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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
CASE95 パンデミック④
しおりを挟むジュリアス・フロイライン。
冒険者にしてギルド職員の護衛者。剣を操り、ダンジョンをやすやすと踏破する。
日ごろからポンコツ扱いされていた彼女だったが、ある時能力が覚醒した。
振るう剣は天を裂き、放つ魔法は大地を割った。そう、まるでかの物語の主人公、ミナス・ハルバンの再来のようだった。
「まさかジュリアスと肩を並べて戦う日が来るとは思わなかったぜ!」
「ついに追い抜かれてしまいましたか。いえ、わたしはジュリアスならいつかこういう日が来ると思っていましたよ」
「どうやら俺の目は節穴だったようだな。これまで悪かった……そしておめでとう剣聖!!」
村の仲間たちからの温かい声援。かつては遥か高みに仰ぎ見るだけだった彼らが、横に並んで戦ってくれている。
何かと世話を焼いてくれたギルドの職員たちからは、時折鼻をすするような音すら聞こえてきた。
夢見た頂。ジュリアスは今そこにいる。無謀だと言われていた剣聖となり、これから彼女は世界を救う活躍をすることだろう。
数々の冒険。数々の英雄譚。ジュリアス・フロイラインと言う名は、やがて現行の勇者サンドリアスと並ぶまでとなっていった。
そして彼女は世界の真相を一つ知る。
ミナス・ハルバンの大冒険。彼女が愛してやまない長編小説。その主役であるミナス・ハルバンは実在していたのだ。
はるか遠く、世界の果てで戦い続ける彼を追いかけ、ジュリアス・フロイラインはついにたどり着いた。
「ああ……本当にミナス・ハルバンなのか? 作者のミューズさんの話を聞いてモデルが居たのだろうとは思っていたが、本物なのか?」
ミナス・ハルバンは答えない。しかし、その背中から放たれる覇気は尋常なものではない。言葉すら要らず、彼こそが本物であると告げていた。
「わ、私は貴方に憧れて冒険者になったんだ! 子供の頃、本の中にいる貴方に会いたくて……是非一緒に冒険を────」
『え~? 拙者に会いに来てくれたでござるかぁ? 照れるでござるよぉ姫ぇ!』
「ぎゃあああああああっ!?」
「ぶあああああああぁっ!?」
ベットから起き上がったジュリアスは、俺の顔面へと右ストレートを放った。
* * *
風邪を引いた連中の見舞いに回っていた俺は、ギルドの宿舎を最後の目的地にしていた。
宿屋不足が解消されたリール村で、ギルドの宿舎を利用しているのはすでに片手で数えられるほど。そしてその最後を飾るのは、村一番のポンコツ冒険者ジュリアスである。
男が同年代の女性の私室に入るのいかがなものか? などと考えてたのだが、扉越しに聞こえるほどのジュリアスの悲鳴に仰天し、彼女が横たわるベットへ駆けつけたところで顔面にパンチを喰らわされたのだ。
「クソッ! 心配して駆けつけたのに、なんて目にあわせやがる!!」
「いやぁ悪い。途中までは楽しい夢が、最後の最後に悪夢に変わってしまったんだ」
「寝ぼけた結果かよ。いきなりグーパンって、どんだけ嫌な夢だったんだ?」
「具体的には思い出せないんだが、とにかく身が震えるほどの悪夢だ。思い出そうとするだけで非常に不快な気分になる」
一体どんな夢を見ればそれほどの気分になると言うのか。
まあ、意識が無かったジュリアスをこれ以上責めても仕方がない。
口の中が血の味しかしなくとも、そもそも彼女は病人なのだ、多少は優しくしておくべきだろう。
「とりあえず風邪の方は大丈夫そうだな」
「体はだるいが、熱もそれほど高くなさそうだし、後は風邪薬を飲んで寝ていれば治るだろう」
「なら俺の仕事もこれで終わりだな。一日中村を回ってたから流石に疲れたぜ」
部屋の椅子にドカリと座り、全身の力を抜くと、一気に一日の疲れが押し寄せてきた。
そして同時に、腹の音がなったことで食事をとっていなかったことに気が付いた。
「腹減ったなぁ……あ、そうだ。食事と言えば、飯を食べてからじゃないと風邪薬飲むなってドクターが言ってたんだが、食欲はあるか?」
「ああ、ずいぶん長く寝ていたから腹は空いてるかな」
「じゃあ備蓄の食糧でも食べてから薬を飲めよ。俺も帰って飯とするか」
「えーっと…………すまないサトー。ウチには備蓄食力なんてものは無いんだが……」
部屋を見渡してみれば、本の山はあれど生活に必要な物資がまるでない。
女と言えど、冒険者に対してもっと色気のある部屋にしろとは言わないが、もう少し金の使い道を考えた方が良いのではあるまいか。
「あー……しょうがねぇな。ついでだし、俺の分も飯作っちまうか」
「え、サトーが? それは凄い。料理が出来るとは知らなかったぞ」
「いや出来ねぇよ。でもまあ、アグニスが使ってるギルドのキッチンなら何か作れるだろ」
冒険者ギルドには酒場が併設されているので、当然ながらキッチンもかなり大掛かりなものが備え付けられている。
冒険者たちは備蓄品で食事を済ませることもあるが、大抵はこの酒場に飯を食べに来るのだ。
休みとはいえ、野菜や干し肉などの素材もあるだろうし、それを使えば簡単な料理くらいは出来そうだ。
早速俺とジュリアスは酒場へと向かう。ジュリアスには出来上がったら持っていくから寝てろと言ったのだが、俺が料理しているところを見てみたいと言うことでついてきた。物好きな奴である。
魔法のコンロへと火をつけて、材料を見渡した。野菜と肉があるので、栄養のことも考えてシチューでも作ってみようと思い立つ。
本格的に作るとなれば違うだろうが、基本的には食材を切って煮込むだけだろうから簡単だろう。
俺はルーンの手伝いで習得した包丁さばきで野菜と肉を切り、水を入れた鍋で煮込みつつ、どう考えても召喚者が作り上げたのであろうシチューのルーを入れてさらに煮込む。
「よし出来た!」
「おおっ! これは…………なんだ?」
「何言ってんだ、これは…………なんだろう?」
出来上がったのは、平皿に乗せられた黒い謎の塊であった。
「いや待てサトー。作っていたのはシチューだったはずだ。見ていた私が言うんだから間違いない」
「俺もそのつもりで作ったんだが」
「ならなぜこんな水気の無い謎の固形物が出来上がるんだ? そもそも料理を始めてから5分と経っていないんだが、シチューが出来上がる時間にしても短すぎる」
二人そろって頭をかしげる。
そう言えば、かつてリンシュの家に住んでいた時、節約のためと自炊を申し出たのだが、リンシュによって強硬に退けられた記憶がある。リール村での生活も、下ごしらえ以外の作業をルーンになぜか禁じられているのだ。
「……すまないが、もう一度シチューを作ってもらって良いか? 今度はゆっくり丁寧に作ってみてほしい」
「分かった。手順を追いながら丁寧にだな──出来た!」
「早っ!? そしてまたコレか!?」
今度は3分と経たずに出来上がった黒い物体。カップ麺よりもお手軽である。
「この謎の物体の正体は分からないが分かったことがある。サトー! お前料理下手だな!?」
「ぐぅっ!? う、薄々気がついてはいたが……やっぱり?」
「と言うか、もはや才能だろう。料理が下手とか言う次元じゃないぞコレ」
俺たちは目の前に出来上がった二つの物体を目の前にして、さすがにコレを食べる勇気はなかった。
「はぁ……仕方がない。私が作るから、サトーは座って待ってろ」
「えっ!? そんなことしたら食中毒被害が出るんじゃ!?」
「お? 喧嘩なら買うぞ? と言うか、少なくともサトーにだけは言われたくない」
確かに、黒い物体を指さしながら言われてしまうと、俺に反論できる余地はなかった。
ジュリアスは俺を黙らせると、さっそく料理に取り掛かる。どうやら俺と同じ(?)シチューを作るようだった。
不安に胸を締め付けながら見ていると、意外なことにジュリアスの手つきは非常にスムーズだ。野菜は均等に切られ、肉の処理も完璧。丁寧に灰汁を取って、器に盛られたシチューは食欲をそそる香りを漂わせていた。
「…………美味っ!?」
「ふふん、どうだ? 実は私の密かな特技は料理なんだ。ルーンの料理を食べたこともあるが、それにも負けないぐらいの味だろう?」
確かに、この味はルーンの料理に負けず劣らず……いや、極めて遺憾ながらそれに勝る味であった。何なら中央の料理屋でも、これ以上の味を出せる店はそうないだろう。
「お前、冒険者じゃなくて料理屋になれば良いんじゃ……」
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「いや、でも本当にそのくらい美味いぞこれ。どこで覚えたんだ?」
「子供の頃、家庭教師を大量につけられてな。その中に超一流の料理人がいたんだ」
家庭教師を大量に? 一般家庭では家庭教師を一人付けるだけでも負担だろうに、この言い方は何だろう?
「お前、もしかして相当いいとこの家柄なんじゃ……」
「おおっと!! 早く食べてしまわないとシチューが冷めてしまうな! 話はやめて食事としよう!!」
話をぶった切られてしまった。
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