13 / 13
瑠璃色たまごはキミとまざらない
3 三日後
しおりを挟む
「外川くん」
数日後。枝依中央署二階の廊下で都築巡査と鉢合わせた。相変わらず爽やかな笑みを湛えている。
「お疲れさまです、都築さん」
「後遺症とかない? 大丈夫?」
「はい、なんともないです。D班E班含め、眠ってしまったやつらもすっかり復帰してますし」
「そっか、よかった」
あのあと、俺は総合病院の処置室で目を覚ました。あたりを見渡すと、あのとき催眠ガスを吸った全員がそれぞれ医療処置を受けていた。小山内は眠りが深く、それから半日後に目を覚ました。
「早速で悪いんだけど、二、三聞き取りしたいから、あとで刑事課に一人ずつ来るように伝えてくれる?」
「は、はい。声、かけときます……順番に」
都築巡査の目を見られない。後ろ暗いことがあるからいっそう顔に出る。俺は沈黙を怖がって、俯いたまま訊ねる。
「結局、あの、か、かたゆでたまごは、捕まった、んですか?」
「いんや、取り逃がしちゃった。だぁから土橋課長、またキリキリしてんの。空気めちゃ悪だよ、覚悟してね」
うわぁ、聞き取りされたくない……。俺は苦笑いで「わかりました」と小さく返した。
「あとね。回収した盃に――」
ビクッと肩が震える。心臓が飛び出しそうだ。
あのときの、暗がりの中でライトに照らし出された彼女の顔をふっと思い出した。あんなに恐怖に怯えた彼女は初めて見た。それに、彼女がかたゆでたまごに加担していただなんてなにかの間違いであってくれと願わずにいられない。
どうか、瑠由ちゃんだとバレていませんように――。
「――キミの指紋がたっくさんついてて、正直めちゃめちゃ笑ったよ」
「へ……?」
「ん? なに、意外?」
「あ、い、いえっ。そ、そんなに握ったかな? ってのと、壊れてなくてよかったぁー、ってのとで、びっくりして、つい」
「あはは、でも本当にお手柄だったよ。よく奪取してくれた。ありがとう」
バシバシと肩を叩かれる。明らかに俺の方が背が高いから、都築巡査の手がよく肩に届いたなって感じだけれど。
「悪の組織に一人で立ち向かえたことは、キミの警察人生に於いて輝かしい功績のひとつとなるだろう!」
「あ、それ現場でもやってましたよね? 土橋課長のマネです?」
「ブフーッ、正解! 似てるだろ? きひひひ。知り合いの探偵さんにも好評なんだよぉ」
なんでもないような都築巡査に、俺はひとまず胸をなでおろした。都築巡査もそれ以上は言ってこないし、盃から彼女の痕跡が出なかった、ということでいいのだろうか。聞き取り調査のときに、ヘタを打たないよう心がけるしかない。
一方で。
瑠由ちゃんは、相変わらずグラビアモデルの仕事を続けている。それは雑誌で常々確認しているから知っていたことだ。
二十代後半にもかかわらず、あのボディスタイルは健在だ。二年前から年齢層がもう少し上の雑誌に移動になったことで、露出の際どさだって増えたけれど、表紙を飾る頻度は以前とさほど変わらない。
グラビアモデルの裏でかたゆでたまごをやっていた……ってことなのだろうか。どうして、いつから、なにが彼女にそうさせているんだ――訊きたいことは日増しに降り積もる。
俺が警察官を続けていれば、またいつか現場で会ってしまうのだろうか。そのとき、俺はどうするのだろう。
立ち寄ったコンビニで見かけた瑠由ちゃんの妖艶な笑みを手に取った俺は、巡り合いなる見えないものに対して初めて歯噛みした。
おわり
──────────────────────
佑佳作品
【28メートル先のキミへ】×【かたゆでたまご】
プロット考案:企画主・蟬時雨あさぎ さま
挑戦部門ゆるプロット ナンバー1
登場人物1人目
・性別 :男
・年齢帯:青年(20~29)
登場人物2人目
・性別 :女
・年齢帯:青年(20~29歳)
ジャンル:現代モノ
あらすじ:
「巡り合った男女」が
「奪われたものを取り返す」話
数日後。枝依中央署二階の廊下で都築巡査と鉢合わせた。相変わらず爽やかな笑みを湛えている。
「お疲れさまです、都築さん」
「後遺症とかない? 大丈夫?」
「はい、なんともないです。D班E班含め、眠ってしまったやつらもすっかり復帰してますし」
「そっか、よかった」
あのあと、俺は総合病院の処置室で目を覚ました。あたりを見渡すと、あのとき催眠ガスを吸った全員がそれぞれ医療処置を受けていた。小山内は眠りが深く、それから半日後に目を覚ました。
「早速で悪いんだけど、二、三聞き取りしたいから、あとで刑事課に一人ずつ来るように伝えてくれる?」
「は、はい。声、かけときます……順番に」
都築巡査の目を見られない。後ろ暗いことがあるからいっそう顔に出る。俺は沈黙を怖がって、俯いたまま訊ねる。
「結局、あの、か、かたゆでたまごは、捕まった、んですか?」
「いんや、取り逃がしちゃった。だぁから土橋課長、またキリキリしてんの。空気めちゃ悪だよ、覚悟してね」
うわぁ、聞き取りされたくない……。俺は苦笑いで「わかりました」と小さく返した。
「あとね。回収した盃に――」
ビクッと肩が震える。心臓が飛び出しそうだ。
あのときの、暗がりの中でライトに照らし出された彼女の顔をふっと思い出した。あんなに恐怖に怯えた彼女は初めて見た。それに、彼女がかたゆでたまごに加担していただなんてなにかの間違いであってくれと願わずにいられない。
どうか、瑠由ちゃんだとバレていませんように――。
「――キミの指紋がたっくさんついてて、正直めちゃめちゃ笑ったよ」
「へ……?」
「ん? なに、意外?」
「あ、い、いえっ。そ、そんなに握ったかな? ってのと、壊れてなくてよかったぁー、ってのとで、びっくりして、つい」
「あはは、でも本当にお手柄だったよ。よく奪取してくれた。ありがとう」
バシバシと肩を叩かれる。明らかに俺の方が背が高いから、都築巡査の手がよく肩に届いたなって感じだけれど。
「悪の組織に一人で立ち向かえたことは、キミの警察人生に於いて輝かしい功績のひとつとなるだろう!」
「あ、それ現場でもやってましたよね? 土橋課長のマネです?」
「ブフーッ、正解! 似てるだろ? きひひひ。知り合いの探偵さんにも好評なんだよぉ」
なんでもないような都築巡査に、俺はひとまず胸をなでおろした。都築巡査もそれ以上は言ってこないし、盃から彼女の痕跡が出なかった、ということでいいのだろうか。聞き取り調査のときに、ヘタを打たないよう心がけるしかない。
一方で。
瑠由ちゃんは、相変わらずグラビアモデルの仕事を続けている。それは雑誌で常々確認しているから知っていたことだ。
二十代後半にもかかわらず、あのボディスタイルは健在だ。二年前から年齢層がもう少し上の雑誌に移動になったことで、露出の際どさだって増えたけれど、表紙を飾る頻度は以前とさほど変わらない。
グラビアモデルの裏でかたゆでたまごをやっていた……ってことなのだろうか。どうして、いつから、なにが彼女にそうさせているんだ――訊きたいことは日増しに降り積もる。
俺が警察官を続けていれば、またいつか現場で会ってしまうのだろうか。そのとき、俺はどうするのだろう。
立ち寄ったコンビニで見かけた瑠由ちゃんの妖艶な笑みを手に取った俺は、巡り合いなる見えないものに対して初めて歯噛みした。
おわり
──────────────────────
佑佳作品
【28メートル先のキミへ】×【かたゆでたまご】
プロット考案:企画主・蟬時雨あさぎ さま
挑戦部門ゆるプロット ナンバー1
登場人物1人目
・性別 :男
・年齢帯:青年(20~29)
登場人物2人目
・性別 :女
・年齢帯:青年(20~29歳)
ジャンル:現代モノ
あらすじ:
「巡り合った男女」が
「奪われたものを取り返す」話
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる