C-LOVERS

佑佳

文字の大きさ
80 / 126
TRUST

3-5 checking still yet

しおりを挟む
「こちっこちらは、若菜さんと、わたしから、です。柳田さんへ、感謝の気持ちと、えと、『サプライズ返し』とを、したくて。えと、ちょっと若菜さんに、頑張っていただきました」

 薄灰色調ペールダークトーンという、鮮やかさには欠けるもののうるさすぎない色合いで、全体的に調和がとれているこの衣装コスチューム

 ライムグリーンのジレ型ベストとスーツパンツ。
 白のノーカラー襟なしシャツ。
 ミモザイエローのスカーフタイと風船帽キャスケットが、柔らかさを主張する。

 そして、ミモザイエローのワンピース。
 ふわり柔らかく軽そうな、全体的に丸みを帯びたデザイン。
 スカート部分は腰周りのみの飾り仕様、その中はライムグリーンのかぼちゃ様ショートパンツで、機能性が高い。
 寒くないよう、長袖のデザインに変更されているものの、善一はこのワンピースドレスに見覚えがあった。

「これ、あの時描いてた……」
「は、はい、そうです」
 紙袋を床に置き、両手でペア衣装を持ち上げる善一。ポカリと口を開けたまま、蜜葉を窺う。
「これをあの時、柳田さんに、見初みそめていただかなければ、わたし、今こうして、いられてません」
 俯きがちに言葉を忙しく並べる蜜葉へ、若菜はそっと背を叩いた。若菜の微笑に、ホッと一呼吸できた蜜葉。つられて口角が柔らかく上向く。
「あの、なのでその、そういう感謝も込めまして、ええと」

 善一が声をかけるに至った、きっかけのデザイン。
 YOSSY the CLOWNのパフォーマンスから沸き起こった創作アイディアで、無我夢中で描いたあの男女ペアのデザイン。
 善一も蜜葉も、忘れられるはずのない一枚で。

「そ、っか。うん。びっくりした、スゴく、とっても」
 両手の衣装へ薄い灰青ウェッジウッドブルー色レンズを向けたまま、辿々しく呟くYOSSY the CLOWN。しかし、YOSSY the CLOWNとしての仮面はとうに剥がれている。
「…………」
 左肘に二着の衣装を引っ掛け、その右手の長い五指が鼻から下を覆う。
 全面には女性陣と幼い双子サムとエニー、彼らに背を向けようにもそこには良二がいるわけで、『隠れ場』がない。

 照れ恥じらう顔面など、この場の誰にも見せられたものではない──善一は慌てた。慌てた分だけしかし反して、耳が赤く染まってしまう。

「あ」
 片眉を上げた若菜は、俯いたまま微動だにしなくなった善一に、既視感きしかんをおぼえた。

 編んだネクタイあげたときの柳田さんと、照れ方がそっくりだ──。

「ホントに双子なんだ」
「え?」
 小さくひとりごちた言葉を、しっかり蜜葉に聴かれてしまった。
「いっ、な、んでもない」
 慌てて視線を遠くへやるも、丁度そこには良二が居た。YOSSY the CLOWNの背後からチラチラと見えている長身に、若菜はぞわわと背筋が波打ち、勝手に頬を染める。
「あの、やな、柳田さん」
「え──あっ、いや『YOSSYさんだよSignorina』」
 まさかの『切り換えミス』に、目を丸くするサムとエニー。ようやく顔を上げた善一は、ギリギリの間隔でYOSSY the CLOWNとしての笑みを貼る。
「これの具現化と、お引き渡しが、とっておきサプライズ、でしたので、これにて、わたしの挑戦は、一旦おしまいです」
 緊張した面持ちながらも、ニコリ笑んでいる蜜葉。胸をピンと張った姿は、背を丸めて黙々と描き殴っていた少女とは思えないほどまでに、輝かしい。
 蜜葉へ耳を傾ける、五人。
「わたしは、わたしの全力以上を、お二人にも柳田さんにも、お渡ししました。だから、今後のわたしの、処遇を、お、お二人で、お決めください」
 サムとエニーへ向き直る蜜葉。くるりとした深い灰緑色の瞳がハテナと共に蜜葉へ上向く。
「ボクとエニーで?」
「は、はいっ。後悔がない今なら、ど、どんな評価も、受け止められる、気がしますから、ぜひに」
「蜜葉……」
 サムとエニーは見合い、目配せの後にYOSSY the CLOWNを振り返る。結論の出ている双子を見たYOSSY the CLOWNは、足元の紙袋へ衣装をしまい、わざと「あっ」と思い付いたような声を上げた。
「じゃあ、初舞台踏んでみよっか」
 右人指し指がピンと立つ。
 ハテナを浮かべる蜜葉と若菜。
 もっちりとした頬に笑みを刻むサムとエニー。
「丁度明日は祝日だし、路上パフォーマンスやろうかなーって、もともと話はしてたんだ。路上には、チケットとか席とか特に無いしね」
 そうして、いつもの調子で笑みを貼っているYOSSY the CLOWNと、その背後で赤茶けた頭髪をガシガシと掻く良二。するりと善一の背側から、事務机へとかかとを擦る。
「ターミナル駅の南口に小さい広場があるんだけど、蜜葉知ってる?」
「わ、わかります」
 訊ねてきたサムへ、蜜葉はガクガクと首肯しゅこうを返す。
 忘れられるわけもない。YOSSY the CLOWNと初めて出逢った、あの広場のことなのだから。
「ヨッシーが調べてくれたんだけど、そこ特に許可とか要らないらしいんだ」
「ストリートミュージシャン、とか、ダンサー、似顔絵師とか、いつも、居るんだよ」
「祝日ならより人も集まりやすいし、二人が最初のパフォーマンスをやってみるには、あの場所はうってつけかなと思って」
 YOSSY the CLOWNが双子から言葉を引き継ぎ、説明に至る。
「ガイコクジンのコドモ、が、人目を惹く、衣装コスチュームで、ストリートパフォーマンスする、なんて、ネット的話題性、ある」
「うん。蜜葉のデザイン着て、ボクたちが路上ストリートしたら、一気にどっちの評価も得られるよ」
 エニーとサムが言葉にして初めて、蜜葉は『大多数の他人に見られる』現実味を知った。
 緊張しないわけがない。規模の不明な重圧に、果たして耐えられるのだろうか──胃のあたりがジク、と痛む。
「これが、作品が世に出る、ってこと」

 以前のようなネガティブな感情が、すっかり無いわけではない。
 しかし、それすらも凌駕りょうがする昂揚こうよう感、先を楽しみにできる想い。それらが、蜜葉に永く巣食っていた恐怖心や卑下ひげの感情を、次々に浄化していくようで。

「──怖い?」
 エニーに問われ、見つめられ。蜜葉は生唾を呑んで、取り繕わない本音を紡ぐ。
「正直、怖いも、楽しみも、同居してます。でも、今感じてる怖さ、なんて、お二人からの、評価を戴くまでに比べたら、なんてこと、ありませんよ」
 きゅう、と胸の真ん中を握り締めると、頬の緊張がふにゃり、と弛んだ。つられてエニーも柔く笑む。
「ダイジョブ。無駄にしない、エニーもサムも」
「うん。今度はボクたちが、蜜葉のデザインがどんなに素敵なのかってことを、たくさんの人に伝える番だ」
 小さな二人の大きな言葉に支えられ、蜜葉は独りきりではない安心感にくるまれる。
 若菜へ視線を合わせ、すると若菜は嬉しそうに手を挙げた。
「はいっ! 二人のパフォーマンス、私も観に行きたいですっ」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...