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 朝学校に着くと、いつも時間ギリギリに来る先生まで職員室にいた。いつもより早く学校に着いたのに自分が遅れたのではないかと錯覚してしまうほどだった。何かあったのか聞いても誰も答えてはくれなかった。きっと、自分で探せということなのだろう。生徒たちも今日は早く登校してきている。生徒たちはるなが何をするのか楽しみにしているようだった。るなの姿はまだ見えていない。しかし、教室がざわざわしてきている。何かあったのだろうと思って、教室に行くと、みんながスマホを見せながら
「先生大変!」と言いながら近づいてきた。画面には有名な配信サイトで配信をする、るなの姿があった。場所は、学校の屋上だった。やっぱりなにかしてきた。この学校は、配信サイトまたは動画投稿サイトへの顔出しの配信、投稿は禁止されてるのだ。先生方も慌てて職員会議を開き始めた。るながなにをしようとしているのかすぐに分かってしまった。慌てて生徒のスマホを借りて、屋上へ向かった。階段を上る音で、るなはその音が誰のものか気づいたらしく「あー入ってきちゃだめだよーもえちゃん。」といつものように私の名前を呼んだ。私は嬉しくて、言葉が少し震えていたことに気づけなかった。扉を開けようとしたが鍵がかかっていて開かなかった。職員室に鍵を取りに行こうとしたが、「外からは開かないよ。るなが開けようとしない限り開かないよ。」声の持ち主はゆっくりと階段を上ってくる。散々聞いたその声は私にはすぐわかってしまう。目を見開いたまま動けなくなっている私の前に、たくまが近づいてくる。正直私は理解ができなかった。「あなたが指示したの?」頭をフル回転させてやっと出た言葉だった。それしか思いつかなかった。しかしその言葉は一瞬で無意味へと変わった。スマホから「たくまは関係ないよ。僕が巻き込んだ。」私は訳が分からなかった。下からも「えー!」や「裏切者ってこと?たくまが?」などといった動揺の声が聞こえてくる。しかし私は生徒とは違う意味で動揺している。いつもるなは、私以外の前では、自分のことを『私』と呼ぶのに今るなは、『僕』と言った。そしてそのことに、たくまは驚いていない。親友だったのだから知っていてもおかしくないはずだが、この時の私はそんなところまで頭が回らなかった。るなの一人称が僕だということを知っていたのが私だけではなかったことがショックでたまらなかった。それに、『巻き込んだ』というのはどういうことだろう。
「あんたさ、今までるなのなにを見てきたの。」冷めた声、そして冷めた目。人を見下すあの目。私の嫌いな目。
「この一か月、学校でずっとそばにいておいて、何を見てた。何をしていた。るながこうなったのは、あんたのせいだ。」私は頭に血が上ってしまった。まるで、私がるなを死に追い込んだみたいな言い方をされて、るなを散々いじめておいて、ありさを自殺させといて、私は、先生だということを忘れて叫んだ。
「何言ってるの。あなたたちがるなをいじめてたんじゃない!よってたかって一人をいじめて、情けなくないの?そもそもあなたが主犯格だったじゃない。なのによくも人のせいにできたわね!」すべて言い終わる前に「違う!」とたくまが叫んだ。
「何が違うの!何も違わないわ!」私は精一杯の声で叫んだ。過呼吸になりかけていた。
たくまが私を落ち着かせようと背中をさする。そのやけに慣れた手つきが悔しかった。少しして、落ち着きを取り戻した私にたくまがゆっくり説明を始める。
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