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LOVE
5-4 CLOWN and MAGICIAN
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それぞれの利き手で、グラスやカップを手にする二人。湿る程度に含み、喉へ流し、窺い合うように一瞥し。
「俺は」
低い良二の声。吸い込んで、吐き出すと同時に言葉を乗せる。
「俺は別に、独りになんて、なりたくなかった」
「…………」
「あンときも、ヨシに出てって欲しくなかった」
「……うん」
「ホントは、その。ただ、どんなときもヨシに、俺の傍に居て欲しかっただけだった」
呟いた良二の言葉に、目を見開く善一。
「親がどっちも急に死んで、祖父まで死んで。そういうときにお前が傍に居たら、もっと……なんかこう、ちゃんと前向いたりして、強くいられたかもって」
良二の口の悪さの裏側を知り、鼻の奥がジンとする。
「悪態とか、そーゆーのでその、自分の本音、ずっと隠して生きてきたから、俺。悪ぶってないと、ガキの頃みたいにナメられるとか、無意識に思って、抜けなくて」
「わかるよ」
伏せていた視線を善一へ戻す。
「俺も、いろいろ恥ずかしいしカッコワリーから、笑顔貼って他の感情全部隠して生きてきたもん。そういうところも、ずーっと同じだったんだな」
肩を竦め、力なく微笑む善一。深い溜め息を吐き出した良二。
「俺、他人の気持ちが想像できねぇ分、会話で確実にわかっときてーなって、思うようになったんだ。ヨシとだってホントは、ずっと、言葉でハッキリ会話したいって、思ってたっつーか」
「うん。ありがと、良二」
「だ、大体いつもな、必要な言葉だけ足んねぇんだよ、お、お互いに」
「『お互いに』なのは、双子だからだよ」
「ま、そーなんだけど」
「あのさ」
「あ?」
「さっきから気になってたんたけど」
「なに」
「双子だとか同じだとか、否定しないね? 良二」
「そこをまた認めることから始めるって、決めたからな」
ゴニョゴニョ言う良二をクス、と笑えた善一。「そっか」と瞼を伏せて満足気に笑んだ。
「ねぇねぇそういや、中学ンときに二つ名あったよね」
「あ? 二つ名ァ?」
「『鬼の良二』ってやつ。フフッ」
「『仏の善一』に言われたかねー」
「俺、三回目にはぶちギレるっていう意味で仏だったらしいよ。フハハ」
「ハン、そのとーりじゃねーか。よくわかってンなぁ、呼び始めた奴も」
クスクスと笑む善一を見て、緩くわずかに、良二の口角が上がって。善一が視線を向けると同時に、しかしそれはまた元に戻ってしまった。
「良二」
「あ?」
「良二のがずっと、俺よりスゴい奴だよ」
「なっ。なんだ、急に」
「いやあ。言葉でハッキリ会話しておきたくなって。俺も」
自らの希望発案をなぞられると、照れ恥じらいのバロメーターが天を突き抜けるもので。赤くなった良二へ、善一はお構い無しに言葉を続ける。
「マジックはもちろんとして、気遣いできるし、経営管理だってちゃんとしてる。好き嫌いで判断しないし、ずっと大人で、偉いよ」
優しく柔らかな善一な声色は、常に隣にいた頃の彼を彷彿とさせた。
「ヨシは俺と違って、行動力あるだろ」
疼く声帯と、返したい欲求。良二は低くも恥じらいを混ぜた声を捻り出す。
「人望とか、人付き合いとか。あと、いろいろ言葉話せっから、マジに国境関係なく出来たり。父さんたちみたいに、出来てるし」
柔い善一の笑みに、久方振りに安堵する良二。慌てて首の後ろへ手をやった良二は、善一から視線を逸らした。
「よっ、ヨシが何でもかんでも教えなくたって、も、もう俺は、とっくにいろいろ、一人でやれるしだな。その、『俺のために』なんて、もうこの先、思わなくたっていい、から」
「そう? フフ。けどもうしばらくは、良二に笑ってもらえるように努めさせていただきますよ」
「俺より、アイツらのためにやってろ。その方が俺も……」
「ん?」
「俺も、気が楽っつーか、ヨシと対等で居られるようになれそう、っつーか」
耳を染め、良二の左掌が口元を緩く覆う。
「俺だってな、ヨシの仮面剥ぎ取りたくて、しゃーねんだからよ」
「良二……」
「パッ、芸人は、なにもお前みてぇなプロだけじゃ、ねんだよ。俺様みてぇなアマチュアだってな、ヤベー奴いんだかんな」
「フフ、はい。肝に銘じます」
「そっ、それからッ」
グリン、と返ってくる良二の真っ赤の顔面。
「お前、月末にステージ控えてたろ?」
「うん。よく知ってるね」
「ルセェ。それで、その」
「なに?」
「そのチケット、よこせ」
「ヤだよ」
「はあ?! テんメー、俺様がどんだけ……」
「『よこせ』ってのはダメだ。言語にはパターンがある、数字と違ってたったひとつしかないわけじゃない。バリエーションは沢山あるんだし、適切なものを正しく使うべきだ。だから、今のは世界のYOSSY the CLOWNに『頼む』姿勢だとは思えないね。いくら弟だとはいえ、ここは誠意ってもんが必要だろ?」
ペラペラとそう言い負かし、ニッタア、と悪い笑みを作る善一。
「はぁー、ったく!」
細長い左脚を高く組み、動いたかもわからないほど小さく小さく、その口先をモニャモニャとさせる良二。
「……枚、く」
「ええ? な、あ、にぃ?」
わざとらしく、右耳に掌を添えて身を寄せ、聞き返しで追い撃ち。
「に、ま、い、く、れっ!」
「うん、それならいいよ」
満足したのか、黒い笑顔でにんまりの善一。チッと大きな舌打ちで照れを紛らわす良二。
「ん? なんで二枚?」
「ルセェ、黙って流せ」
「え、なに、まさかマジでマジなの?」
「あ? 曖昧に言うな意味わかんねー」
「え、ハッキリ言っていいわけ? ていうかなんで? どこで?」
「どっ、だ、別に、なんでもねーしテメーに関係ねーだろーがっ」
「関係あるよ。そういうことなら、兄として家族会議に発展させるからね」
「発展させんな、ややこしくなんだろーが。大体まだなんもなってねーし」
「いいや聞かしてもらうよ。いずれ彼女は俺ンとこに弟子入りしに来るんだ。そうなったときに良二にぐちゃぐちゃ言われたくない。っていうか良二最近柔らかくなったのってそういうことだったの?」
「柔らかくなったってなんだ、軟体動物じゃねんだよ。つーか別にぐちゃぐちゃ言わねーし! そもそもアイツはお前ンとこに戻さねぇことにしたかんな」
「はぁーん? 俺への報告はなぁんにもなしでそっちで仲良くなった挙げ句戻さないときた。だぁからそんな色のネクタイをお締めになってらっしゃる。はぁー、なるほど、なるほど」
「あ? そんな『色』? 何のことだ」
「色の名前。え、知らないし無意識?」
「はぁ? 緑だろーが」
「若草色っつーんだよ」
「若っ、若く、さ?」
「うん。で、もうひとつ『若』から始まる別称もある」
「なんか嫌な予感すっからそれ以上口開くんじゃねー」
「別称はぁ……」
「だあーったく! やっぱり来んじゃなかった!」
いつの間にか、夜空に立ち込めていた黒く厚い雲は消え、雨もすっかり止んでいた。
今宵の月は、まあるい満月。
それは高く、スポットライトの一筋に似ていた。
♧
リビングへ続く扉は、キイとも鳴かぬよう慎重に慎重を重ねた二人によって、やがて閉じられた。
「はぁー、どうなるかと思った」
「でも、仲直りしたみたいで、良かった」
こそこそと声量を抑えているのは、大人双子にすっかり眠ったと思い込まれていた、幼い双子。
「兄弟は仲良しの方がいいに決まってるよ」
ドアノブからそっと手を離したサム。エニーへ笑みを向ける。
「アタシは、いつまでもサムのこと、助けるよ」
「な、んだよ。ボクがエニーを助けるんだから」
「二人の話、聞いてなかったの?」
「どういうこと?」
「アタシも、サムの背中に隠れるの、卒業するんだもん」
見つめられた妹のまなざしに、既視感があるサム。ボソボソとそれを告げてみる。
「エニーはさ、リョーちんに似てるね」
「そう?」
「うん。勝手にどんどん進んでったり、物事の本質を大切にしてるところとか」
「アタシが進まないと、サムは、アタシを振り返ってばかりに、なっちゃうもん」
ぽん、と自室へ一歩進むエニー。ブロンドの柔らかな髪が空気を抱き込んで、翻る。
「アタシはいつも、ずっとサムの隣にいるよ」
「うん。二人で手を繋いで、進めばいいよね」
伸べられるエニーの左手。掴まえるサムの右手。ほぼ同じ大きさのそれは、繋いでいるだけで暖かみが増す。
身近な四人の大人たちから降り注がれる愛情が、二人の身を常に包んでいて。
「エニー」
「ん?」
「二人で、世界を変えよう」
「うん。ステージには、いつも絶対、二人で立つの」
「蜜葉の衣装でね」
「もちろん」
「イギリスにも、いつか行けるといいね」
「アタシたちも、ヨッシーよりもスゴい、チャリティーやるの」
「二人でなら、出来るよね」
「出来る、出来る」
肩を縮めて、クスクスと笑んで。未来を待ち遠しく想えるようになれた、二人の幸福。
「そろそろ寝よっか」
「うん。朝眠そうにしてたら、ヨッシー心配するね」
振り返り、リビングへ続く扉をわずかに開ける。音を立てないよう、慎重に慎重を重ねる二人。
「まだぎゃいぎゃいやってる」
「やらせておけばいいよ。せっかく仲直り、したんだもん」
極小ボリュームの声を、ぴたりと重ねる二人。
「おやすみなさい。ヨッシー、リョーちん」
「俺は」
低い良二の声。吸い込んで、吐き出すと同時に言葉を乗せる。
「俺は別に、独りになんて、なりたくなかった」
「…………」
「あンときも、ヨシに出てって欲しくなかった」
「……うん」
「ホントは、その。ただ、どんなときもヨシに、俺の傍に居て欲しかっただけだった」
呟いた良二の言葉に、目を見開く善一。
「親がどっちも急に死んで、祖父まで死んで。そういうときにお前が傍に居たら、もっと……なんかこう、ちゃんと前向いたりして、強くいられたかもって」
良二の口の悪さの裏側を知り、鼻の奥がジンとする。
「悪態とか、そーゆーのでその、自分の本音、ずっと隠して生きてきたから、俺。悪ぶってないと、ガキの頃みたいにナメられるとか、無意識に思って、抜けなくて」
「わかるよ」
伏せていた視線を善一へ戻す。
「俺も、いろいろ恥ずかしいしカッコワリーから、笑顔貼って他の感情全部隠して生きてきたもん。そういうところも、ずーっと同じだったんだな」
肩を竦め、力なく微笑む善一。深い溜め息を吐き出した良二。
「俺、他人の気持ちが想像できねぇ分、会話で確実にわかっときてーなって、思うようになったんだ。ヨシとだってホントは、ずっと、言葉でハッキリ会話したいって、思ってたっつーか」
「うん。ありがと、良二」
「だ、大体いつもな、必要な言葉だけ足んねぇんだよ、お、お互いに」
「『お互いに』なのは、双子だからだよ」
「ま、そーなんだけど」
「あのさ」
「あ?」
「さっきから気になってたんたけど」
「なに」
「双子だとか同じだとか、否定しないね? 良二」
「そこをまた認めることから始めるって、決めたからな」
ゴニョゴニョ言う良二をクス、と笑えた善一。「そっか」と瞼を伏せて満足気に笑んだ。
「ねぇねぇそういや、中学ンときに二つ名あったよね」
「あ? 二つ名ァ?」
「『鬼の良二』ってやつ。フフッ」
「『仏の善一』に言われたかねー」
「俺、三回目にはぶちギレるっていう意味で仏だったらしいよ。フハハ」
「ハン、そのとーりじゃねーか。よくわかってンなぁ、呼び始めた奴も」
クスクスと笑む善一を見て、緩くわずかに、良二の口角が上がって。善一が視線を向けると同時に、しかしそれはまた元に戻ってしまった。
「良二」
「あ?」
「良二のがずっと、俺よりスゴい奴だよ」
「なっ。なんだ、急に」
「いやあ。言葉でハッキリ会話しておきたくなって。俺も」
自らの希望発案をなぞられると、照れ恥じらいのバロメーターが天を突き抜けるもので。赤くなった良二へ、善一はお構い無しに言葉を続ける。
「マジックはもちろんとして、気遣いできるし、経営管理だってちゃんとしてる。好き嫌いで判断しないし、ずっと大人で、偉いよ」
優しく柔らかな善一な声色は、常に隣にいた頃の彼を彷彿とさせた。
「ヨシは俺と違って、行動力あるだろ」
疼く声帯と、返したい欲求。良二は低くも恥じらいを混ぜた声を捻り出す。
「人望とか、人付き合いとか。あと、いろいろ言葉話せっから、マジに国境関係なく出来たり。父さんたちみたいに、出来てるし」
柔い善一の笑みに、久方振りに安堵する良二。慌てて首の後ろへ手をやった良二は、善一から視線を逸らした。
「よっ、ヨシが何でもかんでも教えなくたって、も、もう俺は、とっくにいろいろ、一人でやれるしだな。その、『俺のために』なんて、もうこの先、思わなくたっていい、から」
「そう? フフ。けどもうしばらくは、良二に笑ってもらえるように努めさせていただきますよ」
「俺より、アイツらのためにやってろ。その方が俺も……」
「ん?」
「俺も、気が楽っつーか、ヨシと対等で居られるようになれそう、っつーか」
耳を染め、良二の左掌が口元を緩く覆う。
「俺だってな、ヨシの仮面剥ぎ取りたくて、しゃーねんだからよ」
「良二……」
「パッ、芸人は、なにもお前みてぇなプロだけじゃ、ねんだよ。俺様みてぇなアマチュアだってな、ヤベー奴いんだかんな」
「フフ、はい。肝に銘じます」
「そっ、それからッ」
グリン、と返ってくる良二の真っ赤の顔面。
「お前、月末にステージ控えてたろ?」
「うん。よく知ってるね」
「ルセェ。それで、その」
「なに?」
「そのチケット、よこせ」
「ヤだよ」
「はあ?! テんメー、俺様がどんだけ……」
「『よこせ』ってのはダメだ。言語にはパターンがある、数字と違ってたったひとつしかないわけじゃない。バリエーションは沢山あるんだし、適切なものを正しく使うべきだ。だから、今のは世界のYOSSY the CLOWNに『頼む』姿勢だとは思えないね。いくら弟だとはいえ、ここは誠意ってもんが必要だろ?」
ペラペラとそう言い負かし、ニッタア、と悪い笑みを作る善一。
「はぁー、ったく!」
細長い左脚を高く組み、動いたかもわからないほど小さく小さく、その口先をモニャモニャとさせる良二。
「……枚、く」
「ええ? な、あ、にぃ?」
わざとらしく、右耳に掌を添えて身を寄せ、聞き返しで追い撃ち。
「に、ま、い、く、れっ!」
「うん、それならいいよ」
満足したのか、黒い笑顔でにんまりの善一。チッと大きな舌打ちで照れを紛らわす良二。
「ん? なんで二枚?」
「ルセェ、黙って流せ」
「え、なに、まさかマジでマジなの?」
「あ? 曖昧に言うな意味わかんねー」
「え、ハッキリ言っていいわけ? ていうかなんで? どこで?」
「どっ、だ、別に、なんでもねーしテメーに関係ねーだろーがっ」
「関係あるよ。そういうことなら、兄として家族会議に発展させるからね」
「発展させんな、ややこしくなんだろーが。大体まだなんもなってねーし」
「いいや聞かしてもらうよ。いずれ彼女は俺ンとこに弟子入りしに来るんだ。そうなったときに良二にぐちゃぐちゃ言われたくない。っていうか良二最近柔らかくなったのってそういうことだったの?」
「柔らかくなったってなんだ、軟体動物じゃねんだよ。つーか別にぐちゃぐちゃ言わねーし! そもそもアイツはお前ンとこに戻さねぇことにしたかんな」
「はぁーん? 俺への報告はなぁんにもなしでそっちで仲良くなった挙げ句戻さないときた。だぁからそんな色のネクタイをお締めになってらっしゃる。はぁー、なるほど、なるほど」
「あ? そんな『色』? 何のことだ」
「色の名前。え、知らないし無意識?」
「はぁ? 緑だろーが」
「若草色っつーんだよ」
「若っ、若く、さ?」
「うん。で、もうひとつ『若』から始まる別称もある」
「なんか嫌な予感すっからそれ以上口開くんじゃねー」
「別称はぁ……」
「だあーったく! やっぱり来んじゃなかった!」
いつの間にか、夜空に立ち込めていた黒く厚い雲は消え、雨もすっかり止んでいた。
今宵の月は、まあるい満月。
それは高く、スポットライトの一筋に似ていた。
♧
リビングへ続く扉は、キイとも鳴かぬよう慎重に慎重を重ねた二人によって、やがて閉じられた。
「はぁー、どうなるかと思った」
「でも、仲直りしたみたいで、良かった」
こそこそと声量を抑えているのは、大人双子にすっかり眠ったと思い込まれていた、幼い双子。
「兄弟は仲良しの方がいいに決まってるよ」
ドアノブからそっと手を離したサム。エニーへ笑みを向ける。
「アタシは、いつまでもサムのこと、助けるよ」
「な、んだよ。ボクがエニーを助けるんだから」
「二人の話、聞いてなかったの?」
「どういうこと?」
「アタシも、サムの背中に隠れるの、卒業するんだもん」
見つめられた妹のまなざしに、既視感があるサム。ボソボソとそれを告げてみる。
「エニーはさ、リョーちんに似てるね」
「そう?」
「うん。勝手にどんどん進んでったり、物事の本質を大切にしてるところとか」
「アタシが進まないと、サムは、アタシを振り返ってばかりに、なっちゃうもん」
ぽん、と自室へ一歩進むエニー。ブロンドの柔らかな髪が空気を抱き込んで、翻る。
「アタシはいつも、ずっとサムの隣にいるよ」
「うん。二人で手を繋いで、進めばいいよね」
伸べられるエニーの左手。掴まえるサムの右手。ほぼ同じ大きさのそれは、繋いでいるだけで暖かみが増す。
身近な四人の大人たちから降り注がれる愛情が、二人の身を常に包んでいて。
「エニー」
「ん?」
「二人で、世界を変えよう」
「うん。ステージには、いつも絶対、二人で立つの」
「蜜葉の衣装でね」
「もちろん」
「イギリスにも、いつか行けるといいね」
「アタシたちも、ヨッシーよりもスゴい、チャリティーやるの」
「二人でなら、出来るよね」
「出来る、出来る」
肩を縮めて、クスクスと笑んで。未来を待ち遠しく想えるようになれた、二人の幸福。
「そろそろ寝よっか」
「うん。朝眠そうにしてたら、ヨッシー心配するね」
振り返り、リビングへ続く扉をわずかに開ける。音を立てないよう、慎重に慎重を重ねる二人。
「まだぎゃいぎゃいやってる」
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