C-LOVERS

佑佳

文字の大きさ
35 / 126
LUCK

1-1 clean up carefully

しおりを挟む
 日本──枝依市西区、柳田探偵事務所。


「あ」
 まただ。また事務所の戸棚から雑誌が出てきた。
 この前は女性ファッション誌。その前は何語だかわかんない言語の国発行のよくわかんない雑誌。だいぶ前のエンタメ雑誌も出てきたし、あ、触るなって言われたスクラップブックもあったな。
「ふーん?」
 裏、表、とくるくる見回して、目を細める。
 怪しい。なんかあるぞ、これ。

 私──服部若菜は、今しがた戸棚から発見した男性ファッション誌を睨んでいた。
 この事務所のヌシ……っていうか、帝王っていうか魔王っていうかラスボスっていうか。まぁそんなような肩書きが似つかわしい柳田探偵は、今日は朝から調査だかで不在にしてる。
 それをチャンスと思った私は、普段柳田さんが絶対ずぅぇったいに触らせてはくれない、事務机の真後ろの戸棚をガラッと開けてやった。だって、ここだけ唯一整頓されてないんだぞ。ガラス戸だからいっつも丸見えだし! すんごい腹立つ。何回言っても片付けてくんないし。せめて棚の中身は積むんじゃなくて背表紙をこっちに向けて並べてくれよ!

 とまぁ、愚痴はこのくらいにして。

 手にした雑誌をまじまじと見つめる私。柳田さんは、ファッションのファの字も気にしない人。なのにどうして、こんなのを買ったんだろう?
 発見された雑誌のチョイスには、統一性がない。中身を見ることは禁止されてるから、どういうことなんだかは、一見しただけじゃ何もわからない。
「うーん……」
 もともと、興味がそそられたものにホイホイされるのが、私の悪い癖。『わかっちゃいるけどやめられないっ、あそーれ!』ってなもんですよ、ノリとしては。
 あ、でも探偵業務に明らかに関わってるようなものには、絶対に触らないって決めてる。そこはちゃんと守る。
 どうしてかって? 興味が湧かないってのもあるけど、他人ひとのどろどろしたものになんて、もう関わりたくないから。

 そんなこんなで、柳田さんのカミナリより、好奇心の方がはるかに勝っちゃった私。てへー。
 で、手にした雑誌を敢えて悪気なく、パーラパーラ。
「あれっ」
 YOSSY the CLOWNが載ってる。なんか、インタビュー記事みたい。しかも和訳してあるやつだ。ほへー。


──────────────────────

 さて、この度有名ブランド『OliccoDEoliccO®️オリッコデオリッコ』の広報キャラクターとして選出されたYOSSYさん。なんでもデビュー以前から、『OliccoDEoliccO®️』の熱狂的ファンだという情報が入っています。

YOSSY「そうなんですよ、光栄なことです。当初はお受けするのをためらっていたのですが、古参ファンだと評していただけたのと、それこそサーカス団員の仲間から推されまして。踏みきらせていただきました」

 今日のお召し物も『OliccoDEoliccO®️』ですし、そちらのスーツは最新コレクションからでしょうか?

YOSSY「そうなんです。しかも、僕に似合う色で作っていただけました」

──────────────────────


 ああ、これ。YOSSYさんがソロデビューした頃のやつだ。YOSSYさんがいつも着てる『OliccoDEoliccO©️』っていう、世界で有名な高級服飾ブランドの宣伝キャラクターになったのも、この頃だったんだよな。
 さらりと一読した私。YOSSYさんの爽やか笑顔スマイルの写真をじとーっと眺めつつ、もう一回頭からインタビューを読んでみる。


──────────────────────

 今後は、母国である日本ジャポンにも帰られるということでしょうか。日本ジャポンにもファンは、当然のことながらいると思うのですが。

YOSSY「機会や、僕を求めてくださる声があれば、僕はそれこそボーダーレスに飛び回る心づもりですから、日本にも帰ることはあると思いますね」

 ご家族も喜ばれることでしょう。

YOSSY「アハハ、そうだといいのですが」

──────────────────────


「家、族」
 なかなか日本では公演をやらない、YOSSY the CLOWN。二週間前、私が楽屋に乗り込んだときが、YOSSYさんの四年振りの来日だったはず。
 あのYOSSY the CLOWNの血縁者なんて想像できないな。親も相当スタイリッシュな感じなのかな。ほとんど日本に帰ってこない息子を、どんな風に受け入れてんだろう。
「…………」
 いや、私は人のことどうこう言えない。だって、同じくらい私も実家には近寄ってないし、二度と帰るつもりもないし。
「家族、家族。ふー。家族ねぇ」
 どうでもいいか、あんなこと。血縁者だからなんだってぇのよ、ったく。
 パタン、と閉じたその雑誌。もとあったところへ、そっと、返す……あれ?
「えーっと。どこ、に、あったん、だっけ」
 ヤバい。わかんなくなっちゃった。柳田さんのことだからその辺にほったらかしにしてたら「テメー勝手に触っただろこのクソ!」とかなんとか言って睨んでくるに違いない。せめて、元のとおりに『積んで』おかなくちゃ。ゴッチャア、ってなるのマジで腹立つけど。
「んんん……」
 しまった。私はいつもこれだ。
 こうやって失敗を繰り返して、クビになったり破門になったりしてきたのに。あーあ。

 グラグラする目の前。滲む脂汗。

 別に、柳田さんに怒られるのが怖くてグラグラしてるわけじゃない。こういう些細なミスが重なって、いずれガツンと自分に降りかかってくる『大惨事ツケ』が怖いってだけ。トラウマというか、私のコンプレックス、みたいな。

 昔から私はそうなんだ。
 興味あるから、手を出してみる。ちょーっと上手くいって「ヒャッホイ!」って思っても、結局『大勢の中の一人』でしかないってことが明るみに出る。
 あのー、要するに、秀でてなにか出来た試しがないってことなワケ。
 私の『得意』は、誰かの『当たり前』レベルなの。既に。いつも。何に於いても。
 だからなんでもかんでも中途半端になっちゃうってのが、私のあんまりよくないところ。交遊関係だって、カケラも無いしね。

「あっ!」
 とんでもないタイミングだけど、『いいこと』思いついちゃった。
「ンっフフフ」
 にんまり、崩れる表情。この表情、誰にも見られてなくてよかったぁー! むへへ。

 私はそっと、棚の中に乱雑に積んであった他の雑誌も全ー部、手に取った。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...