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第五章 まるで祟りな夏祭り
CASE30 ルーン・ストーリスト その1
しおりを挟む自分でも変なテンションになってしまい、正直よく覚えていない水着コンテストが幕を閉じた。
優勝者はルーン・ストーリスト。男でありながら、全会一致の優勝を申し渡されたルーンは、恐縮そうに肩を狭めて優勝トロフィーを受け取った。
他の参加者である女性陣も、ルーンが優勝したことには納得していたようだし、そこまで恐縮しなくてもいいと思うんだが。
「ちぇー! 優勝賞品が手に入ると思ってたのに……予定が狂っちゃいましたよ」
「ですから私は男なんですが……」
「ルーンがいなかったとしても、パプカは優勝できないと思うけど……と言うか、お前はそれが目的だったのか」
口をとがらせて文句を言うパプカは、俺とルーンと一緒に中央広場から離れ、人がまばらな夜道を歩いていた。
「そう言えば、優勝賞品って結局なんだったんだ? 表彰式では、副賞としか言ってなかったよな?」
「ああ、何でも『冷風石』と言うマジックアイテムだそうです」
「なにぃっ!?」
ルーンの言葉に、俺は思わず大声を上げてしまった。
『冷風石』
その名の通り、冷たい風を発生させるマジックアイテムである。効果は、いわゆるエアコンと同じ。部屋の温度を冷たく調整してくれる優れものだ。
しかしこのマジックアイテムは、希少な魔石を加工して作る高級品で、流通量が非常に少ない。
そもそも知名度自体が低い上、いくら金持ちだとしても、手に入れるのは中々骨の折れる仕事なのだ。
「ギルドの宿は暑すぎて駄目なんですよねぇ。せっかく快適になる予定だったのに」
「金があるんだから引っ越せばいいのに」
「この村には開いてる宿屋なんてありませんよ」
いや、俺が言ったのはこの村から出て、他の場所で冒険すれば良いのでは? ということだったのだが。
「でも、今暮らしてる家には冷風石はいりませんね。あそこはかなり涼しいですし。ギルドにでも置いておきましょうか」
「おお、それは助かる。ほら、パプカも喜べ。営業時間内ならいつでも涼みに来ても良いぞ」
「ありがとうございますルーン! なるほど、コレほど優しく美しいのなら、負けてしまったのにも頷けますね」
「あまり嬉しくは無いんですが……」
と言ったところで、俺達は目的地であるギルドへと到着。ギルド前は冒険者や村人の人だかりが出来上がっていた。
俺達がなぜ、祭りの屋台もない場所に集まっているかというと、これからジュリアスが企画する、『肝試し』が行われるからである。
よく見ると、人だかりをまとめようと、ギルドの扉の前であれこれ指示を出しているジュリアスの姿が見えた。
「あ、サトー! みんな、よく来てくれた! 特にパプカとルーン! 助かったよ!」
「「助かった?」」
不意に呼ばれた自分の名前に、パプカとルーンは首を傾げた。
「実は……思ったよりも参加人数が多くてな。いや、それはありがたい話なんだが…………比率が……」
「比率? なんの?」
「男女比率が…………その」
ああ、ジュリアスの言わんとせんことが理解できた。
なるほど、ギルドの前に集まった輩は、大半が男たちである。女もいないことはないが、絶対数としてはかなり少ない。
おそらく、水着コンテストの見物客が、そのまま流れてきたということなのだろう。
「肝試しは男女二人組で、手を繋いで参加という形にしたかったんだが、コレではなぁ……」
「男同士が手をつなぐ姿なんて見たくないなぁ」
はっきり言って吐き気がします。
「とりあえず、もうしばらくすれば開始時刻だ。帰らずに待っててくれ。特にパプカとルーン、絶対に帰らないでくれ頼むから」
「必死だなぁジュリアス」
「あの……だから私は男……」
諦めろルーン。もはや男でろうと女であろうと、男たちにとっては関係のないことなのだ。
* *
「えーでは、参加する人たちは私のもとに来て、箱からくじを引いてくれ」
肝試しの予定時間に差し掛かり、ペアを組むためのくじ引きが行われていた。
参加人数は二十人程度。大半はむさ苦しい男冒険者であり、女性はルーンを含めても三人しかいない。
つまり、このくじ引きは運命の分かれ道。ペアを組む相手が男であれば見事撃沈。参加費だけ払っただけで、そのまま帰る事になる。
男たちにとって、当たりくじはわずかに三枚。確率としては決して低くはないが、当たりハズレの落差が凄まじい賭け事である。
「あれ? サトー。お前も来てたのか、珍しい」
「アグニスもか。好きそうだよなぁ、こういうの」
水着コンテストでの格好。海パンにアロハシャツを着込んだ姿のままのアグニスが合流。姿だけを見れば、完全にチャラい兄ちゃんである。
「でも良いのか? ほとんどハズレの有料くじだぞ、コレ」
「まあ、外れたら外れたで帰ればいいだけだしな。サトーこそ、こう云う賭け事をやるタイプじゃないだろう?」
「一応、誘われた手前もあるしな。くじを引くだけは引いておくよ。それに、運良くルーンを引き当てる可能性もあるんだ。ハイリスクだが超ハイリターンだから問題ない」
「そこで女のわたしの名前を出さないと言うのが、サトーらしいと言えばらしいですね」
俺の隣でパプカがため息を付いた。
「では行き渡ったようなので、そろそろ始めたいと思う! 引いてもらったくじにはそれぞれ番号が振ってあるから、今から私が言う番号の人から順に、規定のコースをペアで回って欲しい!」
そう言って、ジュリアスが新しい箱からくじを引き、書いてある番号を読み上げ始めた。
「げっ!? お前かよ!」
「それはこっちの台詞だ気持ち悪い!」
「誰がてめぇなんかと手を繋ぐか!」
「指先でも触れたらたたっ斬るぞ!」
順調に男同士のペアが出来上がっていく。互いの顔を見た瞬間に眉をひそめ、吐き気を堪えながら辞退していった。
良いぞ、男同士のペアが出来上がるほど、俺のくじが辺りである可能性が出てくるのだ。
「次は二番のペアだ」
「お、俺かな? いやぁ、当たりだったら嬉しいけどなぁ。どうだろうなぁ」
とニコニコしながら前へ出るアグニスは、どうやら俺と同じく、「そろそろあたりが出る頃だろう」と考えているようだ。
しかし、現実は非情。同じく前へ出たのは、内のギルドで働く冒険者。筋肉モリモリマッチョマンの男であった。
「あー……駄目か。悪いけどジュリアスちゃん。俺は棄権を……」
「あ、あのっ!」
アグニスの言葉を遮るように、ペアの男が声を上げた。
そして、筋肉隆々な見た目ながらその男は、何故か顔を赤らめて下を向き、もじもじしながら言葉を続けた。
「……お、俺としては、アグニスさんとなら参加しても…………きゃー! 言っちゃった!」
「………………さよなら」
アグニスは逃げ出した。
「……んもう、イケず!」
…………今のは見なかったことにしよう。俺が管理している冒険者の中に、ああいう趣味を持った人間が居たとは知らなかった。趣味は人それぞれだしな、俺は応援するぞ、うん。
さて、ことごとく撃沈した連中を横目に、金はもらっているだろうが参加してもらえないジュリアスが悲しそうな表情を浮かべる。
残念ながら、コレばかりはどうしようもない。そもそもの村の男女比率が偏っているのだからしょうがないだろう。
「…………次、四番のペア」
「ふふん、ようやくわたしの番のようですね。ではサトー、ルーン。一足先に肝試しを楽しんできますよ」
「余裕そうで羨ましいよ」
「男性方と違って、女性であるわたしはハズレがありませんからね。さあ、幸運にも当たりくじを引き当てた御仁はどなたですか?」
パプカの問いかけに、残った連中がざわつき始めた。
一応の当たりくじを前に、幸運な御仁とやらが中々名乗り出てくれない。男たちは、自分の番号を確認しつつ、当たった男に早く前に出るように急かし始めた。
「ああ、俺か」
男たちの中から、ようやく当たりくじの御仁が前に出た。しかし、何というか…………不運だな。
「お父さん!?」
躍り出たのは、パプカの父親ゴルフリートのオッサンであった。
「よぉパプカ! なんだ、お前がペアか! まあ野郎に当たるよりなんぼかマシだったな!」
「なんでよりによってお父さんなんですか! せっかく男の人と良い雰囲気になれると思ったのに!」
「はっはっは! 俺が野郎にそんなことをさせるわけがないだろう!」
肝試しが『肝試し(物理)』になる寸前だったようだ。大惨事にならなくて本当に良かった。
「そんじゃジュリアス、俺達は先に行ってくるわ。この地図の場所に行けば良いんだな?」
「あ、ああ……分かった、ゴルフリート殿」
「ちょっと! わたしはまだ行くとは言ってな……」
抗議むなしく、パプカはオッサンに引きずられていった。
そもそも、オリハルコンランクの化物冒険者であるオッサンの肝を、どうやれば試せるというのだろうか。
国が滅ぶレベルの天変地異でも起きない限り無理だろう。
「えーっと……まあ次にいこうか。では、次は一番のペア」
「む、俺か!」
いよいよ俺の番が来たようだった。
なんだかんだと考えながら、俺は結構ドキドキしている。
残る当たり枠は二つ。一人は昼間のギルドで給仕を頼んでいる女性。まあ……その……そこそこ歳を重ねた方である。
そしてもう一人。我がギルドの紅一点。ルーンが奇跡的に残っていた。
「あ、私ですね。よろしくお願いします、サトーさん」
「――――…………やったぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
人生で最も声を張り上げたガッツポーズを決めた。
やったぞ……俺は長く苦しい戦いに勝ったんだ!
ルーンのくじが引かれたことにより、残りの男たちが帰っていく姿が目に映る。その光景にため息をつくジュリアスも見えるが知った事か。
俺はこれから、大人の階段を登ります! ルーンと手を繋いでしまいます! やったぜ!
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