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第四章 まるで茶番なお付き合い
CASE18 パプカ・マクダウェル④ その2
しおりを挟む「結婚を前提にお付き合いしてください!!」
パプカが顔を真赤にして俺に頭を下げつつ右手をかざす。今時古風な告白だ。
だがしかし、一方の俺はほとんど動じてはいなかった。
本来ならここで、慌てふためいて動揺するのが筋だろうし、今まで恋愛対象と見えていなかった女性が、いきなり可愛く見えてしまうなど、心境の変化が起きる場面だろう。
こちらも顔を赤くして、冷や汗をかいては後ずさり。
重ねていうがだがしかし、俺は腕を組んで微動だにしない。
パプカが俺に惚れていて、めかし込んで告白? いやいや……無いな。
断言しよう。これは非常に厄介な案件であると!
プライベートな時間に訪れた、時間外労働と言う名の相談案件であると!
「で、本音は何だ?」
「さすがサトーですね。美少女の告白に、全く動じてくれないとは……」
姿勢はそのままに、目線だけを俺に向け、パプカが小声で答えた。
その表情は、先程までの緊張した面持ちとは違い、いつもどおりのふてぶてしいパプカそのもの。
やはり告白の真意は別のところにあるようだ。
彼女は小声のまま話を続けた。
「とりあえず、この手を取ってもらえますか? 形だけで良いんです。ええ、形だけで」
「絶対良からぬことを考えてるだろお前」
「そんなことはありませんよサトー。事情は後で説明しますし、今の告白だって本気じゃありません。逆に、本気だと取られたならごめんなさい。わたしは、サトーに思うところなど欠片もありませんから」
このガキ、喧嘩を売ってるのか。
しかし、形だけと言われても、俺の中の危機管理センターがレッドランプを煌々と照らしているのは間違いない。すなわち、厄介事であることには恐らく間違いないだろう。
ではどうしよう? 大声で愛の告白をしたパプカと、見た目上告白を受けた側の俺は、周囲の目を思い切り引いていた。
ただでさえ、トゥーフェイスとかゲロ吐き支部だとか、ろくでもないレッテルを貼られている俺だ。ここでこの手を無視し、この場を去りでもすれば、その評判は地に落ちて、地面にめり込むことは間違いない。
だとすれば悲しいことに、選択肢は実質一つしか無い。
パプカの言葉を信じて、とりあえずこの告白を受けること。
俺はパプカの右手を取って、握り返さずにすぐに手放した。
「おめでとう!」
「幸せにしろよ兄ちゃん!」
「爆ぜろリア充! ロリコン!」
周囲から賛辞と拍手、そして呪いの言葉が俺へと送られた。誰がロリコンだ、こいつはそろそろ二十歳の成人女性だぞ。
「……告白を受けましたね?」
パプカの瞳がキラリと光った。
「おめでとーパプカー!!」
人混みの中から、やたらと目立つ女性が進み出た。
目のやりどころに困る服装にグラマラスな体型。運動会を見た人間にならば、確実に認知されているであろうヒュリアン・マクダウェル。
パプカの母親である彼女は、満面の笑みを浮かべて俺とパプカの元へと歩み寄る。
すかさずパプカは俺の腕を取り、俺の体を引き寄せて密着した。
「ありがとうございますお母さん! わたしは彼と、幸せな家庭を築こうと思います!」
「はぁ? ちょ、何の話……」
「麻痺魔法」
「あばばばばばばっ!?」
ボソリとつぶやかれた魔法によって、俺の身体の自由は奪われた。
ほらやっぱりな? こうなると思ったよ。予想通りすぎて、逆に肩透かしを食らった気分だよ。
体が麻痺し、言語になっていない悲鳴を上げ続ける俺を他所に、パプカとヒュリアンは話を続けた。
「こんないい相手が居るだなんて、お母さん知らなかったわ。でも良かった、明後日はパプカの誕生日だものね。なんとか期限に間に合ったわね」
「はっはっは、実はお母さんを驚かせるために、ギリギリまで彼のことは隠していたのですよ。本当は数年前からお付き合いしていたんですよ?」
「こんなサプライズなら歓迎するわ。でもサトー君、女の子からプロポーズを受けるのは関心しないわ。こう言うのは男の子から言うべきだと思うわよ?」
「あばばばばばばっ!?」
「感動の余り、言葉にならないようですね」
「ともかく、サトー君。パプカの告白を受け入れてくれてありがとう。涙まで流しちゃって……お母さんも泣けてきちゃった」
ホロリと溢れる涙を拭うのはともかく、麻痺に苦しむ俺を見て、なんでそんな感想が抱けるのかが謎だ。苦しんで泣いてるだけなんだが。
「それじゃ、積もる話もあるだろうから、お母さん行くわね。とりあえず、ゴルフリートをふん縛って置かないといけないし」
「それはそうですね。サトーを殺しに来るでしょうから、できるだけ強力に拘束しておいてください」
「あばっ!?」
今恐ろしいセリフが聞こえたのだが、二人はそんなに気にしていないようだった。気にしてくれよ、俺のことなんだから。
ヒュリアンはそのまま手を振りながらこの場を去り、そして俺の意識もこの世を去った。
* *
「はっ!?」
「おはようございます、サトー」
冷や汗が気持ち悪く背中と額に走り、その不快感で俺は目を覚ました。
場所は宿屋の部屋ではなく噴水広場。噴水そばに設けられたベンチで、パプカの膝に頭を乗せて横たわっていた。
シチュエーション的には非常にドキドキしてしまうような状況であるが、未だしびれの残る体とその理由を思い返せば、全くそんな気持ちにはならなかった。
「ふふん、どうです? 美少女の膝枕のお加減は。そこはかとなく、いい香りもするでしょう? これが女の子の香りというものなのですよ。サトーは嗅いだことがないでしょうから、思う存分堪能すると良いです」
「クタバレ」
「……あまりにもストレート過ぎやしませんか?」
これでもかなりオブラートに包み込んだ言葉なのだが、彼女はお気に召さなかったようだ。
上体を起こし、あたりを見渡した。パプカのプロポーズに集まった聴衆はすでに解散し、ヒュリアンの姿もそこにはなかった。
「説明はしてもらえるんだろうな?」
「はぁ……ええ。巻き込んでしまってすみません。ですが、こちらも命がかかっていたもので、なりふり構って居られなかったのですよ」
大きなため息をつくパプカは説明を続けた。
「明日、わたしの誕生日なんです」
「そりゃおめでとう。十代よさらば、だな」
「あまりうれしくありませんねぇ。結局、恋人の一人もできないまま二十代になってしまうのですから。で、まあそれが先程の一件に繋がるわけです」
「俺への告白と、ヒュリアンさんへの婚約報告か?」
「はい。実は……お母さんととある約束をしておりまして」
目線をそらして口ごもる。
恐らく、その約束とやらは非常に俺にとってよろしくないものなのだろう。と言うか、先程の時点ですでにかなりの被害を受けているのだが、パプカの様子を察するに、さらなる厄介事を被りそうだ。
「聞きたくないが……約束とは?」
「……十代のうちに、恋人を作るという約束です」
おれは目頭を押さえた。
つまり、パプカの言う所の恋人に、俺が選ばれたということなのだろう。光栄なことか? いいえ、迷惑千万極まりない。
そのおかげで、周囲の奇異の目を集めることになった上、ゴルフリートという特大級の親バカを相手にしなければならない可能性。考えただけで頭が痛い。
「……なんで俺を選んだんだよ。適当なやつを引っ張って来れば良いだろうが」
「男の子で親しい間柄なんて、サトーくらいしか居ないんですよ。お父さんが原因で、男友達はほぼ居ません」
「だから俺か……それで、それをやった所で、俺に何かメリットがあるのか? 休日を潰そうからには、何かしらの対価はあるんだろうな?」
「…………お酒を奢って」
「帰るわ」
俺は帰ろうとベンチから腰を上げた。
俺が酒を奢られたくらいで言うことを聞くと、本気で思っているのだろうか。少なくとも、今回の件に関して不釣り合いとしか言いようがない。
そんな俺の服の裾をひっつかみ、パプカは瞳に大粒の涙をいくつも並べてすがりつく。
「そんな殺生な! お願いします! なんでもしますから付き合っているということにしてください!」
「ん? 今なんでもするって……」
「あ、いや……何でもは出来ませんが、出来ることはします! そうだ! サトーは最近お金に困っていると言っていましたね? 私、これでもそれなりにお金持ちなんです! お金をあげましょう! お金を渡すので付き合ってください!」
最低だなこいつ。
すがりつく美少女が、ゲス顔を浮かべるというのは忍びない。彼女の必死過ぎる形相に、俺は深くため息を付いた。
「はぁ……分かったよ。とりあえず、向こうしばらくの飲み会はお前の奢りだからな。高い酒をガンガン頼んでやるから覚悟しろよ」
俺の言葉に、明るい笑顔を浮かべるパプカ。手に持つ目薬は見なかったことにしておこう。
「けど、そこまで必死になることか? 約束って言うなら、素直に謝っておけばいいのに」
「わたし、まだ死にたくありませんから」
どんな母ちゃんだよ。
パプカは立ち上がり、清々しい表情で噴水の縁の上を踊った。
傍から見るだけなら、自称するだけのことはある。なるほど、確かに美少女と言えるだろう。めかし込んだ分、いつもより俺の見る目も変わるくらいだ。
楽しそうに踊っていたパプカは、ピタリと踊りを止めて仁王立ち。噴水の縁のぶん伸びた身長から俺を見下ろして、口を開いた。
「では今日一日、わたしとデートをしましょうか」
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