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第七章 まるでオタクな獣人街
CASE40 リンシュ・ハーケンソード②
しおりを挟む空気が冷え始め、夏もそろそろ終わりかと思う頃。
我がギルドは、特にやることもなく平穏な時間を過ごしていた。
入院という思いがけないイベントはあったものの、思い返せば降って湧いた休暇である。
おかげで体調は万全。溜まっていた仕事も消化し終わり、今は通常業務へと戻っている。
秋というのは、モンスターにとっても冒険者にとっても書き入れ時だ。
何故かと言うと、冬に向けて食料を溜め込むために活発になるモンスターたちと、その被害を抑えるために奮闘し、金銭的な面で冬を越そうとする冒険者たちがしのぎを削るからである。
ならば平穏ではなく、非常に忙しい時期だと思われるかもしれない。
確かに、今もひっきりなしに冒険者たちがギルドを訪れては、クエストを受注して旅立っている。ギルドでは今いる人員でフル回転の状態だ。
だがしかし、これは健全な状態。平穏と行って差し支えないのである。
ギルドというのは冒険者を冒険に送り出すのが仕事だ。
それらの仕事が無い場合、大抵はサボっている冒険者たちの素行調査に回される。
なぜ冒険に出ていないのか? 治安悪化の原因となっていないか? 不必要な借金を背負っていないか? 等など。
国から絶大な権力を渡されている冒険者ギルドは、半分ゴロツキな冒険者の管理を徹底しなければ、お上からおしかりを受けるそうだ。
すなわち会社の中で、末端の社員が知らぬところで事件を起こしても、それは会社の責任になってしまう。といえば分かりやすい。
その為、地域に属する冒険者の状態は、逐次監視していなければならないのである。
だが、サボっている冒険者は、ほぼ全てがヤンキーなのだ。
逆ギレ上等。理屈にかなっていない言い訳をつらつらと話されても、面倒くさいことこの上ない。
それに比べれば、きちんと働く冒険者たちの相手など造作もない。
書類を決済し、クエストに送り出し、帰ってきたならば金を渡してその次へ。
単純作業だが、その分なれてしまえば苦労などは感じなかった。
「し、支部長さん……凄いッスね。書類の確認、手元が全然見えないッスよ」
「あのお歳で支部長になるくらいですからね。半端な能力じゃ務まらないんですよ」
と、俺の後ろでヒソヒソと話をするアヤセとルーン。褒めていただいているところ悪いが、今はまだ仕事中である。
「二人共、口じゃなくて手を動かしてくれ」
「あ、はい! すんませんッス!」
「すみません、仕事に戻ります」
素直な部下を持つと、余計に怒らなくていいから楽だねぇ。
冒険者たちの波が一息ついたところで、自分がまとめたクエストの書類の束に目を通す。
なんとまあ、普段サボっている連中もまとめてクエストに出てくれているようだ。
かのポンコツことジュリアスでさえ、今日から数日をかけてのクエストを受注している。村の外で働くのは何週間ぶりだろうか。
「やっぱりこの時期は混みますね」
「冬はろくなクエストが無いからなぁ。冬の間に貯金が尽きたら、一気に借金持ちになるからみんな必死だよ」
「冒険者って、もう少し夢に溢れた仕事と思ってたんスけど、世知辛いッスねぇ」
「それでも、運が良ければ一攫千金な仕事だからな。昔、低ランクの冒険者が高級な薬草の群生地を見つけて、一代で貴族まで成り上がったって話もあるくらいなんだよ」
おおっ、と目を輝かせるアヤセ。
自分で言ってなんだけど、そんな幸運は宝くじに当たるよりも難しい。
宝くじと違うのは、実力が高くなればその可能性も同時に高まるというところだろうか。
とは言え、それだけの実力者になれば、クエストをこなすだけで億万長者になれるのだから、結局は地道にこなしていく方が確実なのである。
「とにかく、この分だと向こう一週間は暇だな。リール村の冒険者が総出でクエストに出てるから、帰ってくるまで事務的な仕事がない」
「書類は退院後にまとめてやってしまいましたからね」
「じゃあお休みッスか?」
「いやいや、暇なら暇で色々仕事があるんだよ。ギルド内の掃除と備品整理なんかもやらないと……」
プルルルルル
電子音が響いた。
元の世界なら電話的な音であり、この世界でも電話的な念話機の音である。
…………なんだろう、念話機から邪悪な気配が漂っている気がする。
この念話を取ったならば、壮絶なトラブルに巻き込まれるという、具体的な危機感が俺の中の警鐘を鳴らしている気がする。
……いや、でも職務上念話を取らないという選択肢はないだろう。
かかってきているのは、俺のデスクの上にある俺の念話機なのだから、ルーンやアヤセに取ってもらうと言うのは難しいのだ。
ガチャリ
「はい、こちらリール村冒険者ギルド支部長、サトーと申します」
『出張』
「は?」
やはりと言うか何というか、念話機の向こう側はリンシュであった。
だがその内容は予想だにしなかったもの……と言うか意味不明だった。
「えっと、サブマスでよろしかったですか? 出張というのは……どういう?」
『ちょっと西の街まで出張に行ってきなさい。期間は今日から五日くらいかしら』
「きょ、今日!? って今からってことですか!?」
『そ。今から行かないと色々間に合わないから、急ぎでお願い』
「いや、今から出ても西部に着くのは一週間後になると思うんですが」
『大丈夫大丈夫。そのへんはちゃんと手配してるから』
本人に了承を取ってから根回しをしろよ。
「でも村の仕事はどうすれば良いんですか? エクスカリバーが西に出張に行っているので…………って、あれ?」
もうすでに半月ほど出張に出ているエクスカリバー。
予定ではあと数日で仕事が終わるはずだけど……
書類を取り出して日数を確認してみる。
「あと……五日?」
汗が頬を滑り落ちた。
「もしかして、出張先ってヴォルフの街? エクスカリバーと合流ですか?」
『あら、よくわかったわね?』
そりゃあねぇ。送り出したのは俺だもの。
「具体的な仕事内容は?」
『エクスカリバーと一緒に、西部ギルドの視察…………有り体に言えば、西部のサブマスの偵察をしなさい』
「偵察……序列審査の関係ですか?」
序列審査。
三人いるサブマスターが、その地位を求めて争うもので、次のギルドマスターになるための非常に重要なイベントらしい。
すなわち、サブマスの一角であるリンシュが、ライバルである西部のサブマスの情報を拾ってこいというのだ。この俺に。
「ですが、前に私は関わるなと言っていませんでしたか?」
『はっはっは。全てはこの時のためよ。中央の私の駒が動けば察知されるけど、アンタならマークもされてないからね。バレても東のサブマスが疑われるだけで、私には何のダメージもないわ』
「バレたら私にダメージが来ると思うのですが」
「コラテラルダメージよ」
こいつ言い切りやがった。
「……まあ、選択肢もないんでしょうし、素直に従いますよ。でも、さっきも言いましたが村の仕事はどうするんですか? 二人も抜けては業務に差し障りが……」
『心配ないでしょ。アンタのとこ、向こう一週間は暇なんでしょ?』
「…………何処で監視してるんですか貴女は……」
本当に恐ろしい女である。
『あ、そろそろ迎えがそっちに到着する頃だから、そいつに乗ってちょうだい』
「そいつってどいつ……」
どーん!
不意の衝撃音に、建物全体が揺れた。
「…………こいつですか?」
『それじゃ、もう切るわね。向こうでやることはデータで送るから、あとで読んでおいて』
と言ってリンシュは念話を切ってしまった。
こちらの都合などお構いなしか。まあいつも通りではあるが。
ルーンに事情を説明し、村のことを任せてギルドを出る。なんか、最近ルーンに頼りっきりな気がするなぁ。お土産は上等なものを買ってきてやろう。
「それじゃあ行ってきま…………っ!?」
ギルドから一歩出て、最初に見た光景は、地面に空いたクレーターを背にした、殺気が全開に漏れているメテオラの姿であった。
「よぉ」
「め、メテオラ……さん? も、もしかして迎えって……」
「俺様のことだ」
魔王軍四天王が、殺気立って睨みつける。
そんな状況では、生きた心地がいたしません!
「…………サトーよ」
「は、はい!」
「……お互い、嫌な上司を持つと苦労するなぁ」
言っている意味は分からないが、その龍の瞳からは、微かに水滴が滲んでいるように見えた。
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