なのだから……あれ、なんか意味わかんなくなってきた。
「何を泣いてるのかと思えば……ちゃんと戻れるのでち? だったらそこまで嘆く必要はないでしょうに」
「この悲しみは……実際に体験してみないとわかりません」
「いや、ここは前向きに考えよう。この状態なら俺はルーンと婚姻を結んでも問題ないわけだしな。よし、今すぐ教会に行こう」
「とりあえずサトーにはディスペル一発やっておくでち?」
後頭部をパプカに殴られた。
正気に戻った俺に、ルーンは涙を浮かべながらも真剣な顔つきで口を開く。
「サトーさん、よく考えてください。もしもサトーさんがこの瞬間、下のアレが無くなってしまったとします────どう思いますか?」
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「────え、何それ地獄じゃん」
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よくよく考えなおしてみれば、なんだその笑えない状況。
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仮定の話として脳内でその光景を想像しただけで、俺は少し泣きそうになったぞ。
ここにきてようやく、ルーンの葛藤を理解できて来た。俺は思わずルーンを抱きしめ、両者は悲しみの涙を流した。
「ルーン、お前……よくこれまで耐えてきたなぁ……っ!」
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「────チ〇コごときで何を騒いでいるのでちか」
そんな俺たちにパプカが水を差した。
「馬鹿野郎! これは男にしかわからない悲しみなんだ! お前は黙ってろ!!」
「はっ(嘲笑)。チ〇コなんて無くても死にはしませんよ。わたちを見てください。チ〇コが無くてもたくましく生きてます。生まれてこの方20年、チ〇コ無しに立派に育ちまちた。チ〇コのあるなしで──」
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