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第七章 まるでオタクな獣人街
CASE42 ルティカ・ヴォルフ・シュトリッヒ その1
しおりを挟むリュカン家からさほど離れていない場所に、この街の拠点として予約されていたホテルがあった。
内装は何かのキャラクターの絵で埋め尽くされて、あんまり落ち着いた雰囲気とはいえない場所。
一先ず昨晩の内に、この街で行う視察とやらの予定表に目を通しておいた。
西部のギルドサブマスターに接触するのはまだであるが、それでも暇というわけではない。
街の様子を視察して、幾つかのレポートにまとめなければならない。こちらはエクスカリバーの手伝いと言ったところだろうか。
『サトー氏~、おはようでござる~』
「我の眠りを妨げし不遜なるものよ…………何もこんな朝早くに起こさなくても」
「朝が苦手なのか、リュカン?」
相変わらずのテンションのエクスカリバーを背負った、未だ覚醒にいたらないリュカンが現れた。
『おや? 仕事中でござるが、珍しく敬語では無いのでござるな、サトー氏?』
「一応、正式に雇ってる部下扱いになるからな。リュカンとメテオラにも、この仕事中は敬語を使わなくても形式的には良いんだよ」
実際は、仕事中であっても冒険者相手に敬語を使っている事務職員は少ない。
冒険者という破天荒な連中は、敬語を使われるよりもフランクに話しかけてもらえるほうが有り難いという、アンケート結果も出ているらしいのだ。
俺が敬語を使って丁寧に話すのは、中央でリンシュにしごかれた結果であるが、今回は気心の知れた連中ということなので大目に見てもらいたい。
「とりあえず、ここ半月のレポートを見せてもらえるか?」
『了解でござる』
リュカンの背からエクスカリバーを降ろし、ホテルのテラス席でレポートの確認を取る。
エクスカリバーに頼んだ視察内容は、リンシュに言われのと同じくこの街の産業についての視察である。
どのような産業が発展し、その産業がどのような推移で発達していったのか。また、その産業がなぜこの地域で発展しているのか等など。
こういった定期的な視察をすることによって、別の地域のノウハウを学ぶことが出来、結果として地元の発展につながるという重要な仕事である。
『ふふん、今回のは自信作でござるよ。我ながら良い仕事ぶりだと自負するでござる』
そう言って、エクスカリバーは俺に念話機を取り出すように催促した。
テーブルの上に念話機を取り出すと、むむむと唸って魔力を念話機へと流し始めた。
ヴンッ
念話機の上に、どうにも見たことのあるような形式の文章が羅列された。
一つの文章にまとめられているというよりは、数字と名称、日付と暗号のようなもので区切られているようだ。
「なにこれ?」
『この世界のレポートって、基本的に手書きでござろう? 拙者、自慢ではないがペンを持つことが出来ないでござる』
「まあ剣だからなぁ」
『そこで、魔力で文字を念話機の中に打ち込む機構を作り上げたのでござる! その名も『8ちゃんねる』!!』
「………………ネット掲示板だこれ!?」
よく見てみれば、日本で有名な某巨大掲示板の形式と瓜二つの形式であった。
『流石に画像や動画を載せるほどのスペックは無いでござるが、多人数に一斉に情報を公開できる強みがあるでござる! ただの念話機だと、一人一人個別にしか送信できないことを考えれば、中々に革新的ではござらんか?』
「いや……まあ確かに革新的かもしれないけど…………なんでネット掲示板? 名称も微妙に違うし」
『そこは趣味でござる。名称に関しては、商標に抵触するかもとの配慮でござるな』
「変なところで真面目か」
とは言え、見た目こそふざけきっているが、レポート内容はそこそこ真面目であった。
まあ、視察場所がキャラクターグッズストアやアイドルライブ会場、同人誌即売場など、そっちも趣味なんじゃないのかとツッコみたくなる場所ばかりであるがそこはそれ。
彼をヴォルフの街に送り届けた時点で予想されていたことなので、驚きはすまい。
実際にこの街の大規模産業なのだから、仕事をしていないというわけでもないのだしな。
「カリバー氏、そなたは本当に我らが神だ! 8ちゃんねるが誕生してから大ブレイクするまでの間、間近で見れたことを光栄に思う!」
『いや~、照れるでござる、リュカン氏。拙者こそ『工作員だけど聖剣を手にしたおかげでハーレム三昧』と言う創作スレは楽しませてもらってるでござる』
「おまえら楽しそうだなぁ。とりあえず仕事の話に戻って良いか?」
気を取り直して仕事に戻る。
「形式的にはひどいけど、レポートとしては問題ないな。後で用紙に書き写す必要があるけど……いや? それよりもエクスカリバーの形式で提出するように具申したほうが後々……」
『支部長というお仕事も大変でござるなぁ。ちゃんとお休みは取れてるのでござるか?』
「お前とアヤセがちゃんと働けるようになれば、もっと休めるんだけどなぁ……」
『アヤセ? と言うのはどなたでござろうか?』
疑問符を浮かべるエクスカリバーに、ああそうかと俺は思い出した。
ギルドの新人であるアヤセ・ナナミ。彼女はエクスカリバーと面識がない。
夏祭りが終わってすぐ、エクスカリバーは出張に行ったのだ。アヤセが職員になったことどころか、俺が入院していたことすら知らないだろう。
「ああ、ギルドの新人だよ。メガネでオタクで幽霊な召喚者系女子だ」
『……サトー氏、拙者が言うことではないが、雇う人間はもう少し選んだほうが良いと思うでござる。属性多すぎ』
それは本当にお前が言うことではない。
『まあでも、オタク趣味を持つ女子というのは良いでござるな。是非語り合いたいでござる』
「ま、同じ召喚者同士気が合うか」
「それはともかくとして、今日は我が付き合うわけだが、これからどこへ行く予定なのだ?」
「穀倉地帯ってのにも行っておきたいけど、まだアポが取れてないからな。一先ず街中を……ん? あれ? このレポート、メイド喫茶が書かれて無いな?」
『ああ…………それは、リュカン氏が……』
リュカンに目を向けてみると、汗を額に浮かべながら俺から目をそらした。怪しい。
「これこそ、お前らの専門分野じゃねぇの? 見事にメイド喫茶だけ外してるけど……」
「それは……アレだ。このあたりにはメイド喫茶が無くて……」
「嘘つけ。お前の家の真ん前にもあっただろうが」
この街でメイド喫茶と言えば、日本で言うところのコンビニ並みの店舗数を誇る。
その殆どがチェーン店らしく、値段もボッタクリ価格ではないため気軽に立ち寄ることが出来るらしい。
『すまんでござるサトー氏。リュカン氏がどうしても行きたくないとのことで……』
「あ? それまたなんで?」
リュカンは目を伏せつつ、
「メイド喫茶には良い思い出が――――」
「お兄ちゃーーーーーーーーーーん!!!」
「ぐぼあっ!?」
「!?」
『ああっ! リュカン氏が死んだ! この人でなし!!』
言ってる意味は分からないが、この状況も意味がわからない。
突如としてリュカンが目の前から姿を消した。
正確に言うと「お兄ちゃん」と叫びながら出現した何者かによるタックルがリュカンを直撃。
一瞬にしてテラスのテーブルと椅子を巻き込みながら吹き飛んでいった。
なるほど、自分なりに整理してみたが、やっぱり意味が分からん。
『あ~……ルティカ氏? おはようでござる』
「おはようございます、カリバーさん! 今日も派手派手なお姿ですね!」
エクスカリバーからルティカと呼ばれた人物。
ノックアウトしたリュカンの懐から顔を上げて挨拶を返した彼女は、ショートカットの金髪に猫耳を乗せて八重歯がキラリ。フリフリのメイド服と何故か首輪をつけた、やや幼い見た目の女の子であった。
「あれぇ? 知らない人がいますね?」
『ええ、紹介するでござる。拙者の上司、東部の村にあるギルドの支部長、サトー氏でござる』
「ど、どうも……」
軽く挨拶を交わすと、ルティカはメイド服に付いた埃を軽く叩き落として一礼。
「それはそれは! はじめましてご主人様! わたくし、メイド喫茶『にゃんにゃん横丁』で働いておりますメイド、ルティカ・ヴォルフ・ルートヴィッヒと申します!」
「…………ご主人様?」
「はい! メイドたるもの、いつでもどこでも誰を相手でも! ご主人様への敬称は忘れないのです! あ、良ければこの後どうです? ルティカを指名してくれれば、色々サービスさせてもらいますよぉ」
なんかめっちゃグイグイ来る女の子を押しのけつつ、そんな彼女がなぜリュカンをお兄ちゃんと呼び、タックルをかましたのかを尋ねてみた。
「えっと、ルティカさん? アンタさっきリュカンのことを『お兄ちゃん』と呼んでたけど、兄妹なのか? あれ? でも確かリュカンは狼の獣人で……」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました! にゃんにゃん横丁の可愛いメイドとは仮の姿! 全てのご主人様の妹キャラで、実際お兄ちゃんとはご近所づきあいの兄妹のような者! しかし血のつながりはなし! はてさてその正体は!?」
倒れ伏し白目をむいているリュカンを無理やり起こし、ルティカはその腕を組んで思い切り抱きしめた。
「リュカン・ヴォルフ・パーパルディアの――――婚約者です!」
――――――――はぁ!?
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