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第六章 まるで病魔の初入院
CASE33 ティアル・ヴォルフ・ルートヴィッヒ
しおりを挟むディーヴァが我が家に間借りするかどうか、結局のところ決定はしなかった。
よく考えてみれば、家賃を払ってもらったとしても、魔王軍四天王としての被害を受けたならば、一瞬で赤字転落間違いない。
監視対象が近くにいるメリットなども差し引いて、やはりデメリットがでかすぎるのではなかろうか。
まあとりあえず、その話は脇においておこう。はっきり言って、今は差し迫った脅威に取り組むべきだ。
「えーっと、ティアル・ヴォルフ・ルートヴィッヒさん?」
「はいですニャア、支部長さん。あ、ちなみにルートヴィッヒはソウルネームで、本名はゴトーと申しますニャア」
目の前に座るのは、猫耳を頭の上に乗せた冒険者。
ニャハハと特徴的な笑い方と語尾を持ち、そこらの冒険者とは癖の違う派手派手な衣装で身を飾った少女。
それはもう、「その服着心地悪くない?」と聞きたくなるような派手派手衣装である。
コースケハーレムという他称の組織に所属している彼女が、相談窓口へとやって来ていた。
「……何かお悩みごとでも?」
「聞いてくださいニャ、ちょっとご主人様のことで愚痴を聞いてもらいたくて」
薄々感じていることではあるが、みんな相談窓口を愚痴をこぼす場所とでも思ってるのではあるまいか。
本来は事務的な手続きの手伝いや、冒険者のシステムについての苦情対応などが目的なのだが、そっち方面は最近活用されていない気がする。
「ご主人様って……コースケさんですよね?」
「うちのご主人様、ちょっと最近パーティーを増やし過ぎだと思うのですニャア」
「何を今更……」
コースケハーレムという組織は、つまり召喚者であるキサラギ・コースケが、ほぼ無自覚にかき集めた美少女で構成されたパーティーのことである。
パーティーと言うには大所帯なこの組織。コースケに惚れていると言う美少女たちが大勢居るということで、世の男冒険者達から殺意を込めた目で睨まれている。
同じ召喚者である俺だって、はっきり言ってこの待遇の差には不満がある。と言うか不公平に過ぎると思う。
「なにせ、この間立ち寄った街で出会った子を含めれば、いよいよ三桁を超えてしまいましたからニャア」
「いつの間にそんな規模に!? ちょっとした軍団が作れる人数じゃないですか!?」
「おかげで、ご主人様についていける人数が限られ始めたんですニャ。今回のダンジョン攻略だって、新しく来た子達を優先したもんだから、ウチらは近くの村々でお留守番ですし」
ダンジョン攻略にかかわらず、通常冒険者のパーティーとは五名~八名程度で組まれるもの。
コレは報酬の分配などが理由に挙げられる。百人規模でパーティーを組んでみれば、どのような高給な高難易度クエストでも、一人あたりの報酬は雀の涙だろう。
一応、ゴブリンが大量発生したときなど、大規模なクエストの際には軍団と言う大規模パーティーを組むこともあるが、そんなことはめったにない。
「ご主人様は優しくて平等に接してはくれるけど、ちょっと優柔不断なところがありますからニャア。誰を残して誰を連れて行くか、中々決めてくれないんですニャ」
「それを私に言われても困りますがねぇ、なにせハーレムなんて自分の身の上じゃ想像もできないものでして」
ちょっとやさぐれ風に言ってみたが、そのくらいの反抗心は許して欲しい。
「あ、いや……支部長さんだって中々男前じゃないですかニャ。あの、ほら……耳の形とか」
「無理に褒めてもらわなくても結構です。はぁ…………いつも気になっていたのですが、ハーレムの皆さんはどうして彼に惚れたんですか? 男前であることはまあ否定しませんが、もっとカッコイイ人は居るでしょうし、強い人もたくさん居るでしょう?」
「好きになった理由……ですかニャ?」
ティアルは顎に指を当て、少し考えてから頬を赤らめて顔を伏せた。
あー、はいはい。恋する乙女の顔可愛いよね。その対象がコースケでなければ、心温まる光景だったかもしれないね。チッ!(舌打ち)
「話せば長くなるんですがニャア」
「聞いておいて何ですが、だいたい察したのでもう結構です」
「ニャント!?」
「でも、それだけ好きな相手が、優柔不断で他の女の子を囲ってるって状況は、ティアルさんは不愉快には感じないんですか? 他の方たちも、独占欲とかあるでしょう?」
「そりゃありますニャア。でも女の子同士も仲が良いですし、小さな喧嘩はあってもそれ以上のことにはなりませんニャア」
召喚者や転生者が構成するハーレムは、何故か血なまぐさいことになる確率が低い。
通常、男一人に女複数。もしくは女一人に男複数という取り合わせになれば、刃傷沙汰にまで発展することは珍しくない。
優柔不断男が、大勢のライバルを囲っているともなればなおさらだ。
しかし、召喚者や転生者ともなると、やはり特典効果が働くのか、ことは穏便に進むのである。
例えば、紆余曲折を経て正妻が決まったとしよう。
普通ならば正妻から漏れた女たちは、傷心ながらも別の恋を見つけて前に進むものだ。しかし、これが召喚者や転生者相手になると、
「私は二番目でも良いから貴方のそばに居たい」
とか、
「私が行く先に貴方が居るだけなんだからね!」
とか。
わけの分からない理由でハーレムが続行する事がある。
そして実はこれこそが、世の男冒険者にコースケが蛇蝎のごとく嫌われる理由なのだ。
すなわち、ただでさえ少ない女性冒険者。しかもその中の美少女を引き抜いて独占。正妻が決まろうが決まるまいが、その子達が、その後他の男冒険者たちになびく可能性がとても少なくなる。
男冒険者の独身率が高い理由は、彼らの容姿が悪いわけでも、荒くれ者の性格が災いしているからでもなく…………召喚者と転生者が女の子を独占しているからなのだ。
――――と言う説が、学会で発表されているとかいないとか。
とにかく、男たちがコースケに殺意を抱くこともさもありなん。誰だってムカつく。俺だってもちろんムカつく。
「個人的感想を言わせていただけるのなら、正直理解しがたい世界ですよ、ハーレムって」
「……なんかごめんなさいニャ…………んー、でも。支部長さんだって、ご主人様ほどじゃないけどハーレムっぽいことされてないですかニャア?」
「…………は?」
「いやだって、ウチがこの村に来てから見ただけでも、結構な数の女の子と仲が良いように見えましたけどニャア」
…………この子は一体何を言っているのだろうか。
「ごめんなさい、ちょっとティアルさんが何言っているのかが……」
「例えば、あの赤毛の美人さんとか、紫色の髪の毛の小さい子とか。それから、白髪の受付ちゃんに、幽霊のメガネっ娘でしょ? さっきはすっごい美人の黒い獣人さんとも話してたじゃないですかニャ」
「……あ、あいつらが…………俺のハーレム、だと?」
あまりにも的を得ていないティアルの発言に、空いた口が塞がらない。
確かに、ここ最近自分でも「あれ? これってハーレムじゃない?」と考えたことがある。もちろん直後に自己否定したけれど。
好きな子を想い、胸が締め付けられると言う表現があるが、あいつらが締め付けるのは俺の胸ではなく胃袋だ。
鼓動で心臓が痛くなることはなく、胃痛で吐き気がこみ上げることしかやらないのであるあいつらは。
「ありえません! 絶対にありえませんとも!」
「ニャッ!?」
俺は机を思い切り手のひらで叩いて立ち上がり、ティアルの眼前に顔を近づけて説明する。
「彼女たちは……ああそうですね。確かに美人だと思いますよ! けれども! 離れることが出来るのであれば離れたい! 別の町へ転属になったり、彼女たちが拠点を移したりすれば喜びますよ、自分はね!」
「お、おぉう……かなりはっきり言いますニャア」
「もっとはっきり言ってあげますよ! 私は……私はねぇ――――」
そうさ、認識違いによってあらぬ誤解をされてはたまらない。
仕事中とは言え、言うべきことははっきり言っておくべきなのだ!
「(あいつらに比べればまだ)男と居るほうが楽しいんです!」
「「「「――――え?」」」」
……ん? あれ? 何か言い間違ったというか、言葉足らずだった気がするぞ?
思い切り叫んだ直後から、ギルド内が静まり返って、全員の視線が俺に集まっている。
「し、支部長さん……そっち系だったんですかニャ。まあ、趣味は人それぞれだと思いますし……ニャア?」
「うっはぁ! BLッスか? BLの話ッスか!? 支部長さんと……アグニスさんッスか!? ど、どっちが受けなんスかねぇ……ゴクリ」
「はぁ? 何言ってんだよアヤセ…………はっ!?」
ここでようやく、俺がとんでもない爆弾発言をしたことに気がついた。
「いや、ち、違う! 言葉が足りなかった! 言葉足らずなだけだから!」
「自分的には支部長さんが受けだと思うんスよねぇ! 意外と両方行けるって口でもオッケーッス!」
「話を聞けぇ!!」
その場にいた全員の誤解を解くのに、半日ぐらいかかりました。
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