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第二章 まるで中二な異世界人
CASE9 ジュリアス・フロイライン② その2
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「私は盗賊になる」
昨夜まで剣聖になりたいだの何だの言っていたポンコツ冒険者が、何かおかしなことを言っている。
盗賊にはなりたくないと言っていたはずではないのか? なんだっけ、盗賊のあり方が剣士のそれと相反するとかなんとか。
そんな彼女が一夜にしてこの有り様。
一体何があったのか? いや興味はないが、仕事上一応聞いておかなければならないのだろう。
「えーっと、昨日までは剣聖になりたいと言っていたと思うのですが……どういう心境の変化で?」
「私は気づいたんだ……盗賊と言うジョブの在り方は、その人間に左右されるのだと! 信念さえ持っていれば、それは義賊になりうるのだと!!」
椅子を倒す勢いで立ち上がったジュリアスは、まるで演劇役者のように立ち居振る舞った。
「す、勧めていた自分が言うのはおかしいかもしれませんが……少し安直なのでは? もう少し深く考えてからでも遅くは……」
「甘い! 甘いぞサトー! 私が賊になることで救える者がいるならば、私は今すぐにでも盗賊になるべきだ!」
どうしよう、違和感しか無い。
いや、さっきも言った通り、ジュリアスが盗賊になることを望んでいたのは俺だ。中央からせっつかれ、上司からは無能のレッテルを貼られる日々。
おまけに彼女が盗賊になるならば、毎日やってくる不毛な時間は今後なくなることだろう。
しかし、しかしだ! 俺はこいつになんの期待もしていない!
自発的に盗賊にジョブチェンジする? いやいや、こいつがそんな不自然な行動を取るとは思えない。一夜で考えが変わるなど、天変地異の前触れであると言われてもまだ足りない。
……まさか、偽物? そっちのほうがよほど説得力がある。ここまで本人に似せているとなると……ドッペルゲンガーか! そんな高位の悪魔が出張ってくるとなると、魔王軍の襲撃!?
「おのれ悪魔め!! 正体を現せ!! あのポンコツがそんな殊勝なことを言うわけねぇだろうが!!」
「どう言う意味だァ!!」
殴られた。ポンコツという言葉に過剰反応するあたり、こいつは本物のようだ。
「あ、ジュリアスさん。今日は珍しいですね。いつもは朝早く来られるのに、今日はもうお昼すぎですよ?」
事務室からルーンが出てきてジュリアスに挨拶をした。
すると、ジュリアスの様子が一変。満面の笑みを浮かべ、ルーンのもとへと駆け寄った。
「ルーン、聞いてくれ! 出たんだ! ついに出たんだ”アレ”が!!」
「”アレ”……ですか?」
「ああ! 早速だが聞いてくれ! と言うか見てくれ! ついに出たんだ”新刊”が!!」
「わあ! 本当ですか!?」
「……新刊?」
腰に下げたポーチを開き、ジュリアスが取り出したのは一冊の本。
「もう何年も新作は出てなかったのに……噂は本当だったんですね!」
「ああ。中央では相当話題になっているらしい。私も中央の知り合いから知らされて、早速送ってもらったんだ。中央以外ではまだ出回ってないそうだ」
珍しく浮かれているルーンを尻目に、俺は困惑の表情を浮かべた。
ジュリアスとルーンが楽しそうに談笑している場に近づき、それとなく尋ねてみる。
「あの……お二人は何をそんなに楽しそうにしているのですか?」
「サトーも読んでみるか? 興味があるなら布教用の一冊を貸してやろう」
ジュリアスから渡された本を見る。かっこいいイラストが表紙を飾るその本のタイトルは。
『ミナス・ハルバンの大冒険~義賊編~』
…………ん? 俺はこのタイトルに違和感を覚えた。
「これ……なんですか?」
「なにって、ミナス・ハルバンの大冒険シリーズの新刊だ…………え? ま、まさかサトー、知らないのか?」
「そんな! ミナス・ハルバンの大冒険は全世界の子どもたちに愛されている、長編小説なんですよ?」
「る、ルーンまでなんだよ…………良いですかジュリアスさん。私は召喚者ですよ? 子供の頃はこの世界にいなかったのですから、知らなくても仕方がないでしょう」
俺の言葉を聞くと、ジュリアスとルーンは互いに見つめ合い、意を決したように頷いてこちらを見た。
「なら是非! 是非読んでみてくださいサトーさん!!」
「そうだぞサトー! ミナス・ハルバンの大冒険を読んでいないなんて、人生の半分を損しているようなものだ!!」
か、顔が近い……
間違いなく美女のジュリアスと、性別は男でも美少女なルーンが俺の顔面に迫ってきている。流石に目のやり場に困る。
「ここ数十年新作が出ていなかったシリーズの待望の新刊なんだ。昨日の夜部屋に届けられているのに気がついて、一晩かけて読み明かしてしまったんだ」
「で? で? どうでした、新刊の感想は?」
「ふっふっふ……ルーン。それは読んでから語り合うことにしよう。ただひとつだけ言えることは…………私は人生観がガラリと変わってしまったということかな」
ふぅ……と息を漏らし、どこか遠くを見つめるジュリアス。
多分ファン同士なら通じる感性なのだろうが、いかんせん俺は部外者。興奮しているところ悪いが、俺にはさっぱり二人が言っていることが理解できない。
ページを捲り、プロローグ部分を少し読んでみた。
『私の名はミナス・ハルバン。聖剣に選ばれし剣聖だ。度重なる苦難を乗り越え、仲間との出会いと別れ。そうして辿り着いた先に、私を待っていたのは……悪ではなかった。そこにあったのは、ただの現実。困窮する民たちと、それを虐げる為政者の姿だった。いくら名声を得ようとも、いくら強くあろうとも。彼らに私がしてやることは何もない。ならば私は、位を捨ててでも彼らを救おう。私が賊になることで救える者がいるならば、私は今すぐにでも盗賊になるべきだ』
…………うん? 先程からどうにも違和感が拭えない。
このプロローグには何か既視感のようなものを覚えてしまう。なんだろう……すごく見に覚えのある情報が載っている気がするのだ。
「ちなみにサトー! 私のこの口調も、ミナス・アルバンを真似たものなんだ! どうだ、かっこいいだろう?」
違和感の正体見たり。
「ジュリアスさん。もしかして、ミナス・アルバンと言う登場人物は剣聖なんですか?」
「そうだ!」
「最新刊で、盗賊にジョブチェンジしたとか?」
「そうだ!」
「……昨日まで剣聖になりたいと言っていたのに、今日になって盗賊になると言い出したのは、小説の影響ですか?」
「全くもってそのとおりだ! よくわかったなサトー!」
……この女駄目だ!!
これまでの俺の胃薬との日々は何だったんだろう。
こいつの信念がどうとか、夢がどうとかの話ではなかったのだ。小説に左右されるような薄っぺらな志望動機。
ここが会社の面接状ならば、一発で退場願う動機だろう。
普段エクスカリバーのことをオタクだなんだと文句をたれていたが、今の話を聞けばジュリアスだって相当なオタクじゃねぇか。
「も、もうなんでも良いです。ジョブチェンジに必要な書類は中央に申請しておきますので、後日改めて来てください」
まあ、ジュリアスの動機がどれだけポンコツであろうとも、今後剣聖になりたいなどという無理難題を相談しには来ないだろう。
俺の胃薬消費量と、仕事効率が劇的に変わるだけでも非常にありがたい。
深く考えないでとっととジョブチェンジさせてしまおう。
「まあ待てサトー。この小説を読んだことのないお前のために、私が『ミナス・アルバンの大冒険』の良さを余すこと無く説明してやろうじゃないか。今から!」
「はぁ……………はぁ!?」
「本当はルーンとも語りたいのだが、ルーンには新刊を読んでもらってからじっくりと話そうと思う。だから今はサトーだ! さあ、じっくり説明してやるぞ。な~に、10時間もあれば全体の半分くらいは理解できるようにしてやる。そうだ! 家に全巻揃ってるから貸してやろう! 全部で342巻あるから、一日十冊も読めばすぐに追いつく!
「ば、馬鹿やめろ! せっかくお前から開放されると思ったのに、これじゃ変わらないどころか悪化してるじゃないか! 一日に十冊ってどんな狂気だよ! 睡眠時間なくなるわ!」
「大丈夫だサトー! 人は数日眠らなくても死なない!!」
怖いよ!
「ひとまずミナスのバックボーンから教えてやろう。これならネタバレにもならないから安心だな!」
「もういっそ殺せ!!」
その日からジュリアスによる小説講座が始まり、俺の勤務時間の半分を占領することになったのであった。
昨夜まで剣聖になりたいだの何だの言っていたポンコツ冒険者が、何かおかしなことを言っている。
盗賊にはなりたくないと言っていたはずではないのか? なんだっけ、盗賊のあり方が剣士のそれと相反するとかなんとか。
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どうしよう、違和感しか無い。
いや、さっきも言った通り、ジュリアスが盗賊になることを望んでいたのは俺だ。中央からせっつかれ、上司からは無能のレッテルを貼られる日々。
おまけに彼女が盗賊になるならば、毎日やってくる不毛な時間は今後なくなることだろう。
しかし、しかしだ! 俺はこいつになんの期待もしていない!
自発的に盗賊にジョブチェンジする? いやいや、こいつがそんな不自然な行動を取るとは思えない。一夜で考えが変わるなど、天変地異の前触れであると言われてもまだ足りない。
……まさか、偽物? そっちのほうがよほど説得力がある。ここまで本人に似せているとなると……ドッペルゲンガーか! そんな高位の悪魔が出張ってくるとなると、魔王軍の襲撃!?
「おのれ悪魔め!! 正体を現せ!! あのポンコツがそんな殊勝なことを言うわけねぇだろうが!!」
「どう言う意味だァ!!」
殴られた。ポンコツという言葉に過剰反応するあたり、こいつは本物のようだ。
「あ、ジュリアスさん。今日は珍しいですね。いつもは朝早く来られるのに、今日はもうお昼すぎですよ?」
事務室からルーンが出てきてジュリアスに挨拶をした。
すると、ジュリアスの様子が一変。満面の笑みを浮かべ、ルーンのもとへと駆け寄った。
「ルーン、聞いてくれ! 出たんだ! ついに出たんだ”アレ”が!!」
「”アレ”……ですか?」
「ああ! 早速だが聞いてくれ! と言うか見てくれ! ついに出たんだ”新刊”が!!」
「わあ! 本当ですか!?」
「……新刊?」
腰に下げたポーチを開き、ジュリアスが取り出したのは一冊の本。
「もう何年も新作は出てなかったのに……噂は本当だったんですね!」
「ああ。中央では相当話題になっているらしい。私も中央の知り合いから知らされて、早速送ってもらったんだ。中央以外ではまだ出回ってないそうだ」
珍しく浮かれているルーンを尻目に、俺は困惑の表情を浮かべた。
ジュリアスとルーンが楽しそうに談笑している場に近づき、それとなく尋ねてみる。
「あの……お二人は何をそんなに楽しそうにしているのですか?」
「サトーも読んでみるか? 興味があるなら布教用の一冊を貸してやろう」
ジュリアスから渡された本を見る。かっこいいイラストが表紙を飾るその本のタイトルは。
『ミナス・ハルバンの大冒険~義賊編~』
…………ん? 俺はこのタイトルに違和感を覚えた。
「これ……なんですか?」
「なにって、ミナス・ハルバンの大冒険シリーズの新刊だ…………え? ま、まさかサトー、知らないのか?」
「そんな! ミナス・ハルバンの大冒険は全世界の子どもたちに愛されている、長編小説なんですよ?」
「る、ルーンまでなんだよ…………良いですかジュリアスさん。私は召喚者ですよ? 子供の頃はこの世界にいなかったのですから、知らなくても仕方がないでしょう」
俺の言葉を聞くと、ジュリアスとルーンは互いに見つめ合い、意を決したように頷いてこちらを見た。
「なら是非! 是非読んでみてくださいサトーさん!!」
「そうだぞサトー! ミナス・ハルバンの大冒険を読んでいないなんて、人生の半分を損しているようなものだ!!」
か、顔が近い……
間違いなく美女のジュリアスと、性別は男でも美少女なルーンが俺の顔面に迫ってきている。流石に目のやり場に困る。
「ここ数十年新作が出ていなかったシリーズの待望の新刊なんだ。昨日の夜部屋に届けられているのに気がついて、一晩かけて読み明かしてしまったんだ」
「で? で? どうでした、新刊の感想は?」
「ふっふっふ……ルーン。それは読んでから語り合うことにしよう。ただひとつだけ言えることは…………私は人生観がガラリと変わってしまったということかな」
ふぅ……と息を漏らし、どこか遠くを見つめるジュリアス。
多分ファン同士なら通じる感性なのだろうが、いかんせん俺は部外者。興奮しているところ悪いが、俺にはさっぱり二人が言っていることが理解できない。
ページを捲り、プロローグ部分を少し読んでみた。
『私の名はミナス・ハルバン。聖剣に選ばれし剣聖だ。度重なる苦難を乗り越え、仲間との出会いと別れ。そうして辿り着いた先に、私を待っていたのは……悪ではなかった。そこにあったのは、ただの現実。困窮する民たちと、それを虐げる為政者の姿だった。いくら名声を得ようとも、いくら強くあろうとも。彼らに私がしてやることは何もない。ならば私は、位を捨ててでも彼らを救おう。私が賊になることで救える者がいるならば、私は今すぐにでも盗賊になるべきだ』
…………うん? 先程からどうにも違和感が拭えない。
このプロローグには何か既視感のようなものを覚えてしまう。なんだろう……すごく見に覚えのある情報が載っている気がするのだ。
「ちなみにサトー! 私のこの口調も、ミナス・アルバンを真似たものなんだ! どうだ、かっこいいだろう?」
違和感の正体見たり。
「ジュリアスさん。もしかして、ミナス・アルバンと言う登場人物は剣聖なんですか?」
「そうだ!」
「最新刊で、盗賊にジョブチェンジしたとか?」
「そうだ!」
「……昨日まで剣聖になりたいと言っていたのに、今日になって盗賊になると言い出したのは、小説の影響ですか?」
「全くもってそのとおりだ! よくわかったなサトー!」
……この女駄目だ!!
これまでの俺の胃薬との日々は何だったんだろう。
こいつの信念がどうとか、夢がどうとかの話ではなかったのだ。小説に左右されるような薄っぺらな志望動機。
ここが会社の面接状ならば、一発で退場願う動機だろう。
普段エクスカリバーのことをオタクだなんだと文句をたれていたが、今の話を聞けばジュリアスだって相当なオタクじゃねぇか。
「も、もうなんでも良いです。ジョブチェンジに必要な書類は中央に申請しておきますので、後日改めて来てください」
まあ、ジュリアスの動機がどれだけポンコツであろうとも、今後剣聖になりたいなどという無理難題を相談しには来ないだろう。
俺の胃薬消費量と、仕事効率が劇的に変わるだけでも非常にありがたい。
深く考えないでとっととジョブチェンジさせてしまおう。
「まあ待てサトー。この小説を読んだことのないお前のために、私が『ミナス・アルバンの大冒険』の良さを余すこと無く説明してやろうじゃないか。今から!」
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「本当はルーンとも語りたいのだが、ルーンには新刊を読んでもらってからじっくりと話そうと思う。だから今はサトーだ! さあ、じっくり説明してやるぞ。な~に、10時間もあれば全体の半分くらいは理解できるようにしてやる。そうだ! 家に全巻揃ってるから貸してやろう! 全部で342巻あるから、一日十冊も読めばすぐに追いつく!
「ば、馬鹿やめろ! せっかくお前から開放されると思ったのに、これじゃ変わらないどころか悪化してるじゃないか! 一日に十冊ってどんな狂気だよ! 睡眠時間なくなるわ!」
「大丈夫だサトー! 人は数日眠らなくても死なない!!」
怖いよ!
「ひとまずミナスのバックボーンから教えてやろう。これならネタバレにもならないから安心だな!」
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