まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第十三章 まるでカオスな視察団

CASE100 怪盗テュラン

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「あぁ……処刑台の階段を登ってる気分だ……」

 ほぼ何もできなかったリハーサルを経て、俺はヒューズサブマスが待つホテルへと向っていた。
 当然気分は重く、一歩ごとにバックレてやろうかなという悪魔のささやきが耳をくすぐっている。
 これからヒューズの突き刺すような視線にさらされるのかと思うと、胃がキリキリと痛み始めた。せめてその原因が分かれば、多少気が楽になるかもしれないのだが、分からないというだけで相当なストレスである。

「全然身に覚えが無いんだよなぁ。書類不備とかならもっと直接言ってくるだろうし……」

 それに、ルーンが言っていたヒューズの性格についても気になる。
 前評判にしても、非常に温厚な人であるにもかかわらず、あれほど怒気を纏わせるとは本当に何事なんだろうか。
 しかしまあ、いくら考えたところで答えは出ない。結局は出たとこ勝負しか無いのである。
 ヒューズサブマスターがなんぼのもんじゃい! かかって来いやぁ!!


「サトーォォォッ!!」
「わぁ!? はいごめんなさい調子に乗りましたぁ!!」


 突然舞い込んだ俺の名を呼ぶ声。
 反射的に土下座してしまったが、どうにもこの声には聞き覚えがある。
 本来ならばここにはいないはずの女性。自らの意思で身を隠しているはずの、ジュリアス・フロイラインである。

「帰れ!!」
「開口一番退場勧告!?」

 正直今、彼女に関わっている余裕が無い。かなり早めに迎えに向かっているので、時間的余裕はあるのだが、俺の精神的な余裕が無い。
 こんなタイミングで彼女のポンコツに巻き込まれ、万が一にでも遅刻してしまったら俺の胃はお亡くなりになるだろう。

「いや、サトーのいつもの無礼発言は横に置いておこう。そんな事より、大変なんだサトー!! またあの方・・・が来てるんだ!!」
「あの方? 誰? というか、お前隠れてなくて良いのか? まあ視察団って聞いてたけど、来てるのヒューズサブマスだけだけど」
「うぐっ……そ、それはまあ問題なんだが……でも! あの方が来てるのは相当レアなんだ! 次いつ来るか分からない以上、リスクは許容するしかない!!」

 ジュリアスは基本言い出したら止まらない。そして、こういったテンションの時は大抵、ミナス・ハルバンの大冒険絡みの案件だ。
 とすれば、その関係者が現れたとみて良いだろう。

「…………ひょっとして、ミューズが来てるとか?」
「えっ!? 作者様が!? 作者様が来ているのか!? どこ情報だ!!」

 どうやら違うようである。
 という事は残る候補は後一人。俺は確信無くその名前を口に出した。

「…………怪盗テュラン?」



「我が名を呼んだかね青年!! 我が名こそ怪盗テュランである!!」
「呼んでねぇよ」


 
 と、呼んだわけでは無い犯罪者がホテルの屋上の縁にそびえ立っていた。
 
 怪盗テュラン。
 ここ最近東部地域の各地で目撃されている男。タキシードを黒いマントで包み込み、シルクハットとステッキで武装した謎の男。
 各地で赤い髪の女性を見かけては声をかけるという、謎の行動を取る不審者である。
 この地に訪れるのは二度目で、一度目はディーヴァの協力もあり捕縛間際まで行ったのだが、惜しくも取り逃がしてしまった輩だ。
 しかも今回は、その傍にもう一人の影があった。

「そして我が名こそは怪盗クーデリア!! テュランの相棒にして、この世の全てを手にする者!!」

 …………その影はまんまクーデリアさんだった。
 バニーガールのような際どい衣服を身に纏い、それを少しばかり隠すがごとくマントを翻す。
 気持ちばかりの変装要素なのか、目元は舞踏会で用いるような、テュランと同じ形のマスクを装着していた。
 …………でもやっぱりまんまクーデリアさんだった。

「何やってるんですか、クーデリアさん」
「ほっほっほ。何を言っているのか分かりませんわ。我が名は怪盗クーデリア! 貴方のおっしゃるクーデリアとは間違いなく別人!!」
「アンタが何言ってんですか」

 仮面をつけていようがいまいが、先ほど顔を合わせていた相手を見間違うことは出来ない。声もそのままだし、隠しているのが目元だけなので、台詞のテンションの割に無表情を続ける印象的な顔は忘れようが無い。
 というか名前がそのままなのだ。前に『怪盗』と付けただけで別人と言い張るのは無理があるだろう。

「ふむ、あの青年は何か思い違いをしているようであるな」
「そうだぞサトー!! その彼女は怪盗クーデリアだ!! 外伝作品だがテュランの初代相棒で、ファンの間では最も信頼されていたとされている女性だ!! テュランと同様実在していたとは!!」

 ジュリアスが俺の肩をガクガクと揺らしながら叫ぶ。
 どうやら本編には登場していないが、俺が読んでいない外伝作品では有名なキャラクターらしい。
 名前もクーデリアそのままらしく、中身がクーデリア・アインズバーグであるだけでキャラクターとしては出まかせでは無いのだろう。
 いや、正直そんなことはどうでも良いのだが。

「素晴らしい! 良い子のジュリアス様には後でサインを差し上げますわ!」
「やったぁぁぁぁぁああっ!!」
「うるさっ」

 感涙にむせび泣くジュリアスだが、それを鬱陶しく感じるくらい俺のテンションは低かった。
 そんな事よりも、なぜクーデリアさんが変装(?)してまで、変質者と行動を共にしているかという所に思考を割かなければならないだろう。
 「とうっ!!」と言う掛け声とともに降りてきた二人。どうやら考える間を与えてはくれないようである。

「で? 何してるんですかクー……怪盗クーデリアさん?」
「ほっほっほ。よくぞ聞いてくださいましたわね!」
「うむ!! では説明してくれよう!! 喰らうが良い!!」

 そう言って、近づいてきたテュランの手から放たれた一枚の紙。
 俺の脳天へ一直線のその紙は、明らかに俺に対する敵意を帯びていたが、フリスビーを追いかける犬がごとく空中キャッチしたジュリアスのオタク魂により事なきを得た。

「ふおおおおおぉぉぉっ!! こ、これがかの有名な『予告状』!! 凄い! 本物だ! 家宝にしよう!!」

 こいつ、小説関連グッズを全部家宝にする気ではあるまいな。

「あ、フロイライン。できれば、家宝にする前に内容を読み上げてもらえると……」
「はっ、そうだった! テュランの予告状に書いてある内容は意外な物が多くてな! 特に186巻での「ミナス・ハルバンの靴下」なんて、最後まで読むと涙腺崩壊の……」
「良いからはよ読め」

 オタク語りが止まらないジュリアスを制止し、早く本題に入れと命令。
 興奮冷めやらないジュリアスは照れくさそうにその紙をめくり上げた。

「ええと、今回の予告状は────ん?」

 文字を読み終えたジュリアス。先ほどまでのニヤケた表情が急に凝り固まり、なぜか内容を読み上げるのを止めてしまった。

「理解したようだな!! ではまた会おうフロイライン! サトー青年!!」
「おーっほっほっほっほ!」

 ジュリアスの表情に満足したのか、テュランとクーデリアはマントを翻し、そこから出てきた大量の薔薇の花びらに隠れて退場した。
 何の事やらさっぱり理解に苦しむが、ここはひとまず予告状とやらの内容を確認しておいた方が良いだろう。

「おいジュリアス、なに固まってんだよ。なんて書いてあ────ん?」

 ジュリアスが握りしめる予告状を彼女の頭越しに見てみると、なるほど。彼女が固まった理由が良く分かった。

『明日の夜、ジュリアス・フロイラインの身柄を頂きに参上仕る──怪盗テュラン』

 一体何が始まったというのだろうか。



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